事案
被告人Aと共犯関係にあるBの弁護人Yは、事件担当検事からAが素直に自供すれば起訴猶予も十分考えられる旨の内意を打ち明けられた。そこで、YはAの弁護人であるXを伴ってAに検事の言葉を伝えたところ、AはYの言葉を信じて起訴猶予になると期待して自白したが、起訴された。
判旨(最高裁昭和41年判決)
被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である。
コメント
「任意にされたものでない疑いのある自白」(刑訴法319条1項)には、証拠能力が認められません(自白法則)。これは、約束や偽計などが供述者の心理に影響を与え、類型的に虚偽自白誘発のおそれがあるからです。本件の約束自白についてみると、約束の主体である検事には起訴猶予の権限があり、また、起訴猶予というのは被疑者にとって最重要の利益であるといえます。そのため、被疑者は起訴猶予という大きな利益を得るために自白しようという心理状態に陥っており、類型的にみて虚偽の自白が誘発されるおそれがあったといえます。
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