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逃走の罪とは – 成立要件や処罰は一体どうなる? 詳細を弁護士が解説

愛媛県の松山刑務所の作業場から受刑者の一人が脱獄し、逃走したことが話題となっています。その後、広島市内で逮捕されました。逃走罪で逮捕状が出ていたと思うので、令状逮捕です。逃走してからなんと22日ぶりの逮捕でした。

脱獄と言えば、去年、2017年にテレビドラマとして放映された「破獄」も話題となりました。青森刑務所、秋田刑務所、網走刑務所、札幌刑務所で合計4回脱獄した無期懲役囚(山田孝之)と看守(ビートたけし)との闘いを描いたドラマでした。実在のモデルがいるということで、「白鳥由栄」ではないかと言われています(「昭和の脱獄王」と言われました)。まだ裁判を受けていない被疑者が取調べ中などに隙をついて窓から逃走するという事例は聞くことはありますが、囚人が刑務所(刑事施設)から脱獄するという事件は滅多に耳にしません。

脱獄というのは一般の市民生活を送っている人々にとっては、脱獄犯によって窃盗・強盗などの犯行が行われるのではないかという不安が広がり、社会治安上、重大な影響を及ぼす犯罪でもあります。今回の事件でも、愛媛県や近県における学校や幼稚園等で刑務官による警備が実施されるなど、第2、第3の犯罪が起きないような警戒態勢がとられました。では、服役中において刑務所から逃走したら、一体どのような処罰が科されるのでしょうか。

「逃走の罪」の種類および刑罰について

今回のように、受刑者が刑務所から逃走した場合、刑法第97条で規定された逃走の罪にあたります。逃走の罪は、受刑者自らが逃走する罪(①単純逃走罪、②加重逃走罪)と、受刑者を逃走させる罪(③被拘禁者奪取罪と④逃走援助罪と⑤看守者等逃走援助罪)に分類されます。では、それぞれどのような罪なのか、詳しく見ていきましょう。

受刑者自らが逃走する罪

①単純逃走罪

こちらは「裁判の執行により拘禁された既決または未決の者」が対象となります。ここでいう「既決の者」とは、既に確定した判決によって拘禁されている人のことです。「未決の者」とは、勾留状によって拘禁されている人のことで、逮捕によって拘束された被疑者は含まれません。

上記の対象者が逃走、つまり看守の実力的な支配を脱して初めて逃走罪が成立します。そのため、刑事施設内にとどまっている限りは未遂となります。こちらの刑罰は「1年以下の懲役」となります。

②加重逃走罪

こちらは上記「逃走罪」の対象者のほか、「勾引状の執行を受けた者」も対象となります。「勾引」とは、裁判所が被告人、証人、身体検査を受けるべき者について一定の場所に連れて行って行う裁判のことです。「勾引状」とはその執行のための令状です。

「執行を受けた者」には逮捕状で逮捕された者も含まれますが、現行犯逮捕・緊急逮捕は逮捕状によらないので含まれません。このように、加重逃走罪の対象者の範囲が単純逃走罪の対象よりも広いのは、以下に説明するように、器具を使って逃走するなど、犯行態様が悪質だからです。加重逃走罪は以下のようないずれかの行為が成立要件となります。

  • 拘禁場または拘禁のための器具を損壊し、逃走
  • 暴行・脅迫を行い逃走
  • 二人以上の通謀を行い逃走

こちらの刑罰は「3月以上5年以下の懲役」となります。社会的相当性からの逸脱は、単純逃走より加重逃走の方が大きいため、法定刑は、単純逃走より加重逃走の方が重くなっています。

受刑者を逃走させる罪

③被拘禁者奪取罪、④逃走援助罪、⑤看守者等逃走援助罪があります。いずれも「法令により拘禁された者」が対象となります。これは国家により身体の自由を拘束されている者の全てを含みます。

上記2罪の主体でなかった、現行犯逮捕・緊急逮捕された被疑者も含まれます。また、既に拘禁されている者だけでなく、拘禁場所への連行中であっても認められるとされています。そして、被拘禁者が逃走することでこれらの犯罪は成立します。

