複数の横領行為のうち一部が審判対象となった場合に、対象外の行為についても審理できるか等争われた事案
事案
被告人は、自分の管理する他人の不動産に抵当権を付したのち(第一行為)、売却した(第二行為)。検察官が第二行為のみについて公訴を提起したところ、弁護人は、第二行為は第一行為たる横領行為の不可罰的事後行為として処罰の対象にはならないと主張した。最高裁は、横領後の横領行為にも横領罪を肯定するとして従来の判例を変更し、本件の第二行為には横領罪が成立すると判断した上で、検察官の訴追権及び裁判所の審理の範囲について、以下のように述べた。
判旨(最高裁平成15年判決)
…先行する抵当権設定行為について横領罪が成立する場合における同罪と後行の所有権移転による横領罪との罪数評価のいかんにかかわらず、検察官は、事案の軽重、立証の難易等諸般の事情を考慮し、…後行の所有権移転行為をとらえて公訴を提起することができる…。
…そのような公訴の提起を受けた裁判所は、所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり、犯罪の成否を決するに当たり、売却に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があったかどうかというような訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない。
…そうすると、本件において、業務上横領罪の成立を認め…た原判決の結論は、正当である。
コメント
現行刑事訴訟法の下では、当事者主義の観点より、検察官の設定した訴因が審判対象と解されています(刑訴法256条3項)。本件では、一連の横領行為の一部起訴がなされた場合における裁判官の審理対象を、検察官の訴因に限定すると判示して、本来犯罪の存在の証明責任は検察官にあるにも関わらず、被告人側が訴因外の犯罪の存在の証明を負いかねないという矛盾した帰結を回避しました。もっとも、本件の判断は、検察官の一部起訴が適法であることを前提とすると解されており、そもそも訴因に示された犯罪が実体法上不成立である場合や、訴訟条件を具備していない場合には、被告人の救済及び公正な刑事裁判の実現の観点から、訴因外の事情を勘案すべきといえるでしょう。