‘刑事司法’ カテゴリーのアーカイブ

取り調べ可視化、全事件で実施を 民間5委員が意見書

2014年3月14日 Filed under:刑事司法

今日は,「取り調べの可視化」に関する記事です。

刑事司法の見直しを検討している法制審議会(法相の諮問機関)特別部会の7日の会合で、民間委員6人のうち5人が、試行段階にある取り調べの録音・録画(可視化)に関し、対象を原則として全事件に広げることを求める意見書を出した。

意見書は郵便不正事件で無罪となった厚生労働省事務次官の村木厚子委員ら5人の連名。まず検察の取り調べから実施し、段階的に警察の調べに広げることを提案した(2014/3/7 21:12日本経済新聞)。

取り調べの可視化とは,検察や警察の密室での取り調べを録画・録音し、透明性を確保することをいいます。
検察による取り調べの可視化は,平成18年から試行を開始し,現在では裁判員制度対象事件であって,自白調書を証拠調べ請求することが見込まれる事件について,被疑者の取調べの録音・録画を行っています。
また,警察においても,平成20年から,裁判員制度対象事件における取調べの一部の録音・録画の試行を開始しています。
統計によると,これまで(平成20年4月~平成22年3月)の検察における録音・録画の実施件数は3791件で,このうち公判において証拠として採用された事件は51件です。また,そのなかで48件については自白の任意性が肯定され,2件については任意性が否定されています(法務省「被疑者取調べの録音・録画の在り方について~これまでの検討状況と今後の取組方針~」より)。

可視化の導入について,日弁連などは,①取調べの適正を確保し誤判の発生を防ぐこと,②裁判員制度の下における自白の任意性の判断を容易にすること,などの理由からその導入に積極的です。
一方で,捜査機関などは可視化の導入に慎重な態度を示しています。その主な理由としては,①共犯者がいる事件などの場合、共犯者について供述しづらくなること,②実際に自白等の任意性が争われる事件は僅かであるにもかかわらず,莫大な公費を使用して取調べの録音・録画を実施することは割に合わないこと,などを挙げています。

取り調べの可視化は拡大し,進めるべきです。共犯者に関する取調べ・供述の場合,部分的に可視化を解除する方法なども検討して良いでしょう。また,取調べ全過程の可視化がコスト的に難しいとしても,全事件について,初動の弁録時と供述調書の読み聞かせ時の録画録音は必須だと思います。

「殺してほしい」と言われた…父絞殺の長男

2014年1月28日 Filed under:刑事司法

今日は,「介護問題」に関する記事です。

北海道中標津町で21日、無職Mさん(83)が自宅で絞殺された事件で、殺人容疑で逮捕された長男(57)が、道警中標津署の調べに対し、「介護で疲れて、首を絞めた」と供述していることがわかった。

同署は動機を慎重に調べている。

長男は「父親から『これ以上迷惑かけるわけにはいかない。殺してほしい』と言われた」とも供述しているという。

中標津署や中標津町によると、Mさんは認知症になり、2009年に要介護認定を受け、週2回ほど、町内の介護施設のデイサービスを利用していた。夜に徘徊することもあり、当初は長男が夫婦で世話をしていた。長男は約2年前に妻と死別後、仕事を辞め、1人で介護をしていた(2014年1月23日11時56分 読売新聞)。

近年,介護疲れに伴う事件が後を絶たちません。介護の疲れやストレスは一人で抱えるには重過ぎるものであり,本件も,介護の疲れから起きた悲劇的な事件であるといえます。
殺害を依頼されたという容疑者の話が真実であれば,同情を禁じ得ません。介護の問題は,高齢化社会の問題を抱える日本において,国家全体で取り組むべき課題です。現在,介護サービスの拡充や,高齢者の医療費の全額負担等,官民一体となってさまざまな取り組みがなされていますが,それでも未だ十分とはいえないのが実情です。その社会的なインフラの不十分さを,今回のような事件において司法がどのように量刑に反映させて良いものか,刑事裁判に携わる者として常に悩む問題です。

「逃走罪」は適用されず 量刑に影響か

2014年1月15日 Filed under:刑事司法

今日は,「逃走罪」に関する記事です。

S容疑者は勾留手続きを終える前に逃げ出したため刑法の逃走罪は適用されないが、逃走の事実は裁判で不利に働く可能性が高く、逃走の“代償”は負うことになりそうだ。

S容疑者が逃走した7日午後2時16分の時点で、検察は警察から身柄の送致を受けたばかりで、勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった。

