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公職選挙法違反の量刑や逮捕された場合について弁護士が解説

公職選挙法違反と一口に言っても、公職選挙法には多くの種類の行為が犯罪として規定されていますので、一体どのような行為が違法なのか分かりにくいでしょう。
選挙応援に関わっていたら、いつの間にか犯罪に関わってしまっていたということも少なからずあります。

では、具体的にどのような行為が罪に該当するのか、また、公職選挙法違反で逮捕された場合の弁護活動について代表弁護士・中村勉解説いたします。

公職選挙法とは

公職選挙法とは、国会・地方公共団体の議員及び長などの公職の定数や選挙方法等について規定している法律です。この法律は、選挙が公明かつ適正に行われることを確保し、民意を正しく反映させることを目的としていますので、そのためのルールと、ルールに違反した場合の罰則も定められています。

公職選挙法で禁止されている行為

では、実際に公職選挙法では、どのような行為が禁止されているのでしょうか。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元年における公職選挙法違反の検察庁新規受理人員は、前年の138人から720人に増加しており、令和元年における各種選挙違反の検挙人員(640人)を違反態様別に見ると、「買収、利害誘導」が486人(75.9%)と最も多く、次いで、「選挙の自由妨害」52人(8.1%)、「文書図画に関する制限違反」42人(6.6%)、「詐偽登録、虚偽宣言等、詐偽投票、投票の偽造・増減、代理投票における記載義務違反」41人(6.4%)の順でした(警察庁の統計による)。

※「令和2年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節 (moj.go.jp)」抜粋

以下、公職選挙法が定める犯罪のごく一部とはなりますが、上記検挙率順に、各種罪の内容とその罰則、それに該当しうる行為について紹介します。

買収及び利害誘導罪(公職選挙法第221条)

最も多く事件化され、逮捕報道もある「買収および利害誘導罪」は、以下のいずれかの行為をしたときに成立します(公職選挙法第221条1項各号)。

  1. 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
  2. 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき。
  3. 投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し上記①に掲げる行為をしたとき。
  4. 上記①若しくは上記③の供与、供応接待を受け若しくは要求し、上記①若しくは上記③の申込みを承諾し又は上記②の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。
  5. 上記①から③までに掲げる行為をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。
  6. 上記①から⑤までに掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき。

「選挙人」とは選挙権を有する人のことです。
特定の候補者を当選させるため、すなわち、特定の候補者に投票してもらうことを目的として、選挙人や選挙運動者に対し、お金や物、財産上の利益、職務の供与等を行った場合には上記①に該当することになります。実際に供与まではしていなくても、そのような供与をすると約束したり、そのような話を持ち掛けたりしただけでも上記①に該当します。また、目的が、特定の候補者を当選させないこと、すなわち、特定の候補者に投票させないことにあった場合も同様です。

行為の主体が、候補者本人である必要はありません。自分が個人的に応援している候補者を当選させたいがために、このような行為をすれば、公職選挙法違反になってしまうのです。
お金等を供与を受けた側、あるいは実際に供与を受けるまでには至っていなくても、それに応じる旨約束した側は、上記④に該当しますので、同じく公職選挙法違反で立件される可能性があります

例えば、選挙活動をしている人から「今度、食事をおごるから、次の選挙では○○さん(○○党)に投票してね」などと言われた場合には、はっきり断るようにしなければ、自分も公職選挙法違反の被疑者になってしまいかねません。買収目的の取引には断固応じないことが懸命です。
買収及び利益誘導罪の刑罰は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です(公職選挙法221条1項)。
候補者本人や選挙運動を総括した者、出納責任者が上記の行為をした場合には、より重い、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます(公職選挙法221条3項)。

選挙の自由妨害罪(公職選挙法第225条)

選挙に関して、以下のいずれかの行為をした場合には、選挙の自由妨害罪に問われます(公職選挙法第225条各号)。

  1. 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
  2. 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。
  3. 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

選挙人や候補者、選挙運動者、候補者になろうとする者、あるいは当選した候補者に対して暴行や威力等を加える行為は、選挙に関わるこれらの人々を萎縮させ、選挙の自由を妨害するため、厳しく規制されています。
もっとも身近な行為としては、上記②に規定されている「文書図画を毀棄」する行為があります。選挙ポスターを故意に破り捨てたり選挙ポスターに落書きをしたりした場合には、上記②に該当するとして、公職選挙法違反に問われる可能性があります。
選挙の自由妨害罪の刑罰は、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

文書図画に関する制限違反(公職選挙法第142条等)

公職選挙法では、第142条以降に文書図面に関する制限が定められています。
選挙運動のためのはがき及びビラの規格や頒布できる種類の数、枚数等が定められているほか、頒布できるパンフレットや書籍の規格や頒布できる種類の数も定められています。さらに、頒布方法についても規制があり、ウェブサイト等や電子メールを利用して頒布する場合の方法についても細かく規定されています。
このような文書図画に関する制限に違反した場合の刑罰は、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金となっています(公職選挙法第243条1項3号ないし5号、2項等)。

詐偽投票罪、投票偽造・増減罪(公職選挙法第237条)

選挙人でない者が投票した場合には、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処せられます(公職選挙法第237条1項)。
氏名を詐称する等して他人になりすまして投票したり投票しようとしたりした場合には、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処せられます(公職選挙法第237条2項)。
また、投票を偽造したり、投票の数を増減したりした場合には、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処せられます(公職選挙法第237条3項)。

その他の選挙運動に関する禁止事項

上記以外にも選挙運動に関する禁止事項として、以下のものがあります。

事前運動の禁止(公職選挙法第129条)

