筆跡鑑定に証拠能力が認められるかが争われた事案
被告人は、脅迫容疑で起訴された。筆跡鑑定人が、被告人の筆跡と脅迫ハガキの筆跡を同筆と鑑定したのに対して、被告人側は伝統的筆跡鑑定による鑑定には証拠能力が認められないとして筆跡鑑定の証拠能力を争った。
判旨(最高裁昭和41年判決)
いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と感(勘)に頼るところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであって、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、とはいえないことはもちろんである。したがって、事実審裁判所の自由心証によって、これを罪証に供すると否とは、その専権に属する事柄であるといわなければならない。
コメント
筆跡鑑定は、点や線の形や組み合わせ、筆順、筆圧、筆勢、配字状況等の検査により、比較対照する筆跡の同一性を識別するものです。本判決では、伝統的筆跡鑑定方法が鑑定人の経験と勘に頼ることがあるとしながらも、方法の合理性・客観性があり、識別の正確性が経験的に高められていれば、証拠能力を肯定すると判断しました。
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