刑事判例紹介(34) – 旧法下において検証許可状による電話傍受の合憲性が争われた事案
事案
平成6年7月22日から23日までの間,暴力団による組織的継続的な覚せい剤密売の嫌疑のある被疑者に対して,警察官は,検証許可状の発付を受けて,電話傍受を行った。このような警察の捜査が違法である等として上告された。
判旨(最高裁平成11年判決)
電話傍受は,通信の秘密を侵害し,ひいては,個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが…重大な犯罪に係る被疑事件について,被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり,かつ,当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに,通話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において,電話傍受により侵害される利益の内容,程度を慎重に考慮した上で,なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには,法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許される…。
コメント
検証令状に基づいて電話傍受をすることが憲法上許されるかについては,争いがありました。本件は,極めて厳格な要件の下でのみ許容されるとした上で,本件の事案は,対象者の嫌疑が明白であるにもかかわらず,電話傍受以外の手段を用いて覚せい剤を密売する被疑者らを特定することが著しく困難であり,かつ,適正な令状審査を経ていること等から,合憲性を肯定し,強制処分のうちの検証(刑訴法218条1項)に該当して適法であると判断しましたが,学説からは,強制処分法定主義(刑訴法197条1項但書)に反するとの批判がなされました。今日では,本判決の約4か月前に公布された「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(通傍法)及びこれと同時に追加された刑訴法222条の2により,傍受令状(通傍法4条1項)によらなければならないこととされ,立法的な解決が図られています。なお,平成28年度には,同法が一部改正され,以前は4犯罪に限られていた対象犯罪の拡大等がなされており,その運用にあたっては対象者のプライバシー権に対して一層の配慮が求められるといえます。