元大阪地検特捜部長・副部長が逮捕される!犯人隠避が成立するか。

2010年10月1日 Filed under:司法制度

とても重苦しいニュースが入りました。
大坪元特捜部長,佐賀元副部長が逮捕されたというニュースです。
お二人とも存じ上げております。
とても悲しいニュースです。

ここで,最高検が逮捕に踏み切った犯人隠避罪の成否について考えてみます。
もちろん,最大の争点は,お二人が,前田検事が過失で改ざんしてしまったと思っていたのか,それとも故意に改ざんしたとの認識を有していたのか,です。この点については,前田検事を含む関係者の供述や証拠がどうなっているのかによりますので,コメントのしようがありません。

実はもう一つ重大な論点があります。
それは本件では,隠避行為に関する積極的な作為行為がない点です。
よく引き合いに出される神奈川県警本部長の犯人隠避事件では,尿から覚せい剤成分が検出されなくなるまで警官をホテルにかくまったり,証拠品の注射器を廃棄するなどしていたもので,「積極的な隠避行為」がありました。しかし,今回は上司である次席検事,検事正に報告しなかったという「不作為」が問題になっています。

「隠避」に「不作為」も含まれるかについては,一般人の場合,もちろん,不作為では犯人隠避罪は成立しません。殺人を犯してきたという友人について警察に通報しなかったからといって犯人隠避が成立するわけではないのです。もちろん,包丁を預かったら犯人隠避になり得ますし,海外逃亡資金を与えたら隠避です。あるいは,かくまったら犯人蔵匿罪です。しかし,ただの不作為は隠避にならないのです。

一方,一般人ではない警察官や検察官はちょっと事情が違います。警察官や検察官は逮捕権限をもっています。ですから,すぐに逮捕できるのに,逮捕しなかったら,その逮捕しないという「不作為」が隠避となる余地が出てきます。

ただ,疑問が出てきます。すぐ直ちに逮捕しない場合に,則,犯人隠避が成立するのか?
翌日の幹部会議で報告しようと思っていて,その報告前に本犯(隠避の対象とする犯罪)の存在が公になった場合,既に隠避罪が成立しているのか?
一週間後の会議で報告しようと思っていた場合はどうか?
そして。。。
公判に影響があるので,公判終了後に報告し,調査しようと思っていた場合はどうか?
本件では村木裁判では正確な情報が記載された捜査報告書も公判に提出されていますし,問題となった改ざんにかかるFDは公判に提出されていないのですから,部長・副部長が問題を公表しなかったからといって公判には具体的影響が出ません(もちろん,そんないい加減な検事が主任として組み立てた事件は冤罪だという一般論はあるでしょうが)。それならば,公判が一段落した段階で本格的に調査するという選択肢がありうるのか,ないのか。
そういう問題です。

この論点は,いかなる条件の下で,初めて「報告しない」という不作為が,物証の破棄や海外逃亡手助けのような「積極的行為」としての隠避行為と同じくらいの悪質性をもって「隠避」と価値判断できるのか,という問題です。行政組織上の報告義務違反と犯罪構成要件としての作為義務違反を分けて考える冷静さが必要です。
最高検は,自分のところまで報告が上がらなかったことに怒り心頭で,元部長・副部長の「不作為」を犯人隠避罪と断定したようですが,報告義務違反という行政上の義務違反と,犯人隠避における作為義務違反とは同一には論じられません。
検察官が逮捕権限を有しているといっても,当時,特捜部長の大坪氏がいきなり前田検事を自分で逮捕するというのは現実的ではなく,「すぐに逮捕しなかったから隠避である」との構成は机上の理論の印象がぬぐえません。
例えばの話ですが,前田検事のFD改ざんの証拠隠滅罪が明日時効にかかるというときに,それを知った部長・副部長が報告を見送り,時効を完成させたという場合,その報告義務違反は,積極的作為と価値的に同視しうる現実的危険性をもつ行為として犯人隠避罪が成立するかもしれません。
では,今回のケースはどうか,ということが問われています。

犯人隠避罪の保護法益から考えなければなりませんが,犯人隠避罪が抽象的危険犯なので,なおさら問題は難しいです。難しい裁判になりそうです。

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