‘刑事司法’ カテゴリーのアーカイブ

DNA型鑑定

2013年9月18日 Filed under:事件,刑事司法,刑事弁護

今日は「DNA型鑑定」について考えてみます。

事件解決の鍵を握るDNA型の鑑定が飛躍的に増えていることに対応するため,警察庁が2014年3月までに,約80の試料を同時に自動鑑定できる装置を新たに6県警へ配備することが27日,分かった。警察庁は自動鑑定装置の追加配備で迅速化を図り,捜査や災害時の身元確認に役立てるのが狙い。

警察庁によると,自動鑑定装置は既に,同庁のほか,北海道警,埼玉県警,警視庁,大阪府警,福岡県警に配備。警察関係者によると,新たに配備対象となるのは,鑑定数が全国的に多い神奈川,愛知,兵庫と,大規模災害時にエリア拠点として周辺の警察から鑑定を請け負う宮城,石川,広島の警察。東北,北陸,中国地方への自動鑑定装置の配備は初めてとなる。すでに約9億4千万円の予算を計上している。

警察庁は,犯罪現場の遺留物と容疑者のDNA型の鑑定結果をデータベース化して捜査に活用。12年の鑑定件数は05年の10倍以上の約27万件に上る。これまでの手法では手作業で1つずつ鑑定しなくてはならないため,現場の依頼に対して処理が追い付いていない実態がある。

警察関係者は「公判ではDNA型などの客観証拠が重視されているが,現状の態勢では,鑑定が間に合わず,捜査に支障が出ている」と話す。

また,東日本大震災では,微量の試料から個人識別できるDNA型鑑定が身元確認に役立った。一方で,鑑定数が膨大だったため,全国の警察が協力しても作業が追い付かず,確認が長期化するなど課題を残した(2013年8月27日11時18分 日本経済新聞)。

今回の記事でも書かれているように,公判におけるDNA型鑑定の客観証拠としての重要性は年々高まっているように思います。足利事件では,再審前,事件発生当時行われたDNA型鑑定の結果を有力な証拠の一つとして,菅家さんに無期懲役の判決が下されてしまいました。しかし,後に,DNA型再鑑定が行われ,菅家さんのDNA型と女児の下着に付着した体液のDNA型が一致しないことが明らかになった結果,他に真犯人がいた疑いが高まり,菅家さんには無罪判決が下されたのです。また,東電OL事件でも,被害者の手の爪に残っていた付着物を DNA型鑑定した結果,マイナリさんとは異なる人物のDNA型が検出されたために,これが決め手となって,マイナリさんには無罪判決が下されました。このような事件を通じて,近年,DNA型鑑定は多くの注目を集めています。

たしかに,DNA型鑑定によって得られた科学的証拠は,客観的・中立的で安定性が高いものです。上記事件でも明らかなように,正しく利用されれば,裁判上極めて有力な証拠となります。しかし,DNA型鑑定で得た証拠は,それのみで犯人の同一性を認定するような直接的な証拠ではなく,あくまでも,犯罪事実を認定するのに役立つ一つの間接的な証拠にすぎない点に注意しなくてはなりません。たとえば,強姦事件で,犯行現場である被害者女性宅に犯人の体液が残っていて,犯人とされる人物の DNA型と一致するとの鑑定結果が出たとします。その場合でも,被害者とその人物が事件以前から面識があった場合には,必ずしも犯行時点において,当該体液が残されたとは限りません。別の人物が犯行時点に犯行現場にいたことを否定しえないのです。

幼女2名強姦殺人事件(飯塚事件)の第一審では,被害者の身体に付着した犯人のDNA型が被告人と同一であることを有力な証拠の一つとしつつ,その他の間接証拠等をも考慮に入れた上で,犯人の同一性を認定し,被告人に対して死刑判決を下しました。高裁,最高裁でも判決は覆らず,死刑判決が確定しています。その後,判決確定から2年余りという異例の早さで死刑が執行されています。
しかし,第一審で採用されたDNA型鑑定が,無罪判決を下した足利事件と同じMCT118鑑定というものであって,鑑定の時期や技術,メンバーがほとんど同じであることが判明したため,被告人の遺族は再審請求をしました。客観的・中立的であるはずの科学的証拠の精度が疑問視され,もはや有力な間接証拠とはなりえないのではないかという問題が浮上したのです。現在では,DNA型の再鑑定が新証拠として提出されており,本件が冤罪事件だったのか否か,再審請求審の動向が注目されています。

