中村国際刑事法律事務所 | 刑事事件の実力派弁護士集団 中村国際刑事法律事務所
お急ぎの方へ メニュー

日大アメフトの悪質タックルは罪となるか – 罰則や量刑等弁護士が解説

今月(平成30年5月)6日、関西学院大学と日本大学のアメリカンフットボールの試合が行われました。今回、問題となったのは日大アメフト部「フェニックス」ディフェンシブ・ライン(DL)の選手が関学アメフト部「ファイターズ」クォーター・バック(QB)の選手に対し、3回にわたって執拗な反則行為を繰り返したことです。

中でも、問題視されている行為は、日大DLの選手が関学QBの選手に対し、後方からタックルを仕掛けた1プレー目の行為でした。これにより関学QBが右ひざなどに全治約3週間の傷害を負う結果となり、日大DL及び日大の監督やコーチに対する厳しい非難が連日続いております。

選手同士の激しいぶつかりあいが魅力でもあるアメフトの試合ですが、今回、なぜこのようなスポーツの一試合の出来事が社会問題にまで発展したのでしょうか。それは、問題となっているタックルが、関学QBがボールをパスし終わった約2秒後の、予期しない後方からのタックルであり、特に悪質であること。さらに、日大監督やコーチがこのような危険な行為によって関学QBを退場させることを予め指示していたのではないかという疑惑がもち上がったからです。

スポーツだから許されるのか。スポーツマンシップに反するということを超えて、犯罪に問われるのか、スポーツと犯罪の境界線はどこなのかが問われています。

正当行為と認められるか?

アメリカンフットボールの試合の見どころは何といっても選手同士の激しいぶつかりあいにあるといっても過言ではないのでしょう。アメフト以外でのスポーツでも、サッカーやバスケットボールではボールのキープなどを争って激しい選手同士の衝突があり、格闘技においては選手同士のぶつかり合い自体が競技の醍醐味でもあります。では、競技の結果、選手が負傷してしまった場合に全て犯罪が成立することになるのでしょうか。

仮に全て犯罪となるとすると、選手たちは犯罪が成立することを恐れ、萎縮することによって、激しいぶつかり合いのあるプレーをすることをためらってしまうようになるでしょう。そうなってしまっては、スポーツの魅力や醍醐味は失われ、興ざめとなってしまうのではないでしょうか。格闘技にいたっては成立すらしなくなってしまうでしょう。

そのため、スポーツの競技上のプレーという正当な行為によって生じた結果については法律上、犯罪が成立しないことになっていると考えられてきました。また、一般的にも、スポーツの上での事故に法律を形式的に適用することはやりすぎだと言われています。

このように、スポーツ上の事故については、一般的に、これまで刑事事件や裁判になることは少なかったと言っていいです。しかし、スポーツ上の事故であっても、悪質な行為により重大な結果を生じさせることはあります。今回の問題は、まさにスポーツと法律の関係について改めて考え直させるものであり、今回の日大DLの関学QBに対するタックルが、スポーツ倫理を超えて犯罪となるかどうかが問われることになるでしょう。

今回のプレーで考えられる罪名とは?

まず、今回の日大DLの関学QBに対するタックルがいかなる法令に触れると考えられるでしょうか。まず、考えられるものとしては傷害罪です。刑法の条文は以下の通りです。

(傷害罪)
第204条 人の身体を「傷害」した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(暴行罪)
第208条 暴行を加えた者が人を「傷害」するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(過失傷害罪)
第209条 過失により人を「傷害」した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
※「」は執筆者による

「傷害」とは学問上、人の身体に対する不正な有形力の行使のうち、人の生理機能を害する行為を指します。有形力の行使とは、身体がぶつかる・物をぶつける等、物理的な力を相手に加えることで、生理機能を害するとは身体に異常な症状を生じさせること言います。

人の身体に対するタックルはタックルというくらいですから有形力の格子と言えます。そして、このタックルにより、関学QBは右ひざ等全治約3週間の怪我を負っているため、日大DLによるタックルは外形上「傷害」に当たり得るでしょう。

また、「故意」が認められない場合には「過失」に当たり得ることになりますが、今回の日大DLのタックルは、誤ってぶつかってしまったというものではなく、過失ではありません。故意は認められます。こうして、今回問題となった日大DLの行為は、外形上は、刑法204条の傷害罪に当たる可能性があります。

