刑事裁判(公判)手続きの流れを解説
まず,刑事事件が発覚する契機となる,警察による捜査活動とはどのように始まるのでしょうか。
概ね,職務質問や被害届の提出・受理をきっかけに開始されます。被害者の取調べ,現場検証,遺留品捜査,DNA鑑定,付近の防犯カメラの解析,聞込み等による目撃者捜しと事情聴取,時には令状に基づく個人宅等への捜索を行い,事件に関係していると考えられる物を差押えたりしながら犯人を特定していきます。
警察に「逮捕」された後の流れとは
警察は犯人を逮捕した後,48時間以内に被疑者の身柄,事件の関係書類や証拠等を検察庁に送ります。この手続きを,送検と言います。その間に被疑者に対する取り調べが行われ,供述調書が作成されます。また,逮捕後72時間は,家族であっても面会することは難しいです。
一方,弁護士であれば,この逮捕後72時間の間に面会(接見)することが可能です。
送検後,検察官は24時間以内に引続き身柄拘束を続ける必要があるか否かを判断し,身柄拘束を続ける必要があると判断した場合には,裁判所に対し勾留請求を行います。また,検察官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断した場合には釈放されます。
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勾留とは
検察官による勾留請求がなされた場合,裁判官が勾留するかどうかを決定します。裁判官が勾留の必要があると判断した場合,勾留請求がなされた日から10日間の範囲で勾留されます。この間,警察署(代用監獄)に身柄を拘束され,取り調べが行われることとなります。10日間以内に捜査が終わらない場合,検察官から勾留延長請求がなされ,裁判官が勾留延長の必要があると判断した場合には,さらに約10日間勾留が延長され,取り調べが続けられることとなります。複数の犯罪の嫌疑がかけられ,再逮捕される場合は,さらに長期化することもありえます。
勾留中に起訴された場合でも,一般的に勾留は続きます。これを被告人拘留と言います。起訴後の勾留期間は原則2ヵ月ですが,逃亡のおそれがあるなど勾留の必要性が認められる場合,1ヵ月ごとに期間が更新され,勾留が続きます。
しかし,これ以上の勾留の必要性はないと判断された場合や,保釈請求が認められた場合,身柄解放されることになります。
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在宅事件とは
被疑者が犯罪の事実を認めていたり,逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合,逮捕や勾留を行わず刑事手続を進めることがあります。このような事件を在宅事件と呼びます。
在宅事件は,警察による捜査から始まり,その後検察に送致,最終的に検察で公判請求,罰金,不起訴といった終局処分が決定する流れとなっています。在宅で捜査が開始した事件は,捜査がある程度進むと検察に送られます(書類送検)。検察官は,捜査内容を検討し,不足している点があればさらに捜査を行い,被疑者を再度呼んで事情聴取したうえで,正式裁判を請求するか,略式裁判(罰金)を請求するか,あるいは不起訴にするかを決定することになります。
また,軽微な事案では警察が検察に送致しない場合もあります。逮捕されていたものが釈放されて在宅事件になる場合や,当初は在宅で捜査が開始した事件でも,突然逮捕されて身柄事件に切り替わることもあります。
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起訴とは
勾留期間内で,検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定します。起訴とは,検察官が裁判所に対し特定の刑事事件について審判を求めることをいいますが,公判請求と略式命令請求があります。
公判請求とは,通常の法廷での裁判を求めることで,略式命令請求とは,通常の公開の法廷での裁判を経ず,検察官が提出する証拠のみを審査して100万円以下の罰金又は科料(千円以上1万円未満の金銭的罰則)を科す簡易な裁判を求めることです。一方で,不起訴となった場合には釈放されます。
略式手続を弁護士が解説
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刑事裁判(公判)はどのように始まるのか
公判請求を受けた裁判所が,公開の法廷で裁判を開きます。裁判では,本人確認後,検察官が起訴状を読み上げて,その後起訴状に書かれている犯罪事実を認めるかどうかを聞かれます。次に,検察官が証拠・証人によって被告人が有罪であることを立証しようとし,その後弁護人が被告人にとって有利な事情を証拠や証人により立証しようとします。
その後,弁護人,検察官,裁判官がそれぞれ被告人に対し尋問を行います。
尋問が終わると,検察官が被告人に対する求刑を行い,続いて弁護人が被告人にとっての有利な事情を踏まえながら同じく意見(弁論)を述べます。最後に被告人本人が裁判官に対し意見を述べて終わります。
罪を認めて争わない事件の場合,通常1週間前後で判決を言い渡すための裁判が開かれ,判決が言い渡されます。有罪判決でも執行猶予付きの判決だった場合にはそのまま身柄は釈放されますが,保釈中に有罪の実刑判決を受けた場合はその後拘置所に収容されることになります。
判決に不服がある場合には,判決を言い渡された日の翌日から14日以内に控訴を申立てることが可能です。
略式命令請求を受けた裁判所は,検察官から提出された証拠をもとにその事件が略式命令をするのに相当であると判断した場合には,略式命令請求の日から14日以内に100万円以下の罰金又は科料を科します。一方で,略式命令をするのに相当でないと判断した場合には,通常の裁判手続きに移行させることになります。実際に略式命令を受けた被告人も,これに対し不服がある場合には,その日から14日以内であれば通常の公開法廷での裁判を請求することができます。
