「痴漢冤罪」に巻き込まれたときの対処法|刑事事件に強い元検事弁護士が強力対応

「痴漢冤罪」に巻き込まれたときの対処法 「痴漢冤罪」に巻き込まれたときの対処法

駅員室に同行した後,警察署に行くことに。その後は?

 電車で痴漢の疑いをかけられ,停車後にホームに降ろされると,騒ぎを知って駆け付けた駅員に誘導されるかたちで,駅事務室へ行くことになります。駅事務室に着くと,駅員は被害者の意思を確認して管轄の警察署に通報します。通報を受けた警察官が駅に臨場した後,そのまま身柄は警察官に引き渡されるのが一般的です。
 痴漢被害を訴える女性や目撃者に腕などを捕まえられて電車を降ろされると,その時点で「私人逮捕」ないし「常人逮捕」が成立していることが多く,その後の警察官への引渡しは「引致」となります。ですから,偶に勘違いされている方がいるのですが,私人逮捕が成立している場合には,警察署への同行は任意ではありません。もう逮捕されているのです。
 腕などを掴まれておらず,私人逮捕・常人逮捕がなされていない場合でも,警察に引き渡され,警察署に同行された後,逮捕されます。これは法律的には「準現行犯」となります。
 そうすると,「駅事務室に行く」→「警察署へ連行される」=「逮捕される」ということを意味するので,痴漢の疑いをかけられた者としては,駅事務室に連れていかれる前に「逃げる」ことが頭をよぎるのはむしろ自然なことでしょう。
 しかし,その場から逃げることには,次のようないくつかのリスクを伴います。

現場から「逃げる」とこんなリスクが

逃げ通せなかった場合には,長期間の身柄拘束の可能性が高まる

 逮捕や勾留は,犯罪を行ったと疑うに足りる相当理由と,身柄拘束の必要性が要件となります。「身柄拘束の必要性」というのは,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれ,住居不定などの事情です。被害者に口止めをするなどの罪証隠滅行為を防止するには被疑者の身柄を拘束し,被害者と接触できないようにしなければなりません。また,捜査を継続実施するには被疑者に逃走されては不都合です。こうした事情から逮捕されたり,勾留されたりするのです。
 現場から逃げるということは,逃走のおそれを示す最も強力な事情となるため,逃げ通せなかった場合には,逃げなかった場合には逮捕されないか,逮捕されても勾留されずに2日位で釈放されたものを,逃げたが故に一定期間(最長23日間)身柄を拘束されてしまう,そんなリスクが発生します。それは取りも直さず勤務先を解雇されるリスクにつながっていきます。10日間も身柄拘束されると,体調を崩したでは説明できなくなるからです。何といっても携帯電話に出るさえもできないのですから。会社の重要な会議書類を鞄内に入れたまま警察署に留置されてしまうこともあるのです。もっとも,逃げなくても容疑を否認すれば逮捕され,勾留されるリスクはあります。ただ,近年は,裁判官が勾留請求を却下する傾向が強くなっています。

起訴された場合,保釈を取れなくなるリスクが高まる

 逮捕・勾留された被疑者であっても,起訴後は保釈制度があるので,保釈により釈放されるのが通常です。
 しかし,検挙された際に逃走を図っていた場合,その事情が保釈審査にあたって不利に働く場合があります。保釈不許可事由に「逃亡のおそれ」は含まれていません。保釈に際しては,「逃亡のおそれ」の解消は保釈金の設定で担保しようという考えがあるからです。高い保釈金を設定すれば,それが没収(「没取」と言います)されるリスクを冒してまで逃亡しないであろうという考えです。但し,検挙時に逃亡したという事情は,被害者への接触や偽装工作の機会を確保しようとしたと解される余地があり,罪証隠滅のおそれがあるとして保釈不許可となる可能性があるのです。そうすると,起訴後も身柄拘束が続くことになります。検挙されたときの行動がその後の手続に大きな影響を与えるのです。