「外形上」と言ったのは、法律専門用語で言えば、「構成要件」に該当するということです。しかし、犯罪が成立するためには、「構成要件」に該当するだけではなく、さらに、その行為が違法であること(違法性)、そして、行為者が「責任能力」のある状態で行ったことが必要となります。今回の問題は、その中でも、日大DLのタックルに「違法性」が認められるかどうかです。

スポーツ中の行為の違法性阻却(正当業務行為)の有無について

(1)正当業務行為とは何か

犯罪が成立するには、行為が法令に違反し、かつ違法であることが必要になります。正当行為とは、行為が形式的には法令に違反する場合でも、例外的に違法性が認められない行為のことを指します。違法であるということは行為が社会通念に照らして相当と認められない行為をさします。刑法では、このように、違法性阻却事由(違法性が認められない場合のある自由)として正当業務行為を規定しております。さっそく、条文を見てみましょう。

(正当行為)第三十五条 法令又は「正当な業務による行為」は、罰しない。
※「」は執筆者による

今回の日大DLの関学QBに対するタックルは、正当業務行為にあたるか問題となります。一般的に正当業務と認められる行為としては、医師による診察・外科手術の執刀等、多くのものが挙げられます。医師は患者の身体を傷つけますので、外形上(構成要件上)傷害罪になりますが、正当業務行為として「違法性」を欠き、当然のことながら、犯罪にはならないのです。では、今回のタックルは正当業務行為と認められるでしょうか。

「業務」とは、人が社会生活を営む上で、反復・継続して従事する事務のことを指します。業務はこれを仕事として行う必要はなく、これによって報酬を得る必要もありません。したがって、競技によって報酬を得るプロのスポーツ選手だけではなく、アマチュアのスポーツ選手の行為も「業務」に該当します。

違法性がないと言えるためには、業務は「正当な」行為であることが必要です。正当な行為とは、難しい言葉を使えば、行為が「公序良俗」に反しない場合を指します。公序良俗とは、要するに、一般社会秩序や道徳観念を指します。

今回の事件は、アメフトというスポーツの試合中に起こったものであり、スポーツそれ自体はもちろん一般社会秩序や道徳観念に反するものではありません。ただ、個々のプレーを見たときに、そのような「公序良俗」を逸脱するプレーがあることも事実なのです。今回のような行為は、果たして、正当な業務行為と認められるでしょうか。

(2) スポーツと正当業務行為について

多くのスポーツでは、選手同士の衝突は避けられないものであり、その結果の事故であるならば、通常、一般社会秩序の観点や健全な道徳観念、つまり、公序良俗に反する行為とは認められないと考えられています。もっとも、このことは、行為がルールに則ったプレーであることが前提であり、ルールに違反する悪質なプレーについては正当業務行為であると言えません。

<大阪地裁昭和62年4月21日判決>では空手の私的な練習中に起きた事故により、被害者が死亡した事件について、同判決は練習の相手の行為について違法性阻却事由を認めず、以下の通り傷害致死罪を成立させました。

スポーツの練習中の加害行為が被害者の承諾に基づく行為としてその違法性が阻却されるには、特に「空手」という危険な格闘技においては、単に練習中であったというだけでは足りず、その危険性に鑑みて、練習の方法、程度が、社会的に相当であると是認するに足りる態様のものでなければならない。
<中略>
被告人は…なんら正規のルールに従うことなくかかる危険な方法、態様の練習をすることが右社会的相当行為の範囲内に含まれないことは明らかであって、被告人の本件行為は違法なものであるといわなければならない

このように、スポーツの上での事故であるからといって、必ず正当な行為と認められるわけではなく、その「危険性に鑑みて」「社会的に相当である」と認められる態様のものでなくてはならず、特に、「なんら正規のルールに従うことなく」行われた危険な行為については違法性が認められることになります。

そうすると、今回の日大DLの関学QBに対するタックルは、関学QBがパスをし終わり、ボールを離して約2秒後に行われており、このような、不必要でアンフェアなプレーは、何ら正規のルールに則ったものではない反則行為(アンネセサリーラフネス)で、かつ、悪質と言えます。また、この行為は、関学QBの予期しない後方からのタックルであり、危険性が高い行為であって、場合によっては重大な怪我に至ってその後の社会生活に支障の出る恐れすらあったと言えるでしょう。このような行為はアメフト内部からも「通常ありえないプレー」との声があがっています。

今回の日大アメフト部と関学アメフト部の試合は、双方が歴戦のライバルであることから長年行ってきた「定期戦(関東学生アメフト連盟開催)」であり、公式戦ではありませんでした。しかし、先にあげた裁判例に照らすなら、今回の日大DLの関学QBに対するタックルについては違法性阻却が認められず、傷害罪が成立する可能性が高いといえるでしょう。

傷害罪に該当するとして、選手はどうなる?