選挙期間以外で、事前に選挙活動をすることを制限しています。例えば、次の選挙のために公示日(告知日)前にあいさつ回りなどの選挙活動を行うことは禁止されています。
違反した場合は、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金(公職選挙法第239条1項1号)に処されます。

飲食物の提供の禁止(公職選挙法第139条)

買収行為に関して物や財産上の利益等も対象となると上述しましたが、買収行為には当たらなくても、選挙運動に関して飲食物を提供する行為は、いかなる名義をもってするかにかかわらず、禁止されています(公職選挙法第139条)。
ただし、選挙運動に従事する人等のために選挙事務所において食事をするためのお弁当(候補者1名について15人分×1日3食まで、弁当料は政令で定める額の範囲内等制限あり。)や、湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度のお菓子については除外されます。とはいえ、選挙運動の応援に関しては原則ボランティアでなければならず、規定を超えたものについては買収行為と判断されかねませんので、注意が必要です。
当該規定に違反して飲食物を提供した場合には、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金に処せられます(公職選挙法第243条1項1号)。

年齢満18年未満の者の選挙運動の禁止(公職選挙法第137条の2)

満18歳未満の選挙運動は禁止されています(公職選挙法第137条の2第1項、第2項本文)。ただし、満18歳未満の者を選挙運動のための労務に使用することは除かれます(公職選挙法第137条の2第2項ただし書)。
この規定に違反して、選挙運動を行った満18歳未満の者や、満18歳未満の者を使用して選挙運動をした者は、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます(公職選挙法第239条1項1号)。

戸別訪問の禁止(公職選挙法第138条)

選挙での投票依頼などを目的に有権者宅や会社へ戸別訪問することは禁止されています(公職選挙法第138条)。
違反した場合は、上記と同じように1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます(公職選挙法第239条1項3号)。

寄付の禁止(公職選挙法第199条の2)

候補者や候補者となろうとする者が選挙区内の人に対し寄付することは禁止されています(公職選挙法第199条の2)。お見舞い金やお祝い金はもちろん、お中元やお歳暮も寄付に当たり得ます。

当該規定に違反して選挙に関し寄付をした場合、一年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処せられます(公職選挙法第249条の2第1項)。なお、候補者本人が選挙区内の人の決行披露宴や葬式等に自ら出席した上で祝儀や香典を渡した場合、それが選挙に関しないもので、かつ、通常の一般の社交の程度を超えないものであれば、罰則対象になりませんが、候補者の秘書や関係者等が代理で出席して祝儀や香典を渡した場合には50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(公職選挙法第249条の2第3項)。

あいさつ状の禁止 (公職選挙法第147条の2)

候補者や候補者となろうとする者が選挙区内の人に年賀状や寒中見舞い、暑中見舞いなどのあいさつ状を出すことは禁止されています(公職選挙法第147条の2)。ただし、答礼のため自筆で書いたものを出すことについては、禁止されていません。

公職選挙法違反事例

買収等の注目度の高いニュース以外にも公職選挙法に抵触してしまう可能性があり、ここでは最近のニュースを取り上げて紹介いたします。

  • 障がいある娘の代わりに投票で起訴
  • 自閉症である娘の代わりに投票用紙に記入・投函した母親が、公職選挙法違反の疑いにより在宅起訴されたという事例。

  • 前副市長が職員に現職の市長への投票を依頼
  • 衆議院選挙において、町長の立場を利用して複数の職員に対して特定候補者への投票や票の取りまとめを依頼したことで、公職選挙法違反の疑いで逮捕されたという事例。

この他、選挙期間中に候補者の名前を出した有料インターネット広告を配信した事例、選挙期間中に有権者へスイカを配った事例などがあり、意外なことで公職選挙法に抵触してしまう可能性があります。

公職選挙法違反行為で逮捕されたら

公職選挙法違反の行為を立件されたとしても、必ずしも逮捕されるわけではありません。警察等から任意で呼び出されたタイミングで、出頭する日よりも前にすぐに弁護士にご相談・ご依頼いただくことで、逮捕を回避するための活動をしてもらい、実際に回避できる可能性があります

また、取調べでの対応の仕方が後々の処分にも影響してきますので、事前に刑事事件に強い弁護士からアドバイスをもらっておくことが重要です。特に公職選挙法違反では、故意、すなわち、行為当時に本人が認識していた内容という主観面が犯罪の成否に大きく関わる場合が多く、捜査機関においては犯罪が成立する方向の供述を引き出すことに熱心になりますので、否認しているにもかかわらず、取調官に誘導されるまま答えていたら、いつの間にか故意を認めたことになっていた、ということもあり得ます。

公職選挙法違反で逮捕され、身柄が拘束されている状態の下では、肉体的にも精神的にも辛い状況に追い込まれますので、取調べもより過酷なものとなることが予想されます。ご家族が公職選挙法違反で逮捕された場合には、一刻も早く弁護士に相談し、逮捕されたご本人との接見に行ってもらうようにしてください

公職選挙法違反の事案は特殊です。捜査機関の主目的は、多くの場合、連座制(選挙運動の関係者に違反行為があったことを理由として、当該違反行為に直接関与していない候補者に対し当選無効等の不利益を与える制度)によって候補者に責任を負わせることにありますので、取調べ対応については、選挙対策本部の組織体制を踏まえた適切な助言が重要になってくることもあります。
ご自身が公職選挙法違反で立件された場合、ご家族が公職選挙法違反で逮捕された場合には、刑事事件の経験が豊富で、このような特殊な事案にも対応可能な弁護士に急いで相談するのが賢明です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。捜査機関は公職選挙法違反に対しては厳しい姿勢で臨んでいますので、上に挙げた禁止行為に該当する可能性がある場合には、とりあえず弁護士に相談するようにされてください。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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