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刑事判例紹介(50)

事案

被告人らは傷害致死の容疑で、共謀が事前にあった(甲事実)として起訴されたが、共謀の形態について、現場での共謀があった(乙事実)という訴因に変更していれば、被告人らを有罪とする余地があった。しかし、裁判所は訴因変更を命じなかった。そこで、裁判所が乙事実へ訴因変更を命じなかったことが、審理不尽の違法になるのではないか争われた。

判旨(最高裁昭和58年判決)

①…被告人らが無罪とされた乙事実又はその一部が…傷害致死を含む重大な罪にかかるものであり、また、②「同事実に関する現場共謀の訴因を事前共謀の訴因に変更することにより右被告人らに対し右無罪とされた事実について共謀共同正犯としての罪責を問いうる余地のあることは原判示のとおりである」にしても、③「検察官は、約8年半に及ぶ第1審の審理の全過程を通じ一貫して乙事実はいわゆる現場共謀に基づく犯行であって事前共謀に基づく甲事実の犯行とは別個のものであるとの主張をしていたのみならず」、④「審理の最終段階における裁判長の求釈明に対しても従前の主張を変更する意思はない旨明確かつ断定的な釈明をしていたこと」、⑤「第1審における右被告人らの防禦活動は右検察官の主張を前提としてなされたこと」、⑥「乙事実の犯行の現場にいたことの証拠がない者に対しては、甲事実における首謀者と目される者を含め、いずれも乙事実につき公訴を提起されておらず、右被告人らに対してのみ乙事実全部につき共謀共同正犯としての罪責を問うときは右被告人らと他の者との間で著しい処分の不均衡が生ずることが明らかであること」、⑦「本件事案の性質・内容及び右被告人らの本件犯行への関与の程度など記録上明らかな諸般の事情に照らして考察すると、第1審裁判所としては、検察官に対し前記のような求釈明によって事実上訴因変更を促したことによりその訴訟上の義務を尽くしたものというべきであり、さらに進んで、検察官に対し、訴因変更命令を命じ又はこれを積極的に促すなどの措置に出るまでの義務を有するものではないと解するのが相当である」。

コメント

審判対象である訴因を設定・変更する権限は、検察官にあり、原則として裁判所には訴因変更命令をする義務はありません。しかし、不当な無罪を回避し、真実発見を図るために(刑訴法1条参照)、一定の場合には裁判所に対して訴因変更命令をする義務を認めるべきとされています。本件では、傷害致死という重大な罪につき、訴因を変更すれば被告人を有罪とする余地があることから、訴因変更命令義務があるとも思えます。しかし、本判決では、検察官が8年半に及ぶ審理過程を通して一貫して当初の主張を維持し、これを変更する意思はない旨明確かつ断定的な解釈をしたこと、被告人の防禦活動もその主張を前提としてなされたこと、被告人を有罪とすれば不起訴とされた他の者との間に著しい処分上の不均衡を生ずること等の諸般の事情の下(判旨①~⑦)では、裁判所は求釈明によって事実上訴因変更を促せば足り、訴因変更命令の義務まではないと判断しました。

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