科学的証拠が捜査段階で活用される場合についても,同様の注意が必要です。「科学的」であることに目がくらんで,他の証拠を十分に検証することなく安易に犯人を特定することは避けなければなりません。科学的証拠それ自体も,鑑定結果が100%正しいことはないのですから,警察や検察は,DNA型鑑定を過大に評価するのではなく,地道で緻密な捜査の過程で,有効に科学的証拠を利用する必要があります。

亀岡暴走事故を考える

2013年8月27日 Filed under:事件,刑事司法

今日は「亀岡事故」について考えてみたいと思います。

京都府亀岡市で昨年4月,集団登校中の児童らが車にはねられ,10人が死傷した事故で,自動車運転過失致死傷と道路交通法違反の罪に問われた少年(19)の控訴審初公判が21日,大阪高裁(森岡安広裁判長)であり,検察側,弁護側の双方が量刑不当を主張した。

検察側は,懲役5年以上8年以下の不定期刑(求刑懲役5年以上10年以下)とした一審・京都地裁判決について「交通事故史上たぐいまれな重大かつ悪質な事案。遺族らは量刑に強い不満と怒りをあらわにしている」と主張した。一方,弁護側は「保護処分が相当」と訴えた。

被告人質問で少年は「非常に申し訳ございませんでした」と法廷の遺族らに頭を下げた。閉廷後の記者会見で,亡くなった松村幸姫さん(当時26)の父,中江美則さん(50)は少年の様子について「弁護人とのやりとりの中で言葉を選んでいるようにも思えた。憤りばかりだ」と話した。

一審判決によると少年は昨年4月,亀岡市の府道で無免許で居眠り運転し,10人を死傷させた(2013年8月22日02時09分 日本経済新聞)。

亀岡市で起こった交通事故から,1年以上が経過し,間もなく控訴審判決が下されるようです。妊婦を含めた10人もの方々が死傷された,誠に痛ましい事件です。亡くなられた方やご遺族の方々に,心より哀悼の意を表します。また,今もなお事故からの回復を目指して治療されている方々もおられると思います。少しでも早く回復されることを心よりお祈り申し上げます。

今回の事件では,「危険運転致死傷罪」ではなく,より軽い「自動車運転過失致死傷罪」が適用された点で,論争が巻き起こりました。無免許運転を常習的に行っており,長時間に渡るドライブの末に居眠り運転をした結果,10名もの人々を死傷させる事故を起こしたのだから,量刑の重い危険運転致死傷罪(刑法208条の2)が適用されるべきだという主張がされました。遺族の方々のこのような主張は,その無念さや悔しさからすれば,当然だと思います。

しかし,危険運転致死罪は、「アルコールや薬物で正常な運転が困難な状態で自動車を運転した」「車を制御困難な高速度で走らせた」、「進行を制御する技能を有しないで走らせた」等の事情で人を死なせた場合にのみ適用されることが明文で定められています。そのような「行為」が危険であり,法秩序を著しく乱すと法は考えているのです。10人死傷という「結果」は重大で被告人の刑事責任を判断する上で無視できませんが,「結果責任」だけで刑罰を考えることは出来ません。

確かに,少年は無免許運転を繰り返し,自己の直接原因は長時間運転による居眠りでした。特に,無免許運転は故意犯であり,居眠りという過失と違って悪質です。しかし,無免許運転であっても,日常的に事故を起こすことなく運転を繰り返していた少年は,「進行を制御する技能を有しない」とはいえないと判断されたのです。

遺族の方々の無念さは痛いほど理解できますが,危険運転致死罪という,道路交通法違反等との組み合わせによっては最高30年までの懲役が科される重い罪の適用については,慎重な議論が必要です。適用範囲が解釈によって安易に拡大されれば,その分,将来に渡って多くの国民が恣意的に厳罰を下されることにもなりかねません。現在,無免許運転の罰則強化や危険運転罪の適用範囲の拡大が法制審議会で議論されています。感情論に流され過ぎないよう,バランスの取れた慎重な議論が行われることを望みます。

児童ポルノとCG加工

2013年8月14日 Filed under:事件,刑事司法

今日は「児童ポルノとCG加工」のお話です。

コンピューターグラフィックス(CG)で児童ポルノ画像を製造し,インターネットで販売したとして,警視庁は7月11日,岐阜市正木,デザイナーT容疑者(52)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供目的製造など)の疑いで逮捕したと発表した。

CGの児童ポルノの摘発は全国で初めて。

同庁幹部によると,T容疑者は2009年12月,約30年前に雑誌に掲載された少女の裸の写真をCGで加工し,昨年12月,島根県の男性に約3000円でダウンロードさせた疑い。

