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司法取引における新制度 – 司法取引の内容を弁護士が解説

日本において司法取引制度が、平成30年6月1日から導入されましたが、ご存知でしょうか。
司法取引は、欧米諸国で広く採用されているため、皆さんも司法取引という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

司法取引とは、簡単にいえば、被疑者や被告人が捜査機関に情報提供などの協力行為を行うことにより、自らの犯罪の量刑を軽くする取引をいいます。欧米諸国では、自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらうタイプの司法取引が盛んです。

一方で、日本で導入された司法取引制度は、欧米諸国と異なり、他人の刑事事件の情報提供をすることにより自らの犯罪の量刑を軽くしてもらうタイプの司法取引です。そのため、日本で導入された司法取引は、皆さんが耳にする欧米諸国の司法取引とは大きく異なります。そこで、日本で導入された司法取引制度について、制度の内容、対象犯罪、メリット・デメリット等を詳しく説明します。

導入された司法取引制度について

司法取引制度は、刑事訴訟法の平成28年の改正により、平成30年6月1日から施行され、導入されました。

日本版司法取引制度の趣旨

司法取引とは、被疑者や被告人及びその弁護人と捜査機関が協議し、「他人」の刑事事件の捜査公判に協力行為を行う代わりに、自らの犯罪を不起訴または求刑を軽くしてもらうことなどを合意することをいいます(刑事訴訟法第350条の2以下)。日本で導入された司法取引制度は、「他人」の刑事事件の解明に協力することにより自らの犯罪の量刑を軽くしてもらう「捜査・公判協力」型の司法取引です。

一方で、欧米諸国では、自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらう「自己負罪」型の司法取引が多く行われています。しかし、日本版司法取引は、組織的な犯罪の解明を目的として導入されたため、欧米諸国のように、自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらう方式の司法取引制度は採用されていません。また、被害者等の国民の理解が得られやすいことから、企業の関わる経済犯罪薬物銃器犯罪、組織的詐欺等を対象としています。

日本版司法取引制度の特徴

日本版司法取引は、組織的な犯罪の解明を目的として導入されており、国民の理解が得られやすいように、欧米諸国の司法取引と比べて範囲が限定されています。

他人の刑事事件が対象

欧米諸国では、自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらうといった方式の司法取引も採用されています。一方で、日本では、「他人」の刑事事件に関する協力をする場合に限り、司法取引に関する規定が適用されることになります。他人の典型例としては、共犯者や会社の上司等が挙げられます。

特定の犯罪に限定されていること

日本の司法取引は、企業の関わる経済犯罪(談合、脱税、贈賄等)、薬物銃器犯罪や組織的詐欺等を対象としています。
企業犯罪や組織犯罪の捜査・公判に協力してもらうことにより、事件の全貌解明にかかる時間の短縮や抜本的解決を図ることができるため、メリットの大きい犯罪に限定したといえます。

司法取引の協議・合意に弁護士の関与が必要とされていること

司法取引の協議には被疑者・被告人だけでなく弁護人が関与することが必要とされており、司法取引に合意するためには弁護士の同意があることが必要となります(刑事訴訟法第350条の3、350条の4)。

司法取引は、捜査機関側にとって、司法取引を合意するために供述を裏付ける資料が必要である一方で、被疑者側等にとっては供述が正しいのかどうかを慎重に見極めたり、被疑者側に不利益を生じることがないように慎重に対応したりする必要があるため、司法取引について弁護士の関与を必要としました。

偽証に対する罰則

偽証に対しては、刑事訴訟法第350条の15において以下のように規定されています。

「第三百五十条の二第一項の合意に違反して、検察官、検察事務官又は司法警察職員に対し、虚偽の供述をし又は偽造若しくは変造の証拠を提出した者は、五年以下の懲役に処する。」

簡単にいうと、嘘の供述をした場合には、5年以下の懲役となります。嘘の証言によって、事件に関係のない他人を巻き込み、冤罪を生み出すことを防ぐためであると考えられています。

司法取引制度の主な内容

司法取引は、上述のように、被疑者や被告人及びその弁護人と捜査機関が協議し、「他人」の刑事事件の捜査公判に協力行為を行う代わりに、自らの犯罪を不起訴または求刑を軽くしてもらうことなどを合意することをいいます。そこで、司法取引が成立するには、協議と合意が必要となります。

協議・合意の内容

司法取引の協議・合意を行う場合に、被疑者または被告人は、以下の行為のうち、1つまたは2つ以上を行う必要があります(刑事訴訟法第350条の2第1項1号)。

被疑者または被告人

  • 検察官、検察事務官または司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること。
  • 証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
  • 検察官、検察事務官または司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすること。