仮に、今回の日大DLの行為が、傷害罪となる場合、選手はどうなってしまうのでしょうか?まず、逮捕はされません。この選手は、自ら会見を開いて行為の非を認め、被害を受けた選手や家族に謝罪しています。

逮捕や勾留というのは、事実を否認していて、他と通謀するなど、罪証湮滅のおそれがある場合や、氏名も住居も分からず、放っておけばどこかに逃亡してしまう場合に認められるのであって、今回の選手には、そうした意味での罪証湮滅のおそれや逃亡のおそれも全くないと考えていいです。また、傷害の程度に関しても全治約3週間ということですから、重篤な傷害結果とまでは言えず、街中である喧嘩でもこの程度の傷害結果を伴う事件であれば、逮捕せずに在宅捜査で処理される事例は数多くあります。

もっとも、逮捕はされなくても、被害者から被害届が出ていますので、警察は捜査を尽くして事件を検察庁に送らなければなりません。日大DLは、今後、警察から任意で事情聴取を受けることになります。取調べは一回で終わる場合もありますし、二回、三回と続く場合もあります。警察は、取調べの中で、どうしてそのようなラフプレーをしたのか。誰かの指示があってしたのか。行為のあと、誰とどのような会話を交わしたのか。今はどう思っているか。今後、慰謝の措置をとっていく予定があるか。こういった諸事情を詳細に聞いて、供述調書というものにまとめ、他の書類とともに検察庁に送ることになります。おそらく、検察庁に送るまでに2か月、3か月程度はかかるのではないでしょうか。

その後、検察官からも呼び出しを受け、取調べがなされ、主に、警察で話したことを確認されますし、その後の示談交渉の状況なども聞かれます。選手には、弁護士が就くでしょうから(すでに就いていると思います)、その弁護士さんが被害者側と示談交渉を進め、その成立を目指します。そして、示談が成立すれば、ほぼ間違いなく、起訴猶予処分となり、日大DLの選手には前科がつきません。

仮に、示談が成立しなかった場合でも、本件の傷害結果の程度が比較的軽いことや背景事情等からすると、正式起訴にはならないでしょう。重くて略式罰金刑だと思います。また、仮に示談が成立しない場合であっても、反省の情が深く、社会的制裁を受けていることなどを考慮して起訴猶予となる可能性はかなりあると思います。

選手だけでなく監督やコーチにも傷害罪が成立する?

この点は、まだ事実関係の全容が明らかになっていないので、詳細な言及を避けますが、仮に、日大監督やコーチがそのような反則行為となる悪質タックルを当該選手に指示していた場合、教唆犯(刑法第61条)が成立する可能性があります。

「教唆」とは、人に犯罪行為を遂行する意思を生じさせて、それに基づき犯罪を実行させることを意味します。傷害を教唆したとして、正犯者、つまり、選手自身と同じように罪責を負う可能性はあります。しかし、この点については、まだ事実関係が十分に解明されておらず、あくまでも仮定の話です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。これまで、スポーツと犯罪はあまり関係があるとは思っていなかった方も多いと思います。スポーツ賭博くらいでしょうか。しかし、ケースによっては傷害罪を問われる事例はあるのです。

スポーツに怪我はつきものですが、それが犯罪とならないのは、ルールに則って行われるからです。スポーツという名のもとでルールを無視して誰かを故意に傷つける行為は犯罪行為にほかならず、決して許されることではありません。そのような行為は、当事者のみならずその家族、選手を応援する人々や、そのスポーツに対する信用までも傷つけることになりかねません。今回の事件を教訓として、今一度、フェアプレーを心がけて、フィールドでプレーし、またプレーをする選手を温かく見守っていきたいです。

#ハッシュタグ
更新日: 公開日:
Columns

関連する弁護士監修記事を読む

経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

このページをシェア