冤罪の場合,裁判で無罪を勝ち取るのが困難になる

 裁判において痴漢を行ったか否かが争点となる場合,裁判官は,行為時の状況だけではなく,行為前後の状況を総合的に判断して有罪か無罪かを決定します。行為前の事情としては,被告人が通勤経路とは関係なく電車で各線を行ったり来たりしているなどの不審行動をとっていないか(痴漢のターゲットの物色行為や痴漢常習犯と評価される可能性があります)などです。行為後の事情としては,まさに逃走していないかが有罪無罪を決める重要な事情の一つになります。
 経験則に従えば,「犯人」は犯行を行ったが故に捕まりたくないという心情をもつので,「逃げる」という行動はそのような「犯人」の心情の表れでもある訳です。「やったから逃げたのだろう。」と思われてしまうのです。もちろん,冤罪でも逃げたいという心理状態にはなります。「冤罪を証明できないのではないか」,「刑事手続に巻き込まれる面倒を避けたい」,「冤罪であっても家族や勤務先に知られたくない」などの心理状態になることもあるからです。しかし,「やったから逃げた」,つまり,「逃げた」→「実行した」という推認力は,痴漢に限らず,泥棒,傷害,殺人などあらゆる犯罪に共通する行動なのです。裁判で不利になることは間違いありません。

逃走は新たな犯罪を生み,自傷他害のおそれもある

 正当理由なく線路内に立ち入ることは鉄道営業法違反となります。また,逃げる際に被害者や他の乗客に接触して転倒させるなどすれば暴行罪や傷害罪となります。警察官から逃げようとして暴行を加えれば公務執行妨害罪です。また,自動改札機のすり抜けはキセル乗車となって鉄道営業法違反や詐欺罪になりかねませんし,もし線路内に立ち入って電車を止めてしまった場合には,巨額の損害賠償請求をされるリスクもあるのです。
 さらに,転落事故となって,自分自身,あるいは,他の乗降客を傷つけ,死亡させてしまい,取り返しのつかない事態となることもあります。

逃げ通せたとしても不安が

 現場である駅から逃げ通せたとしても,不安は常に付きまといます。冤罪であって自分は何もしていなかったとしても不安は生じるものです。「警察はいま自分を探して捜査しているのではないか。」,「パトカーとすれ違ったけど自分を探していたのではないか。」,「明日の朝,警察が自宅にやってくるのではないか。」,「もう警察から会社に連絡が行って,会社の人事部は事件のことを知っているのではないか。」など,不安は尽きません。
 現場となった駅に近寄る気持ちになれず,電車に乗っても被害女性に見えて落ち着きません。そして,自分の無実を証明する機会は永久に失われたのではないかと思うかもしれません。
 このように,現場から逃走することには様々なリスクを伴います。ではどうすれば良いか。年間数十件もの痴漢事件を担当し,またそれを遥かに上回る痴漢事件の無料相談を受けている経験から申し上げます。

「名刺を渡すなどしてそっとその場を立ち去る」という対処法は現実的か?
 痴漢被害を訴える女性に捕まり,駅事務室への同行を駅員に求められても,その要請に強制力はなく,駅員の指示に従う義務もないので,駅事務室に行かないという選択も当然あり得ます。冤罪であれば,どうしてこんなことに時間を使わなければならないのだという憤激もあるでしょう。弁護士の中にも,「痴漢冤罪なので理屈では指示に従う義務はない。『私はやっていません。』と言い,名刺を渡して(あるいは名刺も渡さないで)そっと静かにその場を離れるのが良い対処法であるとアドバイスする方もいます。それは理屈としては正しい対処法なのですが,現実はそうは許さないのではないでしょうか。
 きっと,被害女性や駅員は,痴漢犯人とされている者をそのまま黙って見送りはしないと思います。「いやいや,ちょっと待って下さい。この女性が痴漢の被害に遭ったと言われているので駅事務室まで来てください。」「いやいやそんな義務はないから,急いでいるし失礼する。」,「いやいやそうもいきませんのでちょっと待っていただけませんか。」…この繰り返しが高じてお互いのやり取りもエスカレートし,無理に逃走する「形」になってしまうのが目に見えています。「そっとその場を立ち去った」つもりが,被害女性や駅員は,「逃げた」と見てしまうのです。結局,既に述べた,逃走に伴う上記リスクが発生してしまうのです。

