事案
被疑者の知人が、宿泊先であるホテルの5階フロントロビーにおいて大麻所持の容疑で現行犯逮捕された。逮捕に伴い、捜索差押えをすることになり、7階の宿泊部屋まで捜索が行われ、部屋にあった大麻が差し押さえられた。それから1時間半後に帰ってきた被疑者に大麻所持の事実を確認したところ、事実を認めたため緊急逮捕された。
被疑者逮捕の決め手となった宿泊部屋の捜索が「逮捕の現場」における捜索と言えるのか否かについて争点となった事案である。
判旨(東京高裁昭和44年判決)
思うに、刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号が、被疑者を逮捕する場合、その現場でなら、令状によらないで、捜索差押をすることができるとしているのは、逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索差押が適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索押収令状が発付される要件を殆んど充足しているばかりでなく、逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要があるからである。従つて、同号にいう「逮捕の現場」の意味は、…右の如き理由の認められる時間的・場所的且つ合理的な範囲に限られるものと解するのが相当である。
コメント
逮捕に伴い捜索差押えを行う場合は、令状なく行うことが出来ます。もっとも、あらゆる範囲まで捜索差押えできるわけではなく、「逮捕の現場」に限定されており、逮捕現場と同一管理権の範囲で許容されています。
本件では、逮捕現場が5階のフロントロビーでしたが、7階の部屋まで捜索の範囲が及ぶと判断されました。しかし、フロントロビーの管理権はあくまでホテル側にあるのに対し、7階の部屋は被疑者等の管理権が及んでいるといえるため、果たして同一の管理権の及ぶ「逮捕の現場」に該当すると言えるかという点で、本件判例には批判もあります。