③被拘禁者奪取罪

こちらは、「法令により拘禁された者」を「奪取」する犯罪です。ここで言う「奪取」とは、拘禁された者を自己または第三者の実力的支配下に移すこととされます。外国の犯罪アクション映画では、よく見られるケースです。

④逃走援助罪

こちらは、拘禁された者を逃走させるという目的で、逃走を容易にすべき行為をするか、または、暴行・脅迫をする犯罪です。典型的には、逃走のために器具(鉄格子を切るための鋸など)を与えるなどの行為です。

因みに、逃走に成功した者を援助したり、かくまったりしても逃走援助罪にはなりません。逃走援助罪はあくまでも「逃走させる目的」で援助する場合であって、逃走成功後に事後的に助ける行為は含まれないのです。但し、事後的に逃走した者をかくまえば犯人蔵匿罪となって処罰され、旅費等を渡して逃走を続けさせれば犯人隠避罪が成立して罰せられます。

⑤看守者等逃走援助罪

こちらは、「拘禁された者を看守・護送する者」、つまり看守者が、拘禁された者を逃走させるという犯罪です。本罪は看守者が「拘禁された者の逃走を容易にさせる行為をした」ことにより成立します。また、逃走しようとしている事実を認識しながらも、放置することも本罪の処罰対象となります。

保釈中に逃走した場合、逃走罪は成立しないの?

逃走の罪は、「拘禁された者」が対象ですから、例えば、保釈中の者は含まれません。保釈された被告人が逃げてしまい、裁判に出てこないという事例は少なからずあります。この場合には、逃走しても犯罪にはならず、保釈が没収されるだけです(法律用語では「没取」と言います)。

逃走罪はあくまでも国家の拘禁作用を保護法益とする犯罪なので、拘禁されていない者が逃走しても逃走罪にはなりません。勾留執行停止で釈放中の者が逃走した場合も同じで、逃走罪は成立しません。ただ、保釈中あるいは勾留執行停止中の者が逃走した場合、それをかくまったり、助けたりしたものは犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が成立します。

犯人蔵匿罪や犯人隠避罪の保護法益は「国家の刑事司法作用」なので、それらの逃走者を手助けすることは捜査や裁判を妨害することになり、犯罪となるのです。逃走した本人が罪を問われず、かくまった者が罪を問われるというのは、おかしいという議論はあります。もっとも、逃走した本人も、誰かにかくまってくれとか旅費をくれなどとお願いして助けてもらったときには、犯人蔵匿教唆罪や犯人隠避共済罪が成立します。

保釈中に逃走した大きな事件としては、イトマン事件の許永中が保釈金6億円で保釈されたが、その後、韓国で逃亡したという事件でした。2年後に東京で拘束されましたが、保釈金6億円は没収されました。半額は弁護団が出していたそうです。

脱獄した受刑者にはどのような罪が成立?

それでは、今回松山刑務所の作業場から逃走した事例のように、刑務所(刑事施設)から逃走した脱獄囚にどのような刑罰が科されるでしょうか。彼は松山刑務所大井造船作業所での懲役に処せられていたので、「拘禁された既決…の者」(97条)にあたります。

そして、「逃走した」とは刑事施設外へ脱出する等により、看守者等の実力的支配を脱することをいいますが(広島高判昭和25・10・27)、今回の件でも松山刑務所のある愛媛県から、広島県まで移動しており、松山刑務所の看守者の実力的支配を脱したと言え、「逃走した」といえます。そして、逃走の態様としては、特に器具等を用いたり、囚人仲間と通謀などしていないようなので、加重逃走罪ではなく、単純逃走罪が成立するでしょう。

単純逃走罪だけなら懲役1年以下の犯罪ですからそれほど重くはありません。しかし、囚人服だけの着の身着のままで逃走する訳ですから、その後新たに犯罪を行うことが多いです。衣類の窃盗、食べ物の窃盗、雨露をしのぐために空き家に侵入、無賃乗車などの詐欺をするかもしれません。