どのような対応が良いか,その対処法

駅員にはっきりと「やっていない」と伝える

 痴漢と間違えられ,女性に電車から降ろされ,駅事務室に連れていかれたとき,最初にすべきことは,駅員に対し,「私はやっていない。」ときちんと伝えることです。後々の裁判に際して,被告人が検挙された際にどのように言っていたかは,有罪無罪を決する一つの状況証拠になります。
 駅員の証言で,「被告人は最初からやっていないと言っていました。」と言ってもらうためにも,やっていないならその旨毅然と第三者に伝えることが大切です。駅員が証人確保という意味で適切です。第三者の乗降客ですと,後で連絡が取れなくなったり,裁判に協力してくれなかったりするからです。

家族に連絡して警察署に来てもらう

 次に行うべきことは,携帯電話で家族に連絡することです。家族に連絡して急行してもらうのです。すぐに警察署に連れていかれるので,家族には「まっすぐ警察署に来てほしい。」と依頼して下さい。どこの警察署が管轄かは駅員が教えてくれるでしょう。その際,家族には印鑑を持参するように言って下さい。駅事務室に連れていかれてから警察官が臨場するまでに10分程度以上の時間的余裕があります。この間に家族に連絡することができます。
 どうして家族に連絡して警察署に急行してもらうことが大切かを説明します。それは,家族に「身柄引受書」を書いて提出してもらい,捜査協力を誓約させることが重要だからです。既に述べたように,逮捕や勾留は,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれ,住居不定などの事情が認められる場合に行われます。痴漢を疑われている者は電車利用者,一時的な乗降客です。何なんという名前でどこに住んでいて,家族がいるのか,仕事はしているのかなど何も分かりません。警察官としてもそのような者の身上関係を確認もせず,逮捕せずにその場から帰してしまうと,後で所在が分からなくなって捜査が出来なくなり,事実上,不問に付されてしまう可能性だってあります。そんなことになったら被害者は黙っていません。捜査ミスを指摘するでしょう。警察はそのことが頭にあります。
 一方,家族が警察署に急行してくれて,その身分証明書等から家族であることが確認でき,氏名も住所も確認でき,そのうえ,「今後,警察署や検察庁から本人に対して出頭要請があれば責任をもって従わせます。」,「家族ですから本人に逃亡などさせません。」などと誓約する「身柄引受書」に署名押印して提出すれば,警察も本人の逃亡のおそれは低いとして釈放して在宅捜査とすることがあるのです。また,仮に逮捕したとしても,勾留請求の段階で釈放されたり,勾留却下となって釈放される可能性が高まるのです。こうして,逃げることなく,警察署へ連行されたとしても釈放される可能性が高まり,仮に逮捕されたとしても翌日頃には勾留が認められずに釈放される可能性が高まるのです。
 つまり,「駅事務室に行く」→「警察署へ連行される」≠「逮捕される」を可能とするのが,この家族による「身柄引受書」の提出なのです。身柄引受書の書式ひな型はどこの警察署にもありますから,文章をどのようにするか考えることなく,署名押印すれば良いのです。