逃走罪が適用されるのは、勾留中の容疑者や被告、もしくは刑が確定して服役中の受刑者が身柄が置かれている施設から逃走した場合だ。平成24年1月に広島刑務所から逃亡した中国籍の受刑者には、同罪が適用された。

こうした状況から、逃走容疑での現行犯逮捕はできない上、1度目の逮捕状は執行されて効力を失っていることから、捜査当局は集団強姦容疑などでの逮捕状を再取得し、S容疑者の行方を捜していた。

S容疑者は、逃走した行為自体は罪に問われないが、集団強姦などの罪で起訴された場合、裁判での情状面で不利に働く可能性が高い。検察幹部は「勾留される前に逃走した事実は重い。当然、量刑にも影響してくるだろう」と話している(2014.1.9 20:46産経新聞)。

逃走罪(刑法97条)は,裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走した場合に成立します。本条にいう,「未決の者」とは,勾留状によって,刑事施設又は留置施設に拘禁されている被告人又は被疑者をいい,逮捕された者は含まれない(札幌高判昭和28・7・9)と解されています。したがって,記事にも書かれているように,勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった今回の場合,逃走罪の適用はありません。
本結論は,捜索に多くの人員や費用を割き,近隣の住民を不安に陥らせたことなどからすると,納得できない方も多いと思います。しかし一方で,今回の一事をもって適用範囲が安易に解釈によって拡大されることも避けなければなりません。
今回の事件を契機に,改めて慎重な議論がなされることを望みます。

更生保護システム

2013年10月23日 Filed under:刑事司法,司法制度

今日は「更生保護」について取り上げます。

法務省は25日までに,万引きや無銭飲食など比較的軽い罪で起訴猶予処分が見込まれる容疑者に保護観察官が面談し,社会復帰を支援する取り組みを,全国7カ所の保護観察所で10月から試行すると発表した。

7カ所は仙台,福島,水戸,富山,広島,高松,熊本の各保護観察所。軽微な犯罪を繰り返す「累犯障害者」を生まないようにするのが目的。これまでは起訴猶予処分後に面談していたため,時間的制約から受け入れ先の確保が困難だった。

法務省保護局によると,制度の対象は知的障害がある容疑者や高齢の容疑者。検察官が,処罰するよりも福祉につなげたほうが本人の更生に役立つと判断した場合,本人の同意を得て保護観察所に連絡。保護観察官が起訴猶予処分の数日前から面談し,民間の更生保護施設や金銭貸与制度などの福祉サービスを紹介する。

累犯障害者の再犯防止対策を巡っては,仙台,大津,長崎の3地検で,福祉の専門家らでつくる「障がい者審査委員会」の助言を刑事処分の判断材料とする試みを進めている。東京地検は社会福祉士を採用し,アドバイスを受けている(2013年9月25日11時35分 日本経済新聞)。

更生保護法1条は,「犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、恩赦の適正な運用を図るほか、犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定しています。犯罪をした人は,「施設内処遇」と「社会内処遇」という形で,処遇を受けることになりますが,このうち,「施設内処遇」は,刑務所などの刑事施設や少年院で行われるものです。そして,今回の記事で取り上げられている更生保護システムは「社会内処遇」に分類されます。刑務所内で矯正を図るよりも,実際に社会に復帰させたうえで更生を図り,再犯を防止させる方が,本人にとっても社会全体の利益にとっても良いと判断された場合に,社会内処遇が行われるのです。

ここ30年間で60歳以上の検挙人員数が約7倍に増加し,新受刑者の約25%に何かしらの障害を抱えている疑いがあるなど,犯罪をした人の中に,高齢者や障害を抱えた人が,近年急増しているそうです。景気が低迷し,ただでさえ就職先を見つけるのが難しい現代社会にあって,犯罪をしてしまった人が,出所後に定職を見つけることは困難を伴います。高齢者や障害を抱えた人ならば,殊更でしょう。短期的な仕事さえも見つからない場合には,日々の生活資金も確保できず,結果として,窃盗を行って飢えをしのぐなど再犯に及んでしまうこともあります。これを裏付けるように,無職の刑務所出所者等の再犯率は,有職の者と比べて約5倍にも及ぶというデータもあります。このような悪循環を断ち切り,彼らの社会復帰を支援するために,更生保護施設等による就労支援や雇用確保に向けたシステム構築がとても重要なのです。