刑事訴訟法上、司法取引において、被疑者または被告人が行う必要がある行為は、「真実の供述」と「証拠の提出その他必要な協力」となっています。しかし、「協力」といった言葉は、多義的であり明確なものとは言えません。「真実の供述」や「証拠の提出その他必要な協力」を行った場合であっても、捜査機関にとって信用性が低いと判断される場合や事件の解明に役立たない場合には、「協力」が認められず、検察官は司法取引の合意に応じてくれない可能性があります。そこで、被疑者または被告人は、弁護人と十分な協議を行い、供述や証拠の信用性を担保することのできる裏付けとなる証拠等を事前に検討しておく必要があります。

検察官

司法取引の協議・合意を行う場合に、検察官は、以下の行為のうち、1つまたは2つ以上を行う必要があります(刑事訴訟法第350条の2第1項2号)。

  • 公訴をしないこと(不起訴処分にすること)
  • 公訴を取り消すこと(起訴を取り消すこと)
  • 特定の訴因及び罰条により公訴を提起し、またはこれを維持すること(軽い罪で起訴すること)
  • 特定の訴因もしくは罰条の追加もしくは撤回または特定の訴因もしくは罰条への変更を請求すること(起訴した後に、軽い罪に変更すること)
  • 刑事訴訟法第293条第1項の規定による意見の陳述において、被告人に特定の刑を科すべき意見を陳述すること(軽い量刑で求刑をすること)
  • 即決裁判手続の申立てをすること(罰金または執行猶予が見込まれる簡易な手続き)
  • 略式命令の請求をすること(罰金または執行猶予が見込まれる簡易な手続き)

検察官は、司法取引を行う場合、被疑者または被告人に対して、不起訴処分または軽い罪での起訴や軽い量刑での求刑を行う合意をすることになります。もっとも、不起訴処分になった場合であっても、検察審議会の審議を経て起訴議決された場合には、司法取引の合意は効力を失うため、注意が必要です(刑事訴訟法第350条の11)。

協議・合意に必要な手続

司法取引の協議・合意への弁護人の関与

被疑者または被告人は、刑を減軽してほしいという目先の利益にとらわれて、虚偽の供述をしていまい、罪に問われる可能性があります。そこで、供述が正しいのかどうかを慎重に見極めたり、被疑者側に不利益を生じることがないように慎重に対応したりする必要があるため、司法取引について弁護士の関与を必要としました(刑事訴訟法第350条の3第1項、第350条の4)。

司法取引の合意に関する弁護人の同意

上述と同様に、被疑者または被告人が司法取引に合意するためには、弁護人の同意が必要となります(刑事訴訟法第350条の3第1項)。

合意違反

合意をした被疑者または被告人と検察官は、相手方に合意違反があった場合に、司法取引の合意から離脱して、司法取引を破棄することができます(刑事訴訟法第350条の10第1項)。合意違反の例としては、供述が虚偽であったことが明らかになった場合が挙げられます。なお、検察官が合意に反して起訴した場合は、裁判所が公訴を棄却することになります(刑事訴訟法第350条の13第1項)。

司法取引の合意が不成立であった場合

合意が成立しなかった場合、検察官は、被疑者または被告人の供述等を証拠をとすることはできません(刑事訴訟法第350条の5第2項)。

司法取引制度の主な対象犯罪

司法取引制度導入の目的は、組織的な犯罪の解明にあります。また、国民の理解を得やすいという観点から、司法取引制度の対象犯罪は限定されています。そこで、司法取引の対象となる犯罪は、組織的な経済犯罪、薬物銃器犯罪、組織的な詐欺等に限定されています。司法取引制度の主要な対象犯罪は以下のとおりです。

法律

刑法で規定されている一部の犯罪(競売妨害、詐欺恐喝、贈収賄、横領、文書偽造等)
組織的犯罪処罰法に規定されている一部の犯罪(組織的詐欺、マネーロンダリング等)
覚せい剤取締法、大麻取締法、麻薬取締役法
銃砲刀剣類所持等取締法

政令

租税法違反(脱税等)
独占禁止法違反(談合等)
金融商品取引法違反(粉飾決算等)
会社法違反(特別背任等)
破産法違反(詐欺破産等)
貸金業法(無登録営業等)

今回の新制度導入で期待できること

刑事事件の真相の解明

他人の刑事事件について、被疑者または被告人が、供述したり証拠を提出したりすることにより、他人の刑事事件の発覚を早めたり、犯罪の捜査に役立つ情報を獲得することが可能になります。

