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淫行勧誘罪とは – AV出演強要の淫行勧誘罪を弁護士が解説

淫行勧誘罪とは、女子に淫行させる罪で、刑法では風俗に対する罪(174条~184条)に分類されています。風俗に対する罪とは、性生活等における社会的な風俗・慣習を害する罪をいい、他には強制わいせつ罪や重婚罪、賭博罪等の犯罪も分類されています。

特に、淫行勧誘罪の場合、女性の性的な自己決定権及び社会の健全な性風俗を害することを防止する目的で規定されています。

71年間、適用されることがなかった

女子に淫行をさせる罪としては、これ以外に売春防止法・職業安定法・児童福祉法などがあり、実際にはこれらの条文が適用されるケースが多く、淫行勧誘罪が適用されることはほとんどありませんでした。しかし、先日、あるAV制作会社の社長に淫行勧誘罪が71年ぶりに適用されました。これは、昨今改めて問題となっている「AV(アダルトビデオ)出演強要」について淫行勧誘罪を用いて対応しようという司法行政のあらわれといえるかもしれません。

淫行勧誘罪の成立要件とは

淫行勧誘罪について、条文では以下のように規定されています。

刑法 第182条(淫行勧誘罪)
営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦 淫させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

営利の目的

基本的には財産上の利得を指します。そして財産上の利得は、自らこれを享受する場合ではなく、第三者に享受させる場合も含みます。したがって、AV制作会社や性風俗店で働かせることを目的として、第三者が女子に淫行を勧誘する場合にも適用されます。

淫行の常習のない女子

「淫行」とは、手段・動機において健全な性道徳からは許容されない性行為一般のことを指します。つまり、淫行とは性行為の本番行為のみならず、手淫・口淫等を広く含みます。そして「淫行の常習」とは不特定を相手に性的交渉をもつ習慣のあることを指し、また「女子」は、強制性交罪と異なり、13歳未満の女性も含みます。

勧誘

勧誘とは、客体である女子に「姦淫」をすることを思い至らせる行為のことを指します。そして、本罪は「勧誘」して「姦淫」させることが必要であるため、勧誘が行われたとしても女性が自らの意思で姦淫する場合や姦淫するにあたって勧誘行為が実際にはなんら影響しなかった場合には成立しません。

姦淫

姦淫とは一般的に、性交渉の本番行為、つまり男性器の一部または全部を女性器に挿入する行為を指します。もっとも、これについては淫行と同じく、健全な性道徳からは許容されない性行為一般を指すという見解もあります。ただし、強姦罪が強制性交に変わることに伴い、「姦淫」が「性交等」に言葉を変えました。性交等には肛門性交又は口腔性交も含みますので、改正に伴いこれらの行為も姦淫に含まれる可能性があります。

淫行勧誘罪の罰則とは

上記の行為をしたものについては、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。ただし、18歳未満の者にこれらの行為をさせた場合、児童福祉法第34条1項6号違反となり、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその両方が科されます。

なぜ今この罪が注目されているのか

上記の通り、淫行勧誘罪とは、営利の目的で女子を姦淫させる罪です。そして、第三者が介入し、女子(とりわけ未成年や貧困等で経済的に自立できない者)に姦淫させることは昔から社会問題とされてきました。もっとも、昭和31年に売春防止法という法律が制定されました。同法では、以下のように規定しています。

売春防止法(抜粋)
第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
第五条 売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、通路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
第七条 人を欺き、若しくは困惑させてこれに売春をさせ、又は親族関係による影響力を利用して人に売春をさせた者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 人を脅迫し、又は人に暴行を加えてこれに売春をさせた者は、三年以下の懲役又は三年以下の懲役及び十万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
第一二条 人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は、十年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。

このように、第三者が女性に売春をさせる行為は売春防止法や児童福祉法、職業安定法等を適用することにより対応してきたため、特に淫行勧誘罪を適用する必要がありませんでした。つまり、今まで適用されるケースは少なかったといえます。

もっとも、前述の通り、先日淫行勧誘罪で、あるAV制作会社の社長が逮捕されました。そのことにより、淫行勧誘罪を適用することで「AV出演強要」問題に対応できるのではないか、注目されることになりました。

「AV出演強要」問題とは

AV(アダルトビデオ)出演強要問題とは、貧困等により経済的に自立していない女性や芸能界を目指して都会に移転した女性に対し、「高収入が得られる」、「芸能界にデビューできる」等という甘言を用いて、知らない間にAV出演契約を締結させられ、本人の意思に反してAV出演を強要されるという問題です。そして一度契約を締結してしまうと、親族や友人にそのことをバラす、あるいは高額な違約金の請求を威嚇として次々と出演を繰り返させることになります。

このような不当な勧誘行為は以前から問題視されていたところ、SNS等の普及により、被害者による匿名の告発が可能になったことで、問題が昨今、より顕在化してきたといえるでしょう。

これにより、政府は第4次男女共同参画基本計画で、女性に対して本人の意に反してアダルトビデオに出演を強要することは、「女性に対する暴力」にあたると指摘し 、内閣府では「女性に対する暴力に関する専門調査会」がAV出演強要問題に関する調査を開始し 、また警察庁生活安全局保安課長は2016年6月、「アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について(通達)」を全国の警察に対して出し、取締りの推進、定期報告等を進めていくことを決定しました 。

民間団体としては、「ヒューマンライツ・ナウ」というNGO(非政府組織)が被害者の支援に関する声明を発表し、AV業界団体であるNPO法人知的財産振興協会(IPPA)は「被害に遭われた方々が実際に存在しているということに関してAV業界は重く受け止めるべきであり、改善の必要がある」との見解を表明しました。このように「AV出演強要」問題は昨今、社会の重大な関心事となっていました。

淫行勧誘罪が適用される意義

従来の運用で「AV出演強要」問題に対応することは困難となってきていた事情がありました。なぜなら、AVの出演は「不特定の相手方と性交すること」にあたらず、「売春」に該当しないと考えられるため、売春防止法では対応できませんでした。

また、職業安定法や労働者派遣法を適用するには女性が「労働者」といえなければならず、プロダクション側は出演女性との「労働契約」ではなく、「業務委託契約」等の謡い、これらの法律の適用を免れてきました。しかし、淫行勧誘罪は、ご説明の通り「勧誘」行為一般に適用することができ、これらの問題に対応することが期待できます。

また、このような事例が積み重なることにより「AV出演強要」問題のみでなく、女性を食い物にする新たな性犯罪を防止することが期待できます。

今後の課題

もっとも、淫行勧誘罪を適用することですべての問題が解決できるわけではありません。刑法182条は「姦淫」させる行為のみを罰しており、強姦罪の改正に伴い、これを「性交等」、あるいはもっと適用範囲をひろげるべきではないかという問題があります。また、罰則が売春防止法等他の法令による罰則と比べても軽く、性犯罪を重く罰しようという昨今の情勢に適合していないのではないかという問題も残ります。

更に、一度撮影された映像は動画サイト等を通じて、無限に電子の砂漠の中を彷徨うのであり、被害者の心理的負担を完全に解消することは困難です。こうした新たな犯罪やその二次被害を防止するため、淫行勧誘罪やその他の法律が今後どのように適用されていくのかは今後十分に注目する必要があるといえるでしょう。

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