事案
被告人は、枉法収賄の訴因(本位的訴因)で起訴され、その後、贈賄の訴因(予備的訴因)を予備的に追加請求された。被告人は、本位的訴因と予備的訴因との間には、被告人の共犯者がYらなのかWらなのか、また、Xは賄賂を受け取ったのか、賄賂を供与したのかなどの点において、事実に相違があり、予備的訴因にそって有罪判決をしたことは、違法であるとして争った。
判旨(最高裁昭和53年決定)
「被告人Xは、公務員Yと共謀のうえ、Yの職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨で、Wから賄賂を収受した」という枉法収賄の訴因と、「被告人Xは、Wと共謀のうえ、右と同じ趣旨で、公務員Yに対して賄賂を供与した」という賄賂の訴因とは、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、両立しない関係にあり、かつ、一連の同一事象に対する法的評価を異にするに過ぎないものであって、基本的事実関係においては、同一であるということができる。
コメント
刑訴法312条1項は、「公訴事実の同一性を害しない限度において」訴因の変更が許されると定めています。つまり、「公訴事実の同一性」が認められない場合には、訴因変更手続きではなく、別個に起訴することが必要となります。そして、「公訴事実の同一性」とは、両訴因間の基本的事実関係が同一であることをいいます。本件では、収受した賄賂と供与した賄賂が同一であることから、被告人が贈賄と収賄の両方の主体となることはあり得ず、贈賄と収賄の両訴因は両立しない関係であるといえます。本決定では、このような両訴因の非両立性あるいは択一的関係の有無を判断することにより、基本的事実関係の同一性があるとして、「公訴事実の同一性」を認めました。