同種前科により事実認定をすることができるか争われた事案
事案
被告人は生活費に窮し、社会福祉のために募金をしようとしているように装って寄付金を集めて生活費に充当しようと企て、被害者に福祉事業に使用されるものと誤信させうえ、金員を騙し取ったとして、起訴された。裁判所は、被告人の故意を認定するために、同種詐欺事件を証拠としたが、弁護側は被告人が行った他の犯罪事実を証拠とすることは違法であるとして争った。
判旨(最高裁昭和40年判決)
犯罪の客観的要素が他の証拠によって認められる本件事案の下において、被告人の詐欺の故意の如き犯罪の主観的要素を、被告人の同種前科の内容によって認定した原判決に所論の違法は認められない。
コメント
被告人の悪性格を立証することは、裁判所が不当な偏見を抱くおそれがあり、法律的関連性を欠くものとして、証拠能力が否定されます。本件でも、同種前科を証拠として立証することは、被告人の犯人性の立証にあたるのではないかという点が争われました。しかし、本決定では、主観的要件の立証のために類似行為の立証を行うことは違法ではないと判断しました。本決定が立証を許容する実質的根拠は明らかではありませんが、本件行為時に被告人が違法な行為であると認識していたことを推認するものとして証拠能力を認めたものであるという考え方や、被害者が福祉事業のために募金を使うと誤信していることを被告人が認識していたことを推認するもとして証拠能力を認めたとする考え方があります。