ケリー被告人に執行猶予判決|代表弁護士中村が解説|刑事事件の中村国際刑事法律事務所

ケリー被告人に執行猶予判決|代表弁護士中村が解説

刑事弁護コラム

ケリー被告人に執行猶予判決|代表弁護士中村が解説

 カルロス・ゴーン事件で,共犯者として起訴されたグレッグ・ケリー被告人に対し,判決が下されました。
 2022年3月3日,東京地裁は,金融商品取引法違反で起訴されたケリー被告人について,懲役6月,執行猶予3年間の判決を下しました。検察官求刑は懲役2年でしたので,おそらく検察は控訴すると思います。

 事件の内容は,カルロス・ゴーン(日産自動車前会長)と共謀のうえ,カルロス・ゴーン被告人の役員報酬計約91億円を,2010年度分から2017年度分の有価証券報告書に記載しなかったというものでしたが,東京地裁は,2010年度分から2016年度分については共謀を否定し,2017年度分(約17億円分)のみの共謀を認めたものです。全面無罪を争っていたケリー被告人もこれを不服として控訴する可能性が高いです。
 検察のストーリーはこうでした。投資家,株主等ステークホールダー(利害関係者)の手前,ゴーン氏の高額な報酬を開示したくなかったゴーン氏がケリー氏らと共謀して,年度ごとに支払額が決まっていた役員報酬を退任後に受け取れるように仮装することとし,そのスキームとして,ゴーン前会長が同業他社に移らないことへの対価などの「名目」で契約書を作り,ケリー氏がゴーン氏らと共謀してそのスキームに関与したというものでした。
 判決の詳細や証拠の詳細が分からないので推測になりますが,おそらくその契約書は存在し,証拠として提出されたのでしょう。またその契約書作成にケリー氏が関与したことも証拠上明らかだったのでしょう。
 ただ,その契約書は,報酬隠しを仮装するための「名目」上作られたものではなく,実際に,優秀な経営者であるゴーン氏が同業他社にとられてしまわないために,その引き留めの手段として作成されたもので,その対価は「役員報酬」ではない,というのが弁護側の主張でした。2017年度を除き,東京地裁は,その主張につき合理的であるとしてこれを認めたのです。
 もちろん,そうした認定に相反する証拠はありました。前秘書室長らの供述です。しかし,その供述は司法取引で獲得されたもので,東京地裁は,その判決の中で,検察との司法取引に応じた元秘書室長(司法取引に応じたので検察は不起訴にしている)について,「不起訴という最も有利な処分を受けている。判断にあたっては信用性を慎重に検討すべきだ」と判示しました。

司法取引の要件と問題性

 司法取引制度とは,特定の財政経済・薬物銃器犯罪において,被疑者や被告人が裁判の中で共犯者の供述や証拠の提出といった協力をする代わりに,検察官から不起訴,刑事責任の減免を保証してもらう制度のことです。2018年6月に施行されたばかりの同制度が適用されるのは,同年7月に三菱日立パワーシステムズの元取締役らが在宅起訴された外国公務員への贈賄事件に続き,2例目でした。
 司法取引制度は正確には合意制度及び刑事免責制度と言います。
 合意制度とは,被告人や被疑者が他人の犯罪事実を明らかにして捜査や公判に協力した場合に,見返りとして刑が軽くなる等の合意を検察官とすることができる制度です。捜査や公判の協力とは,取調べや公判において真実の供述をしたり,証拠収集に協力したりすることです。司法取引制度は,確かに組織内の密室で謀議される経済事犯など,今まで立証が困難であった犯罪において,この制度の導入により真実解明が可能となりました。
 一方において,他人の刑事事件の捜査公判に協力行為を行う代わりに,自らの犯罪を不起訴または求刑を軽くしてもらうことなどを合意することになるので,刑を軽くしたい容疑者は,検察に迎合し,検察のストーリーに沿った供述をする危険性があるのです。
 今回の事件では,元秘書室長らが司法取引により,不起訴の恩恵を受けましたが,裁判所が,「不起訴という最も有利な処分を受けている。判断にあたっては信用性を慎重に検討すべきだ」としたのは,まさにそうした虚偽供述の危険性に着目したものでした。

 本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

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