T容疑者は「CGなので販売しても大丈夫だと思った」と供述している。しかし,同庁は,CGによる画像でも実在の少女を基に描写すれば児童ポルノにあたると判断した(2013年7月11日12時42分 読売新聞)。

単純所持罪に関する議論など,最近は「児童ポルノ」を巡る問題がよく取り上げられています。児童ポルノと言ったときに,おそらく皆さんが想像するのは,ポルノ写真だと思います。ですが,今回問題となったのはポルノ写真そのものではなく,ポルノ写真をCG加工したものです。一見すると,CG加工した物全般にまで「児童ポルノ」の解釈を拡大したようにも思えますが,そうではありません。せっかくですので,少し「児童ポルノ」の対象範囲について考えてみましょう。

「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,①児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態児童の姿態,②他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの,または,③衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの,を視覚により認識することができる方法により描写したものをいいます(児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項参照)。

そして,ここでいう「児童」とは,18歳未満の男女をいいます。「その他の物」には,写真やビデオテープなどのように例示されている物に類する物をいうものと考えます。

そうすると,絵やCG加工した物は,明示こそされていないものの,「その他の物」に含まれて規制対象となる可能性があるのです。特に,実在する児童を特定可能な程度にリアルに描写した絵などは,「その他の物」に該当する可能性が高くなります。今回問題になった対象物は,約30年前に雑誌に掲載された実在の少女の裸の写真をCG加工した非常に精巧な物のようで,写真に類する物として「その他の物」に該当すると判断されたのでしょう。実在している人物の存在が判断の分かれ目となったようですので,写実的なCG加工物であれば,たとえ空想の人物であっても処罰対象となる,とまでは考える必要はないのです。

このように考えると,空想の人物でも実在世界に存在する誰かに似ていることもあるのではないか?空想の人物であってもリアルで性欲を刺激するようなものは規制対象にしても良いのでは?という反論も出てきそうです。この反論は妥当でしょうか。

児童ポルノ法と一見すると似ている,青少年保護育成条例は,「有害指定図書」の流通を制限しています。その規制の趣旨は,心身の未成熟な青少年が,著しく性的感情を刺激するような有害図書を閲覧することで,健全な育成を阻害されることを防止する点にあります。仮に,児童ポルノ法が,青少年保護育成条例と同じ趣旨で「児童ポルノ」の流通を禁ずるのであれば,児童一般の健全な育成を保護するために,空想の人物であっても児童の性的感情を著しく刺激するようなリアルなものは,規制の対象とする方が合理的なように思います。

しかし,児童ポルノ法は,直接的には,児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであり,間接的に,児童一般を保護することをも目的とするものと解されています。したがって,モデルとされた児童本人を保護するという観点から,「児童ポルノ」に該当するためには,モデルとされた児童が実在することが必要だと考えられているのです(大阪高裁平成12年10月24日)。また,実在の人物と「リアルな空想の人物」との境界線は極めて曖昧です。そうすると,侵害されるべき具体的な利益を有しない空想の人物についてまで保護を拡大する必要はないのであって,むしろ表現の自由の保護を優先させる方が妥当ではないか,という価値判断が働きます。このように,児童ポルノ法と青少年保護育成条例とは,規制の趣旨が異なる以上,導かれる結論も異なるのです。以上より,上記反論は妥当ではないものと考えます。

「児童ポルノ」を規制すれば,作成者の表現の自由を一定程度制限することは否めませんが,かといって,安易な制度批判に偏らないよう注意しなくてはなりません。将来,もしも表現の自由が著しく侵害された場合に建設的な議論ができるよう,日々冷静に警察・検察の立ち位置を分析し議論していく必要があるでしょう。

ネットなりすまし痴漢事件

2013年8月13日 Filed under:刑事司法

今日は「インターネット掲示板でのなりすまし事件」について考えてみます。

女性になりすましインターネットの掲示板で痴漢を呼び掛けたとして,和歌山区検は29日,大阪国税局海南税務署員,I容疑者を県迷惑防止条例違反(卑わいな行為)で略式起訴した。和歌山簡裁は罰金30万円の略式命令を出し,伊勢川容疑者は即日納付した。

起訴状では,I容疑者は4月30日,JR和歌山線電車内で,インターネットの掲示板に,乗り合わせた女性になりすまし,服の特徴や痴漢行為を望むような書き込みをし,掲示板を見た男性に女性の体を触らせた,としている。