密行性の高い犯罪の解明

日本版司法取引制度は、組織的な犯罪等における首謀者や背後者等の主犯格の解明を目的として導入されました。そのため、組織的詐欺グループ等のように密行性の高い組織的犯罪について、司法取引により首謀者等の主犯格に関する情報を得られやすくなり、事件の解明に役立つことが期待されます。

企業の関与する経済犯罪の解明

司法取引制度は、「財政経済関係犯罪」を主な対象としているため、企業の関与する組織的経済犯罪の解明も目的としています。具体的には、企業の関与する経済犯罪の実行犯である従業員を検挙した場合に、従業員から役員や上司等の主犯格の存在を明らかにする供述等を獲得し、組織的犯罪の全貌を解明することが挙げられます。

企業の内部監査で刑事事件が発覚した場合に、企業が司法取引を利用して捜査に協力し、企業に対する起訴を免れるというケースも想定されます。このように、司法取引制度は、企業の関与する組織的経済犯罪の解明に役立つことが期待されます。

捜査の短縮化

被疑者や被告人の協力を得ることにより、他人の刑事事件の真相を解明しやすくなるため、迅速に捜査や公判の手続きを進めることができます。また、捜査の短縮化が可能になることにより、捜査費用や裁判費用等のコストも削減できるようになります。

被疑者または被告人の量刑の減免

被疑者や被告人にとっては、他人の刑事事件について真実の供述や証拠を提出することにより、不起訴処分や執行猶予付きの判決が見込めるようになります。被疑者または被告人が犯罪組織の末端の構成員である場合は、犯罪に関与していたことに気づいておらず、刑罰を科すことが妥当でないことがあり、供述や証拠を提出するのと引き換えに犯罪の減免を得ることにより、適当な結論に至ることが予想されます。

無関係の人を巻き込む恐れも?

偽証による冤罪のおそれ

司法取引は、その性質上、被疑者または被告人が刑の減免のために、全く関係のない他人を巻き込み、「他人」の刑事事件に関する偽証を行う可能性がある制度です。また、捜査機関は、「他人」の刑事事件の重要な情報を獲得することを目的としているため、偽証に気付かないまま捜査・公判手続が行われ、冤罪を引き起こす可能性があります。さらに、被疑者または被告人は、偽証であることが明らかになると、司法取引が破棄されることに加えて罪に問われてしまうため、偽証であることを隠す可能性があります。

利益誘導のおそれ

捜査機関側は、重要な情報を獲得するために、被疑者または被告人に対して利益誘導するおそれがあり、被疑者または被告人は、刑の減免のために、利益誘導に乗り黙秘権を侵害されてしまう可能性があります。

そのため、被疑者または被告人の弁護人や捜査機関は、供述や証拠等の信用性を裏付ける客観的な資料があるか、利益誘導はなされていないか等を慎重に吟味する必要があります。

量刑の予測が立たないこと

アメリカでは、量刑の範囲は量刑ガイドラインで示されているため、司法取引を行った場合に、量刑を予測することが可能になります。しかし、日本の司法取引においては、量刑ガイドラインが存在していないため、被疑者や被告人が予想しているほどの刑の減免を受けることができないことが十分考えられます。

また、被疑者や被告人は、自らの刑を減免してもらえることを期待して、検察官との司法取引を申し出ることが多くなることが十分考えられます。

海外における司法取引制度の例

司法取引は、日本のように他人の刑事事件の情報を提供する「捜査・公判協力型」と自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらうといった「自己負罪型」に分類することができます。

「自己負罪型」の司法取引

アメリカでは、刑事事件の90~97%の割合で司法取引が行われているとされていますが、そのほとんどが「自己負罪型」です。「自己負罪型」の司法取引の目的は、捜査・裁判手続の効率化にあります。そして、「自己負罪型」の司法取引により、被告人は、判決で言い渡されると予測される刑より3割から4割程度の減軽を得ることができます。もっとも、アメリカで「捜査・公判協力型」の司法取引が行われる場合、終身刑であると予想される事件が数年の刑に減軽される例があるため、日本以上に偽証のおそれが高いといえます。

司法取引の対象犯罪

アメリカの司法取引において、日本と異なり対象犯罪はありません。

司法取引の手続

アメリカの司法取引は、捜査から公判廷までどの段階でも行うことができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
日本で導入された司法取引制度は、欧米諸国と異なり、対象犯罪が限定的であり、協力行為も明確ではありません。また、司法取引には弁護人が関与することが必須ですが、制度が明確ではないため注意が必要です。

更新日: 公開日:

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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