事案
強盗致傷の犯行を幇助した罪に問われた被告人について、公判前整理手続後、公判廷にて共犯者の供述がなされたことを受けて、弁護人は共犯者の捜査段階における各供述調書を弾劾証拠として取調請求をした。これに対し、原審は当該請求をすべて却下したため、弁護人は却下の違法性等を主張して控訴した。
判旨(名古屋高裁金沢支部平成20年判決)
同法(注:刑事訴訟法)328条による弾劾証拠は、条文上「公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うため」のものとされているから…証人尋問終了以前の取調請求を当事者に要求することは相当ではない。そうすると、…同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があるものと解すべきであ…る。
…公判前整理手続を実施した事件における弾劾証拠の採否に当たっては、同法316条の2第1項に規定する「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行う」ことの要請から、証拠としての「必要性」についても厳格な吟味を要する。
コメント
裁判員裁判における証拠調べ請求は、公判前整理手続においてなすことが義務づけられ、同手続終了後においては原則として認められません。もっとも、本判決は、供述の信用性を争うための証拠(弾劾証拠)について、証人尋問の終了前においては要件該当性を判断できないことから同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があると判示した上で、本件においては、共犯者が被告人から受けた指示の内容のくい違いという被告人の幇助行為の認定との関係で①重要な立場の者の、②被告人の実行行為の認定に不可欠の供述部分であり、③供述全体の信用性に重大な影響を及ぼし得る上に、④くい違いの程度が明白であり、⑤捜査段階の供述調書に記載のない事項を公判段階にて供述していること等に鑑みて、同法328条の証拠として採用すべきであり、これを誤った原審の決定を違法と判示しており、裁判員裁判においても供述の信用性を慎重に判断すべきことが示さています。