事案
被告人は当初、「被告人は、Aと共謀の上、…午後5時30分ころ、栃木県…の被告人方において、右Aをして自己の左腕部に覚せい剤を注射させた」という訴因で起訴された。しかし、その後に被告人が供述を変更したことから、検察官は「被告人は、…午後6時30分ころ、茨城県…所在スナックB店舗内において、覚せい剤を自己の左腕部に注射した」という訴因への変更を請求した。
判旨(最高裁昭和63年判決)
…検察官は、…被告人の尿中から覚せい剤が検出されたことと捜査段階での被告人の供述に基づき、…使用日時、場所、方法等を特定して本件公訴を提起したが、その後被告人がその使用時間、場所、方法に関する供述を変更し、これが信用できると考えたことから、新供述にそって訴因の変更を請求するに至ったというのである。そうすると、両訴因は、その間に覚せい剤の使用時間、場所、方法において多少の差異はあるものの、いずれも被告人の尿中から検出された同一覚せい剤の使用行為に関するものであって、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められるから、基本的事実関係において同一であるということができる。したがって、右両訴因間に公訴事実の同一性を認めた原判断は正当である。
コメント
刑訴法312条1項は、「公訴事実の同一性を害しない限度において」訴因の変更が許されると定めており、「公訴事実の同一性」があれば、訴因変更が認められます。本件では、「午後5時30分ころ、栃木県…の被告人方」と「午後6時30分ころ、茨城県…所在スナックB店舗内」という覚せい剤使用日時、場所について、また、「Aをして…注射させた」と「自己の左腕部に注射した」という使用方法について、両訴因間に異なる点があったことから、「公訴事実の同一性」が争われました。被告人の供述の変遷が同一の使用行為に関するものであり、また、検察官もそのことを前提として訴因の変更を請求したことに着目し、覚せい罪使用について非両立性があることから、本決定では、両者の間に公訴事実の同一性が認められました。