今回の事件では、現在、移送先の愛媛県警の警察署において逃走罪で取調べを受けています。逃走の動機、逃走の犯意発生時期、逃走の状況、逃走後の足取りなどについて連日取調べが行われているはずです。その中で、逃走過程で新たな犯罪を行っていないかも取り調べられているはずです。例えば、逃走手段として車を盗んでいないか、建造物などに立ち入っていないか、食べ物や衣類を盗んでいないかなどです。車や食べ物、衣類などを盗めば窃盗罪が成立しますし、空き家に立ち入って寝泊まりすれば建造物侵入罪などが成立する可能性があります。窃盗罪は懲役10年以下の刑であり、建造物侵入は3年以下の懲役です。

今回の事件でも、おそらく、逃走罪の捜査が終わり、それが起訴されると、窃盗罪や建造物侵入罪などで再逮捕される可能があります。そしてそれらの罪全てについて裁判を受け、有罪判決を受けると、現在の服役中の罪の服役期間にかなりの期間プラスされて服役することになるでしょう。

このように、結局、逃走した者は捕まれば服役期間が長くなるだけですが、何よりもこの種の事案を防止することが大切です。逃走するからには動機があるはずで、その動機を解明し、また、逃走を防止するために刑事施設の逃走防止体制も見直す必要があるでしょう。

「塀のない刑務所」の長短

今回の逃走の舞台となった松山刑務所大井造船作業所は、民間造船所である新来島どっく大西工場敷地内にあり、受刑者はこの敷地内の寮で共同生活し、昼間は一般作業員と一緒になって溶接などの作業に従事します。もちろん、看守の刑務官はいますが、周囲に鉄格子はなく、いわゆる「塀のない刑務所」として知られています。ここに入る受刑者は模範囚に限られます。刑務所なの鉄格子がないなんてと思う方もいらっしゃると思いますし、特に今回の事件を受けて、こういう刑事施設の見直しの声もあがってくるでしょう。

どうして、このような刑事施設が作られたかと言うと、刑務所というのは一般社会から隔絶された特殊な世界です。あらゆる日常生活が規則で縛られ、食事、入浴、掃除といった生活行為の全てが集団行動です。歩き方ひとつとっても勝手な歩き方はできません。刑務所の建造物構造も鉄扉、鉄格子に囲まれ、鉄扉の開閉の音さえも一般社会生活では聞くことのない冷徹な響きを持ちます。そして刑務官の甲高い号令や命令など、一般の社会生活とはかけ離れているのです。そうした特殊な環境の中で服役生活を長年送ると、服役を終えて社会に出たときに、うまく適応できない人も出てきて、それが再犯に繋がるというケースも決して少なくないのです。

そこで、一部の受刑者について、服役期間の終わりころの段階で、実社会へのスムーズな復帰を促すために、開放的な施設に収容するという運用がなされるのです。実社会に近い環境の中で集団生活を行い、協調性や自立心を養って、実社会に出たときにも戸惑うことのないように、更生を可能にする、それがこうした開放的な「塀のない刑務所」の目的であって、それは刑事政策的には意味のある制度なのです。ですから、今回の逃走事件があったからと言って、直ちにそうした刑事施設の廃止という結論に飛びつかないことが肝要です。なぜ逃走を防止できなかったのか、施設や監視体制のハード面からの検証と、刑務官と受刑者との人間関係というソフト面からの検証が必要であると思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。社会が発展し、企業も成長し、NPOなどの団体も育成された現代は、「国家」という団体組織以外の様々な団体や組織が社会の重要な機能を担い、社会を豊かにしています。このような時代に育つと、もう国家は要らないのではないかといった気分にさせられてしまいがちですが、こうして脱獄犯が出るとやはり国家、警察、刑務所は必要だと身近に思わされます。

犯罪を行った人を適正な手続の下で裁き、判決に従った刑期を刑事施設で確実に服役させて再犯を防止し、社会の平穏な生活を守るという機能を担えるのは国家以外には難しいでしょう。

一方で、服役囚にも憲法上の基本的人権の保障はあり、法の下で適正な拘禁手続が確保される必要はあり、しかも、刑事収容施設が、やがては実社会に戻ってくる受刑者にとって真の更生に資するものでなければ、矯正教育、再犯防止といった刑務所における矯正目的は挫折してしまいます。そういう大きな視点に立って、今回の脱獄事案を考えることが必要だと思います。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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