事案
麻薬取締官が、被告人の知り合いAと相通じて、Aを介して被告人に大麻を準備させるといったおとり捜査を行った。おとり捜査とは気づかずに大麻を準備した被告人をあらかじめ準備していた令状に基づき逮捕した。被告人は、麻薬取締官が執拗に働きかけた本件のようなおとり捜査は違法である旨主張している。
判旨(最高裁平成16年決定)
少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される…。
本件についてみると、他の捜査方法によって証拠を収集し、被告人を検挙することが困難な状況にあり、一方、被告人は既に大麻樹脂の有償譲渡を企図して買い手を求めていたのであるから、麻薬取締官が、…大麻樹脂を持参するように仕向けたとしてもおとり捜査として適法というべきである。
コメント
おとり捜査について、任意捜査であるとした上で、任意捜査として許容される範囲内である旨判示しており、従来からの判断同様、捜査の必要性に照らして、捜査の方法や態様によって害される利益の程度が許容されるか判断したものと言えます。特に本件は薬物事案で被害者等のいない密行性の高い事案であったため、おとり捜査を実施する必要性が高かった一方で、被告人がもともと犯意を抱いていた点を考慮したものといえるでしょう。