冒頭手続
人定質問
出頭した者が起訴状に記載されている被告人と同一人物か否かを確かめるものです。裁判長が被告人に氏名,生年月日,本籍,住所などを質問します。
起訴状の朗読
検察官が起訴状を朗読します。
黙秘権の告知
裁判長は,被告人が公判中終始沈黙しまた個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨,陳述をすることもできる旨,陳述をすれば自己に不利益な証拠ともなりまた利益な証拠ともなるべき旨を告げます。
起訴状認否手続
被告人および弁護人に事件について陳述する機会が与えられます。通常,「はい,間違いありません」とか,「殺すつもりはありませんでした」など起訴事実に対する認否を答えます。この時,裁判長は不明な点について質問することがあります。
この時点で,「簡易公判手続」が適用される場合もあります。それは,事件が死刑または無期もしくは1年以上の懲役もしくは禁錮にあたるものでない場合,つまり比較的軽微な事件で,被告人が有罪の陳述をした場合には,その訴因(起訴状に記載された具体的犯罪事実のことをいいます)についてのみ,審理がある程度簡易化された「簡易公判手続」による旨を決定することがあるのです。実務では,この簡易公判手続はあまり利用されていません。また,「即決裁判手続」が検察官により申立てられている時はこれによることを決定するのはこの段階です。
証拠調手続
「証拠調べ」とは,検察側,被告側がそれぞれ証拠によって証明しようとする事実を証明する(立証)活動のことをいいます。刑事事件では,「疑わしきは被告人の利益に」という大原則に則り,まず検察側が公訴事実の存在を「合理的な疑いをいれない程度」まで立証しなければなりません。
冒頭陳述
検察官が証拠に基づいて証明しようとする事実を述べます。これにより事件の全体像が明らかになります。
公判前整理手続を経た事件である場合には,被告人(または弁護人)にもこのような冒頭陳述を行う義務があります。
証拠調べの範囲・順序・方法の決定
検察官および被告人(または弁護人)の意見を聴いたうえで裁判所が決定します。
証拠調請求
まず検察官が行い,その後被告人(または弁護人)が行います。検察官は,「証拠等関係カード」に立証に必要な書証,証拠物,証人を記載する形で請求します。
請求の時期は第1回公判期日以降いつでもなされます。ただし,公判前整理手続が行われた場合で集中審理が予定されているときには,第1回公判以後の新たな証拠請求は原則的にできないことになっているので注意が必要です。
証拠調べの請求をするには「証拠の特定」をしなければなりません。目撃者,被害者本人,鑑定人などの証人(「人証」ともいいます)については,その住居・氏名を,実況見分書,鑑定書,供述調書などの「証拠書類」(「書証」ともいいます)および犯罪に使われた凶器などの「証拠物」(「物証」ともいいます)については,その標目を記載した書面(これを「証拠等関係カード」といいます)を提出することによって証拠の特定がされます。
証拠調べについての決定
請求当事者のそれぞれの相手方(または弁護人)の意見を聴いた後に裁判所が却下するか採用するかについて決定します。
証拠調べの実施
証拠調べには次のものがあります。また,相手方のなした証拠調べについては異議を申し立てることができ,裁判所は直ちに申立てに対する決定を下します。
尋問(証人尋問,鑑定人尋問)
人証の証拠調べは「尋問」の形式でなされます。証人について,請求をした当事者がまず「主尋問」をし,その直後に相手方当事者が「反対尋問」をし,さらにその後請求当事者が「再主尋問」をします。裁判官が補充尋問をすることもあります。
証拠書類の取調べ
記載内容が証拠となる書面を「証拠書類」といい,これの証拠調べは「朗読」の方法でなされます。原則的に,請求者が朗読します。ただし,裁判長が当事者の意見を聴き,相当と認めた場合には,朗読に代えてその要旨のみを「告知」することができます。
証拠物の取調べ
ある物(書面を含む)の存在や形状を証拠とするときには,「展示」という形で証拠調べがなされます。凶器である包丁を示すなどがこれに当たります。
被告人質問
被告人に対しては「尋問」することはできませんが,被告人が,「質問」に対し,黙秘権,供述拒否権を理解したうえで任意に供述することができます。具体的には,まず弁護人が被告人に質問し,検察官が次に質問し,裁判官が最後に補充質問をします。
証拠書類等の提出
証拠書類または証拠物については,証拠調後,裁判所に提出されます。
弁論手続
証拠調べ完了後,検察側および被告人側それぞれが事件についての意見を陳述しますが,これを「最終弁論」といいます。
まず,検察官が事件に対する意見,また,被告人に対してどのような刑罰(懲役何年に処すべきか等)を科すのが相当であるかについての意見の陳述(「論告・求刑」)を行い,それに続き弁護人が事件に対する意見陳述(「弁論」)を行います。この際,被告人側が有罪であることを認めている場合には,「情状」について述べることになり,弁護人は執行猶予付きの刑または減刑などの処置を求める弁論をします。また,最後に,被告人自身も最終陳述を行う機会があります。
こうして弁論が終結(「結審」)します。
判決宣告
このようにして,当事者の主張を聴き,証拠調べの結果を踏まえ,裁判官(3人以上の「合議体」による場合は裁判所)は事件についての有罪または無罪の判決をし,これを裁判長が宣告します。有罪判決の場合は,刑の言渡しがなされ,執行猶予が付与される場合は同時に言渡されます。
以上が公判手続の概要です。第1回公判から判決までの期間ですが,認めている事件であれば,1回の公判期日で結審し,判決が概ね10日後か2週間後くらいに指定されます。争われている事件では,早くても2,3か月かかり,事案によっては1年以上かかる,長期裁判もあります。
しかし,近時,公判前整理手続や裁判員裁判制度が新設されてからは,かつてあったような,10年裁判というのはほとんどなくなりました。