事案
準強制わいせつ被告事件の被告人に対して、原々決定は、被害者らとの接触を禁止するなどの条件を付した上で保釈を許可した。検察官が抗告を申し立てたところ、原決定は、被告人が罪証隠滅することは容易で、その実効性も高いとして、保釈を許可した原々決定を取り消した。これに対して、さらに特別抗告がなされた事案。
判旨(最判 平成27年4月15日)
原々審は…現時点では…被告人による罪証隠滅のおそれはそれほど高度のものとはいえないと判断したものである。それに加えて、被告人を保釈する必要性や、被告人に前科がないこと、逃亡のおそれが高いとはいえないことなども勘案し、(被害者との接触禁止等の)条件を付した上で裁量保釈を許可した原々審の判断は不合理なものとはいえず、原決定は、原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない。そうすると、原々決定の裁量の範囲を超えたものとして取り消し、保釈決定を却下した原判決には…違法があり…原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
コメント
裁量保釈(刑事訴訟法90条)が認められるのは、本来であれば保釈すべきでない事情があるにも関わらず、保釈を認めるのを相当とする特段の事情が存在すると裁判所が判断した場合です。
本件は、原々決定において1度許可された保釈を、原決定が取り消すことはどのような場合に認められるかということが争点となりました。
この点、参考にすべきは、平成26年11月18日第1小法廷決定(刑集68巻9号1020頁)であり、「抗告審は、原決定の当否を事後的に審査するものであり、被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていることに鑑みれば、抗告審としては、受訴裁判所の判断が、委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか、すなわち不合理でないかどうかを審理すべきであり受訴裁判所の判断を覆す場合は、その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある」と判示されています。明示はされていませんが、本決定も26年決定の理解に従ったものと評価できるでしょう。