捜査関係者によると,I容疑者は「痴漢しているところを助ければ,自分を好きになってくれると思った」などと供述している。

同国税局は「国民の信頼を損なう重大な事件であり,誠に遺憾。司法当局の判断を踏まえ,組織として厳正に対処する」としている。

和歌山地検は29日,この事件で,女性を触ったとして強制わいせつ容疑で逮捕され,処分保留で釈放された男性(26)を不起訴にした。不起訴の理由は明らかにしていない(2013年7月30日 読売新聞)。

さて,今回の事件の加害者は,被害者女性の同意があると思い込んで痴漢をしてしまいました。加害者の痴漢行為には,何らかの罪が成立するのでしょうか。この点について法律的観点から少し考えてみようと思います。
 
加害者は,インターネット掲示板上で「痴漢募集」の書き込みを見て,これに応じ,痴漢を募集していた女性と思われる女性に痴漢をしました。加害者の言い分としては,被害者の同意を得たうえで,女性の体を触っただけだと言いたいでしょう。そこで,「被害者の同意」論や錯誤論を用いて,犯罪の成立を否定できるのではないかが問題となるのです。

犯罪は,何らかの法益が侵害された場合に成立するものです。ですので,法益主体である被害者自身が有効な同意によって,自らの法益を放棄したと認められる場合には,犯罪が成立しない,と考えるのが「被害者の同意」に関する議論です。強制わいせつ罪においける保護法益は「被害者の性的自由」ですので,被害者が性的な行為をされることに同意していれば,原則として,当該行為には犯罪が成立しないことになります。
もっとも,他の乗客の面前で行えば公然わいせつ罪が成立する余地はあります。今回の事件では,実際に,被害者女性は痴漢行為に対して全く同意をしていませんでした。加害者は,被害者の同意があると誤信していた以上,違法性を阻却する事実を認識していなかった(故意がなかった)として犯罪が成立しないと解する余地があります。現に,本件で実際に痴漢行為をした人は立件されないと思われます。

一方で,そのような成り済ましの呼びかけをした今回の犯人には,痴漢が成立します。これは,情を知らない第三者を利用した,一種の間接正犯としての責任を負うことになります。

更に詳しく知りたい方は「痴漢で逮捕されたら」をお読みください。

犯人の証拠隠滅に弁護士が協力?

2013年8月12日 Filed under:刑事司法,刑事弁護

今日は「弁護士と証拠隠滅」について考えてみます。

愛知県警の警部への脅迫事件で逮捕された風俗店「ブルーグループ」の実質経営者S被告=脅迫罪などで公判中=が,別事件で勾留中の2011年夏ごろ,留置施設に接見に来た女性弁護士の携帯電話で,部下のグループ幹部と通話した疑いがあることが捜査関係者への取材で分かった。証拠隠滅を防ぐため,接見室への携帯電話の持ち込みは禁止されていた。

女性弁護士は東京弁護士会所属。捜査関係者によると,S被告が春日井署にある尾張留置施設に勾留されていた際,女性弁護士の携帯電話からグループ幹部に5回ほど 電話があり,数十秒程度,会話したという。

これに先立つ2010年6月ごろには,S被告は弁護士J被告(66)との接見で,県警警部へ脅迫電話をかけた実行犯を逃走させることを謀議。実行犯を沖縄県などに逃走させたとして,両被告は今年5月,犯人隠避容疑で逮捕された(中日新聞 2013年7月29日 )。

問題となった弁護士ご本人は,報道事実を否定されているようなので,上記記事が事実か否かはわかりません。ただ,携帯電話の発信履歴などをチェックすれば,グループ幹部と接見中に会話していたのか否かは判明するので,おそらく捜査機関は報道内容の真偽を知っているのでしょう。

グループの実質的経営者である被告人が脅迫罪で起訴されている今回の事件において,仮に報道内容が真実であり,被告人が部下のグループ幹部に電話をかけていたとすれば,口裏を合わせるなどして容易に証拠隠滅されてしまいます。このような行為を黙認していた弁護士は,犯罪者の証拠隠滅行為に加担したものであり,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」(弁護士職務基本規程1条)という使命に反して,真相究明を困難にし,社会正義の実現を著しく妨害したものといえるでしょう。たしかに,弁護士をしていると,被疑者や被告人から頼まれ事をすることは多いです。しかし,彼らの頼みを手放しで受け入れることが,弁護士の遂行すべき職務ではないはずで,罪証湮滅に加担するなどの犯罪行為はもちろんのこと,捜査妨害は決して許されません。刑事弁護士に高い倫理観が求められる所以です。

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