刑事判例紹介(32)
事案
覚せい剤自己使用罪の嫌疑がある被告人に対して,現場に約6時間半以上の間留め置いた後,強制採尿のための捜索差押令状を執行したところ,被告人が激しく抵抗したため,警察官は被告人の両腕を制圧して,警察車両に乗車させ,病院に向かい,医師をして被告人の尿を採取した。このような警察による有形力を伴う連行が違法である等として,被告人は上告した。
判旨(最高裁平成6年判決)
身体を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には,強制採尿令状の効力として,採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ,その際,必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。…その場合,右令状に,被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより,被疑者の所在場所が特定しているため,そこから最も近い特定の採尿場所を指定して,そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも,明らかである。
コメント
強制採尿令状の効力として,被疑者をその意思に反して採尿場所へ連行できるか,争いがあります。本件連行は,強制採尿令状による司法審査が連行行為にも及ぶと解されることを理論的根拠として,要件(任意同行が事実上不可能か),場所(最寄りの場所か),手段(必要最小限度での有形力か)を厳格に解した上で適法としました。これに対して,令状執行前に,任意捜査として被告人を約6時間半以上の間現場に留め置いた行為は,被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において,任意捜査として許容される範囲を逸脱し,違法としました。本判決は,これらの判断枠組みを通じて,捜査機関による恣意的な捜査を阻止し,もって被疑者の人身の自由の確保を図っているものといえます。