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刑事判例紹介(56) – 公判の終盤で被告人が全面的な否認に転じたが、弁護人が従前の供述を前提に有罪を基調とする最終弁論をなしたこと等の違法性が争われた事例

公判の終盤で被告人が全面的な否認に転じたが、弁護人が従前の供述を前提に有罪を基調とする最終弁論をなしたこと等の違法性が争われた事例

事案

被告人は、共犯者らと共謀の上、被害者を殺害した上、死体を遺棄した等の罪について、捜査段階ではその基本的事実を認めていたが、起訴後公判の開始とともに、従前と異なる供述を主張し始め、第7回公判期日では、殺人及び死体遺棄について全面的な否認の主張をするに至った。これに対して弁護人は、被告人の従前の供述を前提として最終弁論を行い、裁判所はそのまま審理を終結した。このような訴訟手続が違法である等として、被告人側は上告した。

判旨(最高裁平成17年判決)

…そこで検討すると、なるほど、殺人、死体遺棄の公訴事実について全面的に否認する被告人の第6回公判期日以降の主張、供述と本件最終弁論の基調となる主張には大きな隔たりがみられる。しかし、弁護人は、被告人が捜査段階から被害者の頸部に巻かれたロープの一端を引っ張った旨を具体的、詳細に述べ、第1審公判の終盤に至るまでその供述を維持していたことなどの証拠関係、審理経過を踏まえた上で、その中で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたものとみることができる。また、弁護人は、被告人が供述を翻した後の第7回公判期日の供述も信用性の高い部分を含むものであって、十分検討してもらいたい旨を述べたり、被害者の死体が発見されていないという本件の証拠関係に由来する事実認定上の問題点を指摘するなどもしている。なお、被告人本人も、最終意見陳述の段階では、殺人、死体遺棄の公訴事実を否認する点について明確に述べないという態度をとっている上、本件最終弁論に対する不服を述べていない。
以上によれば、第1審の訴訟手続に法令違反があるとは認められない。

コメント

刑事弁護人は、その役割として、被告人の利益になるような行為を行うべき義務(誠実義務)と同時に、裁判所の真実発見に協力すべき義務(真実義務)を負い、誠実義務において何が被告人の利益となるかは「第一義的に弁護人にゆだねられ」ています。本件では、弁護人の最終弁論がその誠実義務に反する場合には訴訟手続自体が違法となりうるとした上で、本件の弁護人は、これまでの審理経過等を踏まえて被告人に最大限有利な認定がなされることを企図して主張をしたといえる等の事情に鑑みて、誠実義務違反はないとしました。この判断の前提には、有罪の前提で情状面での弁護を求めた本件の弁護人の行為が、客観的に被告人の利益にかなうといえるとの事情があります。もっとも、弁護士倫理の観点からは、弁護方針について被告人に真摯に説明し、その同意と信頼を得ていくことが重要といえます。

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