職権探知主義と前田元検事の調書採用
2011年6月1日 カテゴリー:司法制度
小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の収支報告をめぐる政治資金規正法違反で,東京地裁の裁判長が職権により前田元検事が作成した被告人大久保隆規の検事調書が証拠採用されました。
刑事裁判の原則は,当事者主義といって,当事者である検事や弁護士が請求した証拠についてのみ裁判所が採否の判断をするのです。これに対し,当事者の請求に縛られずに,裁判所が真実発見のために証拠を使用して取り調べていく法制を「職権探知主義」と言います。
この前田元検事の検事調書は,同元検事の不祥事を受けて検察官が証拠請求をしていませんでした。ですから,当事者主義の原則からいうと,公判で取調べられることはありませんし,マスコミもそのように予想していたのではないでしょうか。
ところが,それを裁判所が職権により,証拠採用したのです。
もとより,当事者主義刑訴法を標榜する現行法にあっても,一部補充的に職権主義の余地を残しています。例えば,刑訴法298条2項で職権証拠調べが認められているのです。今回の前田元検事の調書を証拠採用したのは,この条文が根拠になります。
問題は,裁判所があえて職権探知主義を発動してまでも前田元検事の検事調書を採用した意図はどこにあるかです。この調書の内容は事実関係を認める内容であって,信用性はともかく任意性には問題がない調書に見受けられます。裁判所の心証が有罪に傾いているような気がします。
良い起訴状と変な起訴状
2011年4月1日 カテゴリー:司法制度
私が検察官であったころ,事件捜査に携わり,証拠を収集して被疑者を起訴していましたが,よく決裁官の指導検事に
「良い起訴状というのは安心だ。一読してなるほどそういう事件かと思わせる起訴状が良い起訴状だ。これは安心して決裁できる。しかし,一読して変な起訴状は心配だ。そんな変な起訴状は,大抵,事件の筋を見誤っているか,捜査が足りていない。」
などとよく言われていました。これは当たっていると思います。
起訴状だけでなく,判決も同じです。
南馬込放火殺人事件の判決は,いかにも変な判決文です。その要旨は:
「被告人は,被害者に対し,殺意をもって,被告人自身の服に火をつけて被害者に抱きつくか,または,被害者の服に火をつけてそれに被告人自身が抱きついて,被害者を殺害した」
なんですか,これ????
私の決裁官だった上司の検事であったら,絶対に決裁を与えない類のものです。
南馬込放火殺人事件―判決,そして控訴
2011年3月28日 カテゴリー:司法制度
主任弁護人として関わっている南馬込放火殺人事件の判決が3月25日,東京地裁刑事12部で言い渡されました。
無罪主張を退け,懲役16年(求刑同20年)という不当な判決で,本日,当然のことながら控訴を申し立てました。
判決理由の中では,証人に立った警察官2名の偽証を認定し,うち警察官1名の証憑隠滅も認定している上,目撃証人の偽証を認定しているので,検察が「事実誤認」で控訴するかどうかその動きを注視すべきでしょう。
検察内では,量刑について「結果オーライ」で控訴しない,という大勢となるかもしれませんが,目撃者や警察官が偽証等として認定された判決を控訴せず,この者らに対する犯罪捜査もしないというのは,犯罪者擁護も等しく,後で,これらの者が偽証,証憑隠滅,放火殺人等で告訴された場合の処理に困ることになるでしょう。
ところで,何故,マスコミは,この証拠偽造や偽証に関する報道をしないのでしょう?前田検事事件とまったく同じ性質のスキャンダルなのに全く報道がなされないのはどうしてでしょうか?
被告人が有罪となり犯人と認定されたから少しくらいの違法は目をつぶろうということなのでしょうか。
災害報道も大切ですが,国家権力に対する監視がマスコミの第一の使命ではないでしょうか?
東日本大震災
2011年3月24日 カテゴリー:司法制度
今回の大震災で罹災された方々に心よりお見舞いと哀悼の意を捧げます。
瓦礫と化した変わり果てた町,家族を奪われ,住む家を奪われた多くの方々。
今年のお正月に新年を迎えたとき,誰がこのような惨事を予想したでしょうか。
北海道函館出身の私が報道を通じてこの惨状を目にしたとき,口下手で田舎者だけと実直で正直で真面目な東北の人々が,何故このような目に遭わなければならないのかという思いが頭をよぎりました。
東京人は買占めに走り,そのせいで必要な物資が被災者に届かないというではありませんか。東京では義援金名目で詐欺が横行しているというではありませんか。
しかし,次の日本の未来を引っ張っていく指導者群は,今,家族を亡くし,家も財産も失い,大切なものを徹底的に奪われた東北の青少年の中からこそ生まれるような気がします。涙で目を腫らしながらもしっかりと前を見据え,口を真一文字にしている彼らの顔つきを見ているとそう感じます。
東北は次の日本国家の人材の宝庫となるでしょう。その手助けを今しなければならないと思います。
「戦車 対 戦車」
2011年3月2日 カテゴリー:司法制度
平成21年5月,裁判員裁判が始まりました。
それまでの数年間,検察庁は,国家的プロジェクトとして組織的に裁判員裁判対策に取り組んでいました。それに対し,相変わらず個人商店のままの刑事弁護人との闘いは,「戦車 対 竹槍」に例えられる状況にありました。
このような状況を打開し,少なくとも「戦車 対 戦車」のレベルにまで刑事弁護の能力を高めようと設立されたのがNICDです。
そして,その真価を発揮する機会がようやく訪れました。
NICDが初めて臨む裁判員裁判。NICDの第1号裁判員裁判の公判がいよいよ来週,3月7日から25日の予定で東京地裁で開かれます。
私が主任弁護人を務める現住建造物等放火,殺人被告事件がそれです。
平成21年9月3日発生した大田区南馬込の民家での火災。この火災で一名の女性が焼死しますが,放火殺人犯としてその女性の長男の渡邉雄一郎君が平成22年3月3日に逮捕されました。
同年3月24日に放火殺人で起訴され,東京地方裁判所刑事第12部に係属し,約1年あまりの公判前整理手続を経ての本番です。
冤罪を訴えている完全否認事件であり,裁判員裁判始まって以来最大の検察と弁護士の激突となるでしょう。
「戦車 対 竹槍」ではなく,「戦車 対 戦車」の激突です。
NICDの裁判員裁判初陣となるこの事件で,必ず無罪を勝ち取り,無辜の青年を国家刑罰権の恐怖から救い出します。
3月7日(月)午前10時開始
東京地裁806号法廷
被告人 渡邉雄一郎




