新たな痴漢対策|痴漢対策ハンコは犯罪となるか弁護士が解説|刑事事件に強い元検事弁護士が強力対応

新たな痴漢対策|痴漢対策ハンコは犯罪となるか弁護士が解説

刑事弁護コラム 新たな痴漢対策|痴漢対策ハンコは犯罪となるか弁護士が解説

新たな痴漢対策|痴漢対策ハンコは犯罪となるか弁護士が解説

 近頃,SNSで「痴漢にあった場合は,安全ピンで刺せばよい」とのアドバイスについて話題となりました。
 ①安全ピンの場合は,傷害罪になるのではないか,②「正当防衛」だから大丈夫ではないか,③そのために安全ピンを持ち運んでいれば,「積極的加害意思」があるので,正当防衛にはならないのではないか…といったものです。
 そんな中,ハンコメーカーが,痴漢の犯人の手に押す痴漢ハンコの開発を始めると提案して話題になっています。犯人の手に「痴漢ハンコ」を押すこと で,痴漢をしたことの証拠とすることができるだけでなく,抑止効果も期待できます。今回は,新たな痴漢対策について,刑法上の問題がないかを検討しました。

痴漢はそもそも犯罪である

 まず,言うまでもなく,痴漢は犯罪です。例えば,東京都の迷惑防止条例では「公共の場所又は公共の乗物において,衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」は禁止されており,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条1項1号,同8条1項2号)。
 また,刑法で禁止されている強制わいせつ罪として処罰され,6月以上10年以下の懲役の刑に処せられることもあります(刑法176条)。
 なお,衣類の上から触ると迷惑防止条例違反,衣類(下着)の中に手を入れると強制わいせつ罪という区別を聞くこともありますが,必ずしも簡単に区別できる問題ではありません。
 たとえば,公共の場所とはいえない住宅内の事件,つまり迷惑防止条例違反が成立しえない場所で起きた犯罪ですが,衣類の上から臀部に触れた行為について強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例があります(名古屋高等裁判所平成15年6月2日判例時報1834号161頁)。衣服の上から身体を触る行為も,その行為の態様によっては,強制わいせつ罪が成立するのです。電車内などで衣類の上から臀部を触っても強制わいせつ罪が成立する可能性は否定できません。
 このように痴漢行為は,迷惑防止条例違反となることは当然ですが,行為の態様によっては他者の性的自由を侵害する強制わいせつ罪として,6月以上10年以下の懲役となる可能性もあるのです。

痴漢の犯人を捕まえるために,刑法に触れても良い場合

 このように,痴漢が犯罪であることは理解して頂けたかと思います。このような痴漢行為が発生した場合,被害者や周りの人は何ができるのでしょうか。
 まず,逮捕をすることができます。なぜなら,現行犯逮捕は,誰が行ってもよいからです。刑事訴訟法 213条は次のように規定しています。
 「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」この条文からも明らかなように,犯人が「現行犯」の場合は,誰でも逮捕状がなくても逮捕することができるのです。「何人も」と規定されていることから明らかですが,①被害者であっても,②目撃者であっても逮捕することができます。その場合には,逮捕という身体の拘束に必要な範囲で有形力を行使することが許されます。この基準について最高裁判所は昭和50年4月3日の判決(判例タイムズ323号273頁)で次のように判示しています。
 「その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され」(る)
 これだけでは,はっきりしないですが,「胸倉をつかんで壁に押し付けた暴行」を働いた事案で,現行犯逮捕にあたり,無罪とした裁判例(岡山地方裁判所津山支部平成24年2月2日・判例タイムズ1383号379頁)や,犯人が身長175cm,体重73kg,一方の現行犯逮捕した者が,168cm,体重53kgだった場合で,現行犯逮捕した者が,「ジャンパーの襟元付近などを掴んでこれを振り回し,あるいは被告人の大腿部を数回蹴った」事案で,現行犯逮捕にあたると判断した裁判例(東京地方裁判所平成元年3月14日・判例タイムズ702号263頁)などが参考になります。
 一概にはいえませんが,例えば犯人が逃走しようとしている場合などは,腕を掴んだり,逃走をしようと続けたりする場合は,足を蹴って止めるなどの行為は許容されるでしょう。

痴漢行為を止めるために刑法に違反する行為が許される場合

 先ほどは,痴漢の犯人を捕まえるために刑法に触れる行為をすることが許される場合について説明をしましたが,ここでは,痴漢をされている時に,それを止めるためにどのような行為が許されるのかを検討していきましょう。ポイントは,①その行為が刑罰に触れるのか。②さらにその行為について「正当防衛」(刑法36条1項)が成立するかです。順番に検討していきましょう。

痴漢を止める行為は刑罰に触れるのか

 ここ数週間,インターネット上では,安全ピンで犯人の手を刺す行為や,同様に犯人の手にハンコを押す行為が痴漢を止める行為として許されるかが問題になっていることは先ほどお伝えしたとおりです。そこで,ここでは,安全ピンで犯人の手を刺す行為とハンコを犯人の手に押す行為について刑法上の犯罪となるかどうかを検討してみましょう。

安全ピンを犯人の手に刺す行為は,暴行罪となる可能性が高い

 安全ピンで犯人の手を刺す行為は,「人の身体に向けられた有形力の行使」であり,暴行罪(刑法2208条)となる可能性があります。また,傷害罪になるかについては,先ほど説明をした「人の身体に向けられた有形力の行使」によって傷害(同法204条)の結果が生じる必要があります。この「傷害」とは,「生理機能の障害」と理解されています。安全ピンを刺す行為が生理機能の障害を引き起こすかどうかは難しい問題です。例えば,ナイフで切りつけて皮膚が裂け,血が出た場合は生理機能の障害であり,傷害となりますが,一方で,皮膚が小さく赤くなるだけでは生理機能の障害とはいえず,傷害にはならないとされています。
 この点,名古屋高等裁判所金沢支部昭和40年10月14日・判例タイムズ185号136頁は,発生した怪我が,①日常生活に支障をきたさないものか否か,②傷害として意識されるものか否か,③日常生活上見過ごされる程度のものか否か,④医療行為を特別に必要とするものか否かを検討したうえで,軽微なものは生理機能の障害ではなく,傷害罪は成立しないと判断しています。そして,治療約七日間を要する顔面の擦り傷と打撲について,傷害には当たらないと判断しました。
 このような従前の裁判例の傾向なども合わせて考えると安全ピンで刺す行為は,皮膚に深く突き刺すような場合は別かもしれませんが,痛みを与えて,痴漢を止めるのに留まるような場合は暴行罪にしかならないといえます。

手にハンコを押す行為も,暴行罪となる可能性が高い

 次に,手にハンコを押す行為は,生理機能の障害を引き起こすことはまずありませんので,傷害罪にはなりません。
 もっとも,「人の身体に向けられた有形力の行使」であり,暴行罪となる可能性はあります。この点,塩を相手に振りかけた行為が暴行罪に問われた事案で,福岡高等裁判所は,①性質上傷害の結果発生に至るものである必要はなく,②受忍する理由のない,単に不快嫌悪の情を催させる行為も「暴行」に該当すると判断しています(福岡高等裁判所昭和46年10月11日判例タイムズ275号285頁)。
 この裁判例は,塩を振りかける行為について,肉体的生理的苦痛があったことや不快嫌悪等の心理的な苦痛があったことを踏まえて「暴行」にあたると判断しています。暴行罪が身体に対する罪であることに照らすと,何らかの肉体的・心理的苦痛を通常及ぼすようなものでなければならないでしょう。この点,腕にハンコを押す行為は,塩をまく行為とは異なり,肉体的な苦痛を生じさせうるものではないですが,塩とは異なり,朱肉もしくはインクを付着させて模様を押印箇所に定着させるものですので,不快嫌悪等の心理的な苦痛は塩より一般的には大きいといえます。そこで,暴行罪となる可能性が高いといえます。

犯人の手に安全ピンやハンコを押す行為には,正当防衛が成立する可能性が高い

 今まで説明をしてきたように,安全ピンを刺す行為も,ハンコを押す行為も,暴行罪に該当すると判断される可能性が高いでしょう。そうなると,これらの行為が「正当防衛」(刑法36条1項)として正当化されるかを検討することが重要です。
 結論としては,正当防衛が成立する可能性が高いといえます。その理由は次のようなものです。

正当防衛が成立するために必要な条件

 正当防衛とはそもそも何でしょうか。正当防衛とは,自分や他者の権利が侵害されようとしているときに,それを排除するために行った犯罪類型に該当する行為について罪に問わないという機能をもつ刑法上の概念です。先に説明したような,安全ピンで刺す行為やハンコを押す行為が暴行罪になりそうだと思われても,それが正当防衛に当たれば,罪にはならないのです。
 このような正当防衛が認められる条件について,条文に即して検討してみましょう。正当防衛は刑法の36条1項に規定されています。

第36条1項(正当防衛)

 ①急迫不正の侵害に対して、②自己又は他人の権利を防衛するため、③やむを得ずにした行為は、罰しない。

 この条文を分解すると,上記①~③に分けることができます。①急迫不正の侵害があり,②権利を防衛するための行為であり,③やむを得ずにした行為であることが,正当防衛が認められる条件といえます。
 安全ピンで刺す行為やハンコを押す行為がこの正当防衛になるかを検討していきますが,一番のポイントは①急迫不正の侵害があるといえるかです。というのも,痴漢行為は先に説明したようにれっきとした犯罪ですので,それを防ぐための行為は②自己又は他人の権利を防衛するための行為であると簡単にいえるからです。
 また,暴行罪と迷惑防止条例違反の罪は,それぞれの罪が守ろうとしている利益に大きな差はありません。そして,暴行罪の被害者である痴漢の犯人は,違法な行為を行っている者ですので,その犯人の権利や利益は,小さくなると理解されています。そこで,正当防衛によって失われた利益と守られた利益を比較すると,守られた利益の方が大きいといえますので,③やむを得ずした行為といえます。
 なお,周囲に助けを求めること が容易であるので,手段としてやむを得ないものではないとの意見もありますが,正当防衛の場合,手段は厳密な意味で最小限度である必要はないといわれていること,性犯罪であり羞恥心を感じて大きな声を出せない被害者が現にいること に照らすと,静かに防衛のできる上記の行為はやむを得ないといえるでしょう。やはり③やむを得ずした行為といえます。

痴漢に遭うことが予想できて,安全ピンやハンコを用意していても,痴漢行為は急迫不正の侵害といえる

 それでは,痴漢行為は,①急迫不正の侵害といえるのかを検討していきます。急迫不正とは「急迫」と「不正な侵害」に分けることができます。
 まず,痴漢行為は,迷惑防止条例に違反する行為や強制わいせつ罪に該当する行為ですので,「不正な侵害」であることは明らかです。
 それでは,痴漢行為は「急迫」といえるでしょうか。この「急迫」との要件は,「利益の侵害が現に存在しているか,間近に押し迫っている」ことを意味しています 。そうすると,痴漢行為を受けているときには,利益の侵害が現に存在しているのですから,急迫の要件を満たすのが原則といえます。
 ただ,問題が一つあります。最高裁はこの急迫性の要件について,平成29年4月26日判決(判例タイムズ1439号80頁)で,正当防衛とは,①「緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。」と判断したうえで,②「対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして…前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。」と判断していることです。さらに正当防衛として許容されるかどうかについては,③「事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮して,刑法36条の趣旨に照らして,許容されない場合には,侵害の急迫性が否定されると判断しています。 そして,急迫性が否定される一場合として,④「行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき」も あげています。
 このことからも分かるように,単に相手が違法な行為を現にしてきていれば,急迫性があるという訳ではないのです。この判決のうち ,④の部分については「積極的加害意思がある場合は,侵害の急迫性を欠く」と表現されています。この部分をそのまま字面だけをなぞってしまうと,痴漢を予想して,安全ピンやハンコを用意すると,侵害の「急迫性」がないと読めてしまうのです。
 つまり,痴漢という侵害行為に対応するために安全ピンやハンコを事前に用意していることから,痴漢行為を利用して,積極的に犯人に対して,安全ピンで刺したり,ハンコを押したりといった暴行の加害行為を行う意思が見て取れ,これが積極的加害意思であり,実際にそのような暴行に出た場合は,正当防衛は成立しないと判断してしまうのです。 このような理由で痴漢の犯人に対して,安全ピンで刺すのは違法だといった意見をインターネット上で見かけることがあります。
 しかし,最高裁は,③にあげられた様々な要素を総合考慮したうえで,正当防衛が認められている理由に反するような事態になっていないかどうかを検討するべきであるといっていることに着目するべきです。
 つまり, 痴漢行為の場合,性的自由という重大な利益に対する侵害が予期されており,防衛の必要性が高いこと,痴漢は,通勤・通学で利用する電車内が犯行場所になることが多く,生活に必要不可欠で日常的に利用せざるを得ない場所であり,その場所に出向く必要性も高いこと, 満員電車の場合,痴漢行為を受けたときに逃げ出すのは容易ではないこと,毎日利用する電車であったとしても,毎日,犯行に遭う訳ではなく,警察等に事前に援助を求めること も容易ではないこと,対抗行為として行われる安全ピンで刺す行為やハンコを押す行為は,痴漢行為を止めるために行われる防衛的な行為であること,利用される安全ピンはナイフ等に比べて殺傷能力は高くなく,身体の生理機能に与える影響も大きなものではないこと,ハンコについては,それらは皆無であることなどに照らすと,最高裁があげた要素に沿って検討しても,急迫性が欠くというべきではありません。
 裁判例や判例などで,積極的加害意思があるとして急迫性が否定されたケースは,①正当防衛の状況にかこつけて,相手を痛めつけよう,殺してやろうというような意欲が大きかった事案,②生命等の重大な利益に対する危険が大きかった事案,③警察を呼ぼうと思えば呼べたのに呼ばなかった事案が大半です(上記で紹介した最高裁の判例は,被害者が加害者の自宅マンションの前で待っていたところ,被害者が加害者を呼び出したことから,加害者が自宅からわざわざ包丁を持ち出して,被害者に会いに行って,犯行に及んだ事案です)。今問題になっている痴漢対策を理由に安全ピンで刺したり,ハンコを押したりする行為とは事案が全く異なるといえます。

注意をするべき点とまとめ

 このように,痴漢に対して安全ピンで刺したり,ハンコを押したりする行為は,暴行罪となる可能性がありますが,正当防衛として正当化される可能性が高いといえます。しかし,次のような点に注意してください。

安全ピンやハンコには様々なリスクがあること

 もっとも,混み合う電車の中で,間違えて犯人ではない人を刺したり,ハンコを押したりした場合は,トラブルになるのは避けがたいといえます。
 また,警察官から暴行の加害者として取り調べを受けること がない とはいえず,それらへの対応も必要となるなど,日常生活に対する影響もいろいろ出てくることが考えられます。そこで,これらの行為を行うこと には相応のリスクがあります。

他のトラブルが発生しにくそうな他の方法も検討すること

 他方で,このようなリスクを避ける方法も考えられます。例えば防犯ブザーです。声を出しにくかったり,声を上げても執拗に痴漢行為を続ける犯人がいたりするのは分かりますが,さすがに防犯ブザーを鳴らして,周りの乗客から注目を浴びている者に対して痴漢をする者はいないはずです。
 先に説明したように,安全ピンやハンコを使う対応は,刑法に触れる可能性がある行為です。声をあげにくければ,防犯ブザーを使用するなどの別の方法で対応が可能な場合もあるかもしれません。防犯ブザーは先に述べたリスクは全くありません。安全ピンやハンコを持ち歩くにしても,防犯ブザーの使用を優先することがおススメです。

警察への相談は行ったほうが良いこと

 正当防衛になるかどうかは,公的機関に救助を求められないような緊急状態にあったかどうかがポイントの一つです。安全ピンやハンコを持ち歩こうとされているということは,既に痴漢の被害にあっているかもしれませんね。そのような場合は,警察に相談をしたとの記録を残しておきましょう。警察に相談したが,有効に防止することができなかったので,安全ピン等を持ち歩いていたとの状況を作っておくことが重要です。

まとめ

 仮に犯罪になっても不起訴となる可能性もあります。なお,仮に正当防衛が成立しなくとも,痴漢の犯人に対してそれらの行為を行った場合,検察官が状況に鑑みて,不起訴とすることも十分に考えられます。
 被害者であるあなたが,痴漢行為を甘んじて受ける必要はありません。ハンコは別にして,安全ピンの使用を積極的に進めるわけではありませんが,あなた自身の権利を守ることは許されています。あなたが自分の権利を守ったにもかかわらず警察から犯罪者として取り調べをうけることになったら,ぜひ弁護士