刑訴一部改訂解説(7) – 裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化
概要及び解説
刑事訴訟法の改正により,裁量保釈の判断に当たっての考慮事項が条文化されることになりました。裁量保釈とは,裁判所が適当と認めるときに職権で保釈を許すことができるというものです。つまり,保釈請求がないような場合であっても,裁判所が良しとすれば,被告人の拘禁状態を解くことができる制度です。
刑事訴訟法89条に保釈を許さない事由が列挙されている必要的保釈と比べ,従来の裁量保釈は,同法90条に「裁判所は適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる。」とあるのみでいかなる場合に認められるのか条文上明らかではありませんでした。
そこで改正により,「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか,身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上,経済上,社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し」の文言が追加され,裁量保釈に当たっての考慮事項が明文化されることになりました。もともと,実務的には,事件の軽重,事案の性質・内容,犯情,被告人の性格,経歴,行状,前科・前歴,家族関係,健康状態,審理の状況,勾留期間,身元引受人の存在や関係,被告人の職業などの諸事情を考慮し,保釈の必要性や相当性を判断していました。
したがって,改正による実質的な変更があるというわけではなく,単に今までも考慮してきた事項を明確化にしたにすぎません。