量刑を判断する際に余罪を考慮しているのではないかが争われた事案
被告人は少女に性交類似行為をさせて児童に淫行をさせたとの公訴事実で起訴され、懲役1年2月に処された。また、同女を風俗店に働かせたとして公衆道徳上有害業務就労目的の労働者供給の事実でも起訴された。原審は、上記職業安定法違反の事実やその他の起訴されていない余罪を認定し、これらを実質的に処罰する趣旨で不当に重い量刑をしたのではないかと争われた。
判旨(最高裁平成15年判決)
起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料として考慮することは許されないけれども、単に被告人の性格、経歴及び犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料としてこれを考慮することは適法と解されるが、この理は同一被告人について他の裁判所に起訴されている犯罪事実についても同様と考えられる。
コメント
起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し被告人を重く処罰することは、①刑事訴訟法の基本原理である不告不理の原則に反し、法律の手続(憲法31条)によらず刑罰を科することになること、②証拠裁判主義(刑訴法317条)に反すること、③その余罪が後日起訴され有罪の判決を受けた場合は、既に量刑上責任を問われた事実について再び刑事上の責任を問われることになり憲法39条に反すること等の理由により許されません。本件では、本件公訴事実のほかに、現に他の裁判所に起訴され継続中の職安法違反の犯罪事実を認定し、これをも実質上処罰する趣旨で被告人に対する刑を量定した違法があるとされました。