弁護士に連絡し,雇う必要があるか

 駅事務室に誘導され,警察官が到着するまでの間,上記のように家族に連絡するほか,取調べ対応などのために,弁護士にも連絡することもできます。しかし,弁護士を依頼しなくても,上記のアドバイスに従えば,釈放される可能性があります。
 弊所には,偶に,駅事務室からの緊急の相談電話を受けることがあります。上記のように,家族を呼ぶべきことなど一通りのアドバイスを行い,相談を終了して電話を切った後,その相談者から2,3時間後位に再び電話をもらい,「指示どおり家族にきてもらって対応した結果,今,釈放されました。嬉しく電話しました。ありがとうございました。」とのお礼のお言葉をいただいています。
 ですから,弁護士を雇わなくても,適切な行動でこの緊急事態を乗り越えることは出来ます。
 しかし,家族が遠方に住んでいたり,近くに住んでいても電話に出ないなどの状況にある場合,費用がかかったとしても,弁護士を依頼し,対応してもらうことになります。また,弁護士の力を借りずに釈放されたからと言って捜査が終わったわけではなく,単に,身柄を拘束したままの「強制捜査」方針から,在宅での「任意捜査」方針に変更されただけですので,その後も,取調べなどの捜査は続き,起訴されるか不起訴となるかのせめぎ合いは続きます。何らかの形で示談解決が必要な状況も出てきます。そのときには,やはり,被害者対応を含めた対応のため,弁護士を雇うことは必要となるでしょう。どうせ弁護士を雇うのであれば早く依頼した方が良いですし,弁護士費用が変わる訳でもありません。
 その際,知っている弁護士がいれば問題ないですが,ほとんどの方は知り合いの弁護士などおりませんでしょうから,ネット検索で弁護士を探すことになります。弁護士をネットで探して電話をしてもすぐに対応してくれるとは限りませんし,経験の少ない弁護士であれば適切な助言をしてくれるとも限りません。また,弁護士費用前払いでなければ相談に応じてくれない弁護士もいます(弊所では無料相談を受け付けております)。
 弊所では,駅事務室に置き留められている痴漢冤罪の当事者から携帯電話で無料相談を受けた際,弁護士が,上記のような,家族への連絡の必要性その他のアドバイスを無料で行っています。依頼があれば,警察署に弊所の弁護士が急行し,警察に即時釈放を訴えます。遠方に家族がいる場合には,FAX等を駆使して身柄引受書の確保を図ります。場合によっては,例外的ですが,弁護士自身が身柄引受人になることもあります。
 ところで,逮捕や勾留を判断する際に重要なことは,被疑者と被害者が再び電車等で鉢合わせになってしまう可能性についてです。被害者は,もちろんそれを望みません。被疑者も望まないのが普通です。普通は,被疑者も被害者も見ず知らずの通りかかりの者同士ですから,会おうと思っても合えないものですが,通勤電車での事件ですと,利用路線,利用時間帯が一定していますので,電車内や駅構内で,偶然,鉢合わせということもあるのです。そこから被害者への働きかけ(「被害届を取り下げてくれ」など)や脅迫(「取り下げないと名誉棄損で訴えてやる」など)のおそれを認定され,逮捕要件であり勾留要件である「罪証隠滅のおそれ」が認められて身柄拘束となる可能性があるのです。ですから,弊所では,身柄引受書のほかに,「事件解決までは事件発生の路線,時間帯での電車利用はしない。」旨の誓約書を本人に書かせ,かつ,家族にも「利用させない」旨の誓約書を書かせて検察官なり裁判官に提出します。そうすることによって,「逃亡のおそれ」のみならず,「罪証隠滅のおそれ」も低いとして釈放となる可能性が益々高まるのです。

日本の刑事司法制度にも問題がある
 実は,痴漢事件の問題点は,日本の刑事司法制度にあります。痴漢の多くは条例違反でほとんどの事件が不起訴,重くて罰金刑で終わる事件です。それにもかかわらず,罪証隠滅のおそれだの,逃亡のおそれだの屁理屈を付けて身柄を拘束し,自由を奪うという法運用にこそ問題があるのです。住所や身元もわからないような人ではなく,普通のサラリーマンが最長23日間も身柄拘束されて,自由を奪われてしまう可能性があるのです。そのような背景があるからこそ,駅事務室に行ったら長期間拘束される,会社は首になる,人生御仕舞だ,逃げるしかない,という発想を想起させるのです。そして,それが,上野駅の転落死事件のような悲劇を生んでいます。
 痴漢が許されない犯罪行為であることは言うまでもありません。受験会場に向かう電車内で痴漢に遭い,試験を満足に受けられずに人生が狂ってしまった学生だっています。朝から不愉快な思いをさせられる女性にとっては,痴漢は憎むべき犯罪です。ただ,重大犯罪ではありません。最終的に下される刑罰が罰金であるのに,その手段たる捜査において,10日間も20日間も身柄を拘束されるということが,「目的と手段の関係」としてバランスのとれたものと言えるかが改めて問われなければなりません。


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