小向さんの逮捕罪名について
2011年2月22日 カテゴリー:司法制度
小向美奈子さんに対して,覚せい剤の譲り受け事実で警視庁が逮捕状の発付を受けたということですが,報道によると,その逮捕罪名が覚せい剤取締法違反ではなく,麻薬特例法違反のようです。これはどういうことか?
麻薬特例法は,覚せい剤取締法や麻薬取締法などの特例法で,特別法の関係があり,組織的な密輸や業として行う薬物取引をより厳しく処罰しようとするものです。
この麻薬特例法では,例えば,覚せい剤を業として譲り渡したり,譲り受けたりすると,5年以上の懲役となり,通常の譲り渡し罪,譲り受け罪(10年以下)よりも重いです。
小向さんは,覚せい剤取締法違反としての覚せい剤譲り受けではなく,麻薬特例法違反としての覚せい剤譲り受けですから,「業として」行ったという証拠が存在する可能性があります。
「業として」とはどういう意味かというと,何回も継続してという意味です。たとえば,仲介役のような人間が何度も継続的に覚せい剤を密売人から入手して他に譲渡するとか,そのようなケースです。
小向さんが仲介役とは思えませんが,譲り渡し人であるイラン人の携帯電話に多数回,小向さんの電話記録が残っていた可能性はあります。
刑事事件 弁護士 中村勉
小向美奈子さんは強制退去となる?
2011年2月20日 カテゴリー:司法制度
小向美奈子さんのフィリピンでの動向が注目されています。
そして,警察が外務省に旅券返納命令の発令の要請をしたとの報道がなされました。
旅券法の第13条では長期2年以上の刑に当たる罪について逮捕状が出ている場合,一般旅券の発給をしないことができるとあります。既に発給されている場合であっても,そのような逮捕状が出た場合には,同法第19条第1項第2号により,外務大臣又は領事官は、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができます。小向美奈子さんの逮捕状の容疑である覚せい剤譲受けは10年以下の懲役ですから長期2年以上であってこの要件を満たします。
旅券返納の期限は「合理的期間」とされていますから,1日とか2日では短か過ぎ,半年,1年では長すぎるでしょう。ところで,この旅券返納命令は,名義人に通知が到達していなければ効力がないので,小向美奈子さんのように,所在不明者の場合は困るのですが,その場合,同法第19条の2第1項において,通知すべき内容を官報に掲載することで代えることができるとされ,同条第2項で,20日間の経過により本人に通知されたと看做されます。
結局,返納命令がなされてから20日間+合理的期間の経過によって,小向美奈子さんのパスポートは失効し,フィリピンで不法滞在となります。そうなると強制退去は時間の問題です。犯人が海外に逃亡した場合で,犯罪人引き渡し条約がない国に逃亡した場合に,警察がよく使う手です。
刑事事件 弁護士 中村勉
郵便不正事件で「公訴権乱用論」適用か
2011年2月2日 カテゴリー:司法制度
【改ざん事件 調書開示命令】― 郵便不正・元係長公判「公訴棄却の余地」
郵便料金不正事件で虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた元厚生労働省係長,上村勉被告(41)の期日間整理手続きで,大阪地裁は31日,大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件で起訴された前特捜部長 大坪弘道被告(57)や元主任検事,前田恒彦被告(43)ら6人の供述調書を証拠開示するように検察側に命じた。決定理由で横田信之裁判長は「別の事件の証拠でも改ざんの経緯が推知され,開示の相当性がある」と指摘。「重大な違法がある場合には公訴棄却などの余地がないとは言えない」と述べた。【平成23年2月1日付/日経新聞/夕刊】
これは注目すべきニュースです。公訴棄却の可能性がある,というのは,公訴権乱用論を適用する可能性があるということです。「公訴権濫用論」とは、検察官の公訴提起に1)客観的な嫌疑が伴わない2)起訴猶予すべき事案である3)違法な捜査手続の結果なされた場合に,裁判を打ち切り,公訴を棄却するというものです。学説理論上認められているもので,最高裁でも第2の類型について適用があり得ることを示したものがあるだけです(しかも,極めて厳しい要件下で)。
今回の郵便不正事件では村木さんの無罪判決に見られるように,検察捜査に著しい違法があったと認定されています。第1類型の初判断になるかもしれません。
コースター事故での謝罪会見について
2011年2月1日 カテゴリー:事件
【ドーム側 会見で謝罪】
東京ドームシティアトラクションズを管理・運営する東京ドーム(東京都文京区)は30日,記者会見を開き,北田英一・専務取締役営業本部長が「亡くなられたお客様とご家族におわび申し上げます。原因を究明し,二度と事故が起きないよう努力していく所存です」と謝罪した。【平成23年1月31日付/朝日新聞/朝刊】
この新聞記事を見て,どうして社長が自ら謝罪会見に出席しないのかと思いました。そうしたところ,翌日,今日ですが,警察の捜索が入って初めて,社長が緊急記者会見を開いて謝罪したようです。遅いですね。それに,この会社ではご遺族宅には既に謝罪に出向いたのでしょうか?最初に誰に向かって謝罪をすべきかがとても重要です。
緊急事態対応も含めた危機管理ができていない会社は,このような事故を引き起こすとも言えそうです。今月14日,このような記者会見関連テーマで危機管理セミナーを開催します。
刑事事件 弁護士 中村勉
刑罰と最新科学
2011年1月26日 カテゴリー:刑事司法
【性犯罪前歴者にGPS】― 携帯義務付け 宮城県が条例検討
宮城県は22日,性犯罪の前歴者やドメスティックバイオレンス(DV)の加害者に対して,行動を警察が監視できるように全地球測位システム(GPS)の常時携帯を義務付ける条例設定の検討に入ったことを明らかにした。試案では,必要に応じて性犯罪の逮捕者からDNAの提出も義務付け,県内で性犯罪が起きた際の容疑者特定に利用するとしている。【平成23年1月23日付/日経新聞/朝刊】
私の検事としての経験から言っても,性犯罪者の多くは「繰り返します」。またDVの加害者が被害者を執拗に追い回す傾向にあることも確かです。しかし,当然のことながら,プライバシーとの関係で議論が生じますね。議論することは良いことだと思います。逮捕者全てを対象とするのか,逮捕されても嫌疑不十分だった者はどうか。一貫して冤罪を主張していた者はどうか。装着に年限はないのか,終身なのか。自発的な去勢措置の場合の免除はどうか,などなど。大いに議論すべきです。国は議論すら避けていた嫌いがあり,その意味では宮城県は一歩進んでいます。
私からのひとつの提案ですが,被疑者・被告人が自発的にGSPの装着に応じた場合に,起訴猶予ないし執行猶予とするような量刑運用はどうでしょうか?どうしてかというと,これも私の経験からですが,性犯罪者の中には,むしろ「監視して欲しい。」と思っている人も中にはいるのです。自分の性的衝動を自分ではどうしてもコントロールできない,人が見ていないと分かるとつい行為に出てしまう,そのことを自覚している人が,「監視して欲しい。」と感じるようです。一種の社会内処遇の一手段としてのGPSの活用の可能性も議論してはいかがでしょうか。
刑罰も科学技術の発展とともに多様となり,進化していくことは確かです。人権との調整は常に考え続けていかなければならず,議論の回避,思考の停止は避けなければいけません。