弁護士や検察官などの法曹関係者は,逮捕されてから裁判にかけられ,判決を下されるまでの刑事手続きの過程について特に強い関心を持ち,その後,犯罪をした人がいかにして社会復帰を果たすかという点については,あまり目を向けてきませんでした。民間の更生保護施設を運営する方の話では,施設に弁護士が訪ねてきたことは今まで一度もないともおっしゃっていました。今回の記事では,起訴猶予処分を受けた人の中でも,知的障害を抱えた方や高齢の方を対象に,社会復帰支援をするシステムの試運転をするとのことです。弁護士も,依頼者が犯した犯罪の防御,寛刑処分の獲得という本来の活動に付随して,若しくは,一体となって,再犯防止のための福祉環境の整備という視点でも貢献が求められていると思います。そのような環境整備が,ひいては依頼人の刑事処分にも大きな効果を上げられると思うからです。いずれもしても,彼らが無事に社会復帰を果たし,今後二度と同じ過ちを繰り返さないよう,社会内で安定した地位を確立するまでサポートできるような更生保護ネットワークの構築が,より充実したものになることを願っています。

医療過誤と刑事責任

2013年9月30日 Filed under:事件,刑事司法

神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で2008年,乳がん手術を受けた40代の女性患者に医療ミスで脳障害などを負わせたとして,業務上過失傷害罪に問われた当時の麻酔科医の男性被告(44)に,横浜地裁は17日,無罪判決(求刑罰金50万円)を言い渡した。

判決理由で,毛利晴光裁判長は被告が全身麻酔の患者を常時監視する注意義務を怠った,との検察側主張について「国内の麻酔担当医が常時監視しているとは必ずしも言えない」と指摘。「不十分な捜査のまま起訴したという疑問がある」と述べた。

弁護側は,常時監視は麻酔科学会の指針で,目標にすぎないとして無罪を主張していた。

起訴状によると,被告は08年4月,女性患者の乳がん手術で,全身麻酔をした後に適切な引き継ぎをしないまま退室。麻酔器の管が外れたため約18分間にわたり酸素供給が止まり,患者に高次脳機能障害と手足のまひを負わせたとした(2013年9月17日11時37分 日本経済新聞)。

大野病院事件や杏林割箸事件など,重大な医療過誤事件が相次いで発生し,医師や看護師等の刑事責任の行方が,社会的な関心を集めてきました。医療過誤事件の場合,以前は損害賠償請求事件などの民事事件だけが主として問題となっていました。刑事事件では,医療過誤は一種の聖域のような状況にあったのです。しかし,世間の医療過誤に対する関心が高まるにつれて,患者側も積極的に告訴状や被害届を提出するようになり,刑事事件として取り扱われるケースも増えてきています。また,ときには,警察は逮捕権を行使して医師を逮捕することすらあります。
上記記事の事件では,麻酔科医の男性が,全身麻酔の患者を常時監視していなかったという点で過失があったのではないか,として業務上過失傷害罪に問われているのです。

医療行為は,患者の生命を繋ぎ止め,心身の状態を少しでも良好なものにするという目的を達成するために,患者の身体に対して直接的に働きかける性質を持ちます。そのため,医療行為それ自体が,患者の生命・身体への危険を内包するものであって,難病治療等のために高度な医療技術を駆使するほどに,その危険性は増大するのです。何等かのハプニングがあって最善の医療活動を尽くせなかった場合に,常に刑事責任を追及されてしまうような事態となれば,医師や看護師は,高度な技術を必要とするリスクの高い医療行為を避けることになるでしょう。そうなれば,本来救われる可能性のあった患者の命が救われないような事態も生じかねません。
1件でも不当な裁判により医師が処罰されれば,医療界は崩壊するとまで言われています(弁護士・棚瀬慎治氏に聞く─「医師を必ず起訴」という新ルートが誕生─改正検察審査会法が施行間近、“医療事故調”議論にも影響)。

このような観点からは,医療過誤の裁判にあっては,患者側の視点とともに専門家(医師)側の視点をも取り入れた公正な判断が求められます。その意味で,医療現場の実態を踏まえて,「国内の麻酔担当医が常時監視しているとは必ずしも言えない」として検察の主張を退けた今回の判断は,評価すべきでしょう。
検察は,その「被害者とともに泣く」という正義感ばかりが先行し,医療現場の実態をしっかり把握検証するという捜査の基本を怠ったと言えます。
 

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