起訴後勾留と余罪勾留との競合において余罪の接見指定の可否が争われた事案
事案
収賄事件について起訴後勾留されていた被告人が、余罪の収賄事件によって逮捕・勾留された。弁護人が、余罪事件についての接見を求めたところ、検察官は捜査の必要があることを根拠に、接見指定をした。このような検察官の接見の指定に憲法34条、37条3項違反の違法がある等として、弁護人が特別抗告を申し立てた。
判旨(最高裁昭和55年判決)
同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の逮捕、勾留とが競合している場合、検察官等は、被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り、刑訴法39条3項の接見等の指定権を行使することができるものと解すべきであって、これと同旨の原判断は相当である。
コメント
憲法34条前段は、被告人は、弁護人を選任する権利を保障されており、これを受けて刑訴法39条3項本文では、被告人と弁護人との接見が接見指定によっては制限されないことが規定されています。本決定は、「被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り」との刑訴法39条3項但書きと同様の条件を付し、余罪の捜査の必要性と、被告事件における被告人の防御権との調和を図る姿勢を明らかにした上で、本件で被告人が余罪事件につき逮捕・勾留されている事実を重視して、本件における接見指定権の行使には法令違反はないとしました。
これに対し学説では、捜査段階においては被疑事実及び起訴の態様が極めて流動的であり、このような接見指定がなされると防御権に対する不利益が看過できないものとなることをとりわけ重視すべきであり、接見指定が許されるのは、余罪事件について被疑者の身柄を利用した捜査を行う等の緊急の必要性が高い特別の場合に限るべきであるとの見解が有力です。これを踏まえると、本決定の判断における「被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り」との条件は、特に慎重に判断すべきであるといえるでしょう。