事案
業務上過失致死および道路交通法違反をもって起訴された事件につき、原審において認容された「公判前整理手続」後の訴因変更が、検察による権限濫用であるとして被告人側より控訴がなされたもの。
判旨(東京高裁平成20年11月18日判決)
破棄自判。業務上過失致死につき無罪、道路交通法違反(救護義務違反、報告義務違反)につき懲役8ヵ月と判決。なお、控訴理由である公判前整理手続後の訴因変更については、公判前整理手続の制度趣旨を、充実した公判の審理が継続的、計画的かつ迅速に行われることを企図するもの、としたうえで、係る趣旨を没却する訴因変更は制限されるべきであるが、本件訴因変更はこれにあたらない旨判示した。
コメント
訴因変更請求は、公訴事実に反しない限り、基本的に検察官の裁量に委ねられています。他方、公判前整理手続は、検察および被告人の当事者双方が、公判においてどのような主張を行う予定であるかを予め明らかにしたうえで、関連証拠を整理・明示し、訴訟の進行を明確かつスムーズなものにする制度です。本件では、せっかくこの手続を終えたのにもかかわらず、また新たに検討事項を増やすような訴因変更を行うことが適正であったか否かが問題となりましたが、裁判所は、係る訴因変更について許容範囲内である(従前の公判前整理手続の実効性を失わせるものではない)と判示しました。係る許容範囲については現状必ずしも明らかではないことから、判例集積による明確化が期待されています。