2014年12月 のアーカイブ

なぜ共犯事件では弁護士は検事より弱いか(1)

2014年12月27日 Filed under:司法制度

捜査妨害と利益相反について考えましょう。
私が検事だったころ、こういうことがよくありました。
5人を逮捕した暴力団による共犯事件ですが、全員否認、全員に同じ一人の弁護士がついていた事件です。
複数の被疑者に一人の弁護士がつくことはよくあることでした。

全員否認と言っても、逮捕当初はその否認内容がバラバラだったのですが、1勾留目が終わり、2勾留目ころには段々と弁解内容が「統一」されてくるのです。
接見禁止をつけていたので、不思議だなあと思っていたのですが、すぐにピンときました。弁護士が弁解内容をアレンジしていたのです。どうして分かったかというと、ある被疑者の取調べで、「最初はああ言ってたのにどうして変わったのか」と聞くと、「Bもそう言ってるでしょ」と言うので、「誰から聞いたか」と聞くと、「先生が接見で言ってた」とあっさり話しました。
つまり、弁護人が全共犯者の供述を「調整」していたのです。

このようなことをされると、検事は何が真相かが分からなくなります。共犯者5人が当初説明していた弁解の中には真実を語ったものがあったかもしれません。しかし、全員が供述を変遷させてしまうと何が真相かが分からなくなり、結局、被害者の供述や客観的証拠を基に全員起訴せざるを得ないのです。
このような弁護人による口裏合わせの活動は明らかに捜査妨害であり、罪証隠滅行為で、やってはいけないのです。利益相反の問題以前の問題です。

このことは、一人の弁護士が被疑者全員の弁護士となろうと、5人全員にそれぞれ弁護士がつこうと変わりはありません。もし弁護団会議で知った他の共犯者の供述内容を自分の依頼者である被疑者に教えたなら、自然とその被疑者も供述を合わせ、同じ現象が起きるからです。これでは接見禁止の意味がなくなってしまいます。利益相反の問題ではないことが分かるでしょうか。捜査妨害の問題なのです。

ポイントが目に見えてきたかと思います。
ある共犯者の供述内容を他の共犯者に教えてはならないのです。これが捜査妨害をしてはならないという弁護士倫理です。一人の弁護士が全被疑者の弁護人についているときであっても、共犯者それぞれに別々の弁護人がついているときであっても同じです。利益相反の問題と誤解する人は、形式だけ別々の弁護士がつくような形をとり、同じ過ちを犯してしまいます。

次回は、共犯事件において、否認事件であるとの一事をもって弁護人を辞任してしまうことの問題について考えたいと思います。

(中村)

勾留実務は最高裁決定で変わるか

2014年12月8日 Filed under:司法制度

今日は,「勾留請求の却下と裁判所の姿勢」に関する注目記事です。

 逮捕した容疑者について検察が身柄拘束の継続を求める「勾留請求」を裁判所が認めない割合が年々増えている。10年前まで1千件に1件程度だったが、2010年に100件に1件を超え、13年まで上昇傾向が続く。最高裁も拘束を許可しない判断を相次いで示すなど、裁判所が「人質司法」を見直す姿勢を鮮明にした形。専門家は「市民が参加する裁判員裁判の時代に適合している」と評価する。(2014年12月4日1時30分 日本経済新聞)

 警察が被疑者を逮捕した場合,逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察官に送致しなければなりません(刑事訴訟法203条1項)。検察官は,被疑者の弁解を聞き,更に被疑者の留置の必要があると判断したときは,24時間以内に,裁判官に勾留請求をしなければなりません(刑事訴訟法205条1項)。そして,裁判官が検察官の勾留請求を認めれば,10日間(勾留延長があれば最大20日間),被疑者を勾留することができます(刑事訴訟法207条1項本文)。

 刑事訴訟法が勾留という被疑者の身柄拘束制度を定めたのは,検察官が被疑者を起訴するか否かを決める権限を持っている(刑事訴訟法247条,248条)ことから,検察官に被疑者の身柄を拘束させたまま,起訴・不起訴の判断をするための必要な捜査を行うことを認めているからです。勾留の要件には①住居不定であること,または②罪証隠滅のおそれがあること,または③逃亡のおそれがあること(刑事訴訟法207条1項,60条1項各号)がありますが,被疑者が逃亡してしまえば取調べはできませんし,被疑者が罪証隠滅をしてしまっても,適切な捜査ができないことになるので,このような危険がある場合には,被疑者の身柄を拘束して捜査することを許容したのです。

 被疑者を勾留した場合,20日間という期間制限はあるものの,検察は警察への電話1本で被疑者を検察庁まで連れてきてもらって取調べを行うことができ,警察も被疑者の身柄を用いて,実況見分などを行うことができるので,捜査機関にとって,捜査がしやすいのです。

 他方,被疑者は,警察の留置施設などに連日勾留され,検察庁で検察官の取調べを待つ間は,同行室と呼ばれる場所で,他の被疑者と一緒に,手錠を付けられたまま木の椅子などに一日中座って待たなければなりません。ほとんどの被疑者が捜査機関による捜査を受けた経験も,留置施設に入れられた経験も,手錠をつけられたまま過ごす経験もしたことがありませんから,その肉体的・精神的苦痛は甚大です。

 このような捜査機関によるプレッシャーを絶えず被疑者は受けることになるので,勾留が長期化すると,被疑者は,意に沿わない自白や,検察や警察の意に沿った供述をしてしまうこともあるのです。このような実態が「人質司法」と呼ばれるもので,冤罪の温床となっていると批判される理由です。

 今回,取り上げたいのは,このような人質司法を改め,検察の勾留請求を容易には認めない姿勢を裁判所が打ち出していることです。以前は,検察官の勾留請求に対して,原則として,特別な理由がない限り勾留請求を却下しない,とする姿勢もあったように思います。しかし,今,その変革期にあるといえます。この裁判所の変化は,実は,被疑者国選で就いた弁護士や刑事専門の私選弁護士の努力なくして生まれませんでした。被疑者本人からの接見要請や家族からの相談等によって直ちに被疑者に接見し,事案の性質,認否,生活環境等を聞き,事件に即した身柄解放活動に従事します。家族から身柄引受書をとったり,犯行現場等に近づかないことを担保する方策を練ったりして,裁判官が,検察官の勾留請求を却下しやすい環境を弁護士がお膳立てしてあげるのです。

 このような弁護士の努力に言及していない今回の記事には大いなる不満がありますが(笑),いずれにしてもただでさえ身柄拘束期間が長いと先進国から指摘され,「人質司法」と揶揄されてきた我が国刑事司法制度にとって,勾留請求却下率が高くなったというのは喜ばしいことです。

 今回取り上げた最高裁の決定(最高裁第1小法廷平成26年11月17日決定)は,逃亡のおそれ等は認められない事案でしたので,主に罪証隠滅のおそれに言及しています。注目すべきは,「罪証隠滅の現実的可能性がどの程度あるかが問題」とし,その「可能性が高いことを示す事情」の立証を検察官に求め,今回はそれがないとして,勾留請求を認めなかったのです。本件は,通勤通学の電車内での痴漢事件だったため,被疑者と痴漢被害者は見ず知らずの関係で,被疑者が被害者に接触することは容易ではなかったのでしょう。一般的に,被疑者が痴漢被害者に対して働きかけをし,供述の変更を迫ったり,被害届を取り下げさせたりするなどして,自らの罪を免れようとする危険は,抽象的には存在します。しかし,その具体的可能性の立証までなければ,勾留の要件としての罪証隠滅のおそれは認めない,と判断したのです。

 最高裁の判断は,個々の裁判官や裁判体,ひいては検察官にも影響を与えることでしょう。今後,この最高裁の判断を前提として,人質司法の運用がどのように変わっていくのか,注目です。このような傾向が,勾留実務のみならず,保釈実務においても波及していくことを期待し,刑事弁護士として,一層の努力をしていきたいです。

勾留延長で社会復帰支援 検察が試行、高齢者らの再犯予防

2014年12月3日 Filed under:司法制度

今日は,「勾留延長と再犯予防」に関する記事です。

 窃盗など軽微な犯罪を繰り返す高齢者や障害者らの再犯防止のために、検察が勾留期間を最大10日間延長して住宅確保や就労支援をする取り組みが、全国の少なくとも23の地検で始まっていることが1日、検察当局への取材で分かった。
 勾留延長の活用は、容疑者が送検容疑を認めていて、10日間の勾留期限内には支援ができない場合に限定され、本人や弁護人の同意が前提となる。
 試行が始まった地検では、取り調べの後に検察事務官が容疑者と面談。老人ホームなどの福祉機関の担当者が同席することもあり、起訴猶予で釈放された場合を想定し、就職先や居住先を確保する。面談での容疑者の姿勢は起訴・不起訴の処分や、裁判で求刑する際の参考にしている。
 全国に先駆けて専門チームを発足させた仙台地検では、支援の対象を勾留中に限らず、在宅捜査の容疑者にも拡大。高齢者や知的・精神障害者に対応するため、保護観察所や自治体、NPO法人などと連携し、日常生活や金銭管理の指導、対人関係の改善、親族らへの助言の他、ドメスティックバイオレンス、ストーカー事件では認知行動療法に基づくカウンセリングも実施している。
 勾留延長は本来、捜査に時間がかかりやむを得ない場合に限られるため、日弁連幹部の一人は「積極的な再犯防止として評価するが、容疑を認めさせるために利用しないことが大前提だ」と話している。
 2014年版の犯罪白書では一般刑法犯の46%超を再犯者が占めた。政府は12年、刑務所の再入所割合を10年間で2割以上減らす目標を設定。再犯者の7割超が無職とのデータ(法務省調べ)もあり、効果的な就労支援が課題となっている。〔共同〕(2014年12月1日11時44分 日本経済新聞)

 勾留制度は,「捜査の必要」(罪証隠滅防止と逃亡防止)という,いわば「公共の福祉」のために,「身体の自由」という基本的人権を制約するものです。それは必要最小限のものでなければなりません。当然,身体の自由の拘束期間の延長を認める「勾留延長」という制度も,やむを得ない特別事情がある場合に限って運用すべきものです。つまり、最大48 時間の逮捕期間と10日間の勾留期間だけでは捜査を尽くせない「やむを得ない事由」があるときに認められるのです(刑事訴訟法208条2項前段)。

 その「やむを得ない事由」の中には,単に被疑事実の立証に欠かせない証拠が収集しきれていないという事情だけではなく,検察官が起訴不起訴という処分を決定するための諸事情が未だ明らかになっておらず,そのような諸事情について解明する必要がある場合をも含みます。たとえば,当初10日間の勾留中に示談交渉が着手されていて,示談成立見込みですが10日以内には確定できず,10日間延長すればその間に示談成立,告訴取下げが見込めるような場合にはそれで不起訴にできる事情が確定するわけですから,そのような場合にも勾留延長が認められるでしょう。

 この点,確かに,「再犯のおそれ」があるか否かについても,検察官の起訴不起訴の判断事情として重要な事情です。しかし,高齢者犯罪者の居住環境や就労環境の不備を直ちに「再犯のおそれ」に結びつけることは,ただでさえ実務上,抽象化され過ぎた「再犯のおそれ」を濫用して保釈阻止等を図っている検察や司法の傾向をさらに助長するものです。本来,高齢者の居住や就労の問題は行政の問題であり,それを身柄拘束という人権侵害を伴う刑事司法制度の利用をもって解決を図るというのは誤っています。行政の怠慢を刑事司法制度の「やむを得ない事由」の中に解消することは原理的には出来ません。身柄拘束制度もその期間を含め,捜査の必要と人権保障のバランスの中でシステムデザインされていることを忘れてはなりません。

 生活が苦しいために犯罪を繰り返してしまう人や,精神的な病気のために犯罪を繰り返してしまう人に対し,支援をする必要は高いといえます。しかし,それはあくまでも行政(行刑)の問題でありまして,たとえば,刑務所の出所者を対象に実施されている更生保護制度等を起訴前の段階にも導入し,検察官はあくまでも10日間で捜査を尽くして処分保留として釈放し,その際,更生保護施設に入所できるような制度を設け,同所における生活環境の整備状況や就労機会の確保状況を踏まえて,検察官が最終的に不起訴という処分をするというのが本来の姿です。それを勾留制度で代用するのは間違っているうえ,代用監獄制度を益々定着させるものとなるでしょう。

 今回の検察庁の試みに対し好意的に報道する新聞記事を見ると,「身柄拘束」という不利益,身体の自由の制限という問題に対して全く鈍感である我が国の悪弊を見る思いです。「ホームレスにしておくよりも牢屋にぶち込んでおいた方がまし」という感覚がないでしょうか。留置場は「福祉施設」ではなく,「刑事施設」です。
 なお,今回の検察の試みでは、被疑者本人や弁護士の同意を条件に運用しているようですが、高齢被疑者本人は,一日でも早く留置場を出たいという方が多いでしょう。もしそのような高齢者が上記のような「勾留延長」に同意するとしたら,「逆らって起訴されたくない」という動機あってのことかもしれません。「同意」を人権侵害の免罪符にしている捜査実務を知る刑事弁護士としては,そのように感じます。国家機関に対する「同意」を人権制限の正当化根拠にしてはなりません。「同意」で逮捕できないはずです。「同意」で家宅捜索もできないと犯罪捜査規範には書いてます。国家機関に対する「同意」は実は真の「同意」ではないということを人類の知恵が示しているのです。

 先進国では,我が国の身柄拘束期間の長さは非常識に映っています。この試みも間違いなく,奇異に映るでしょう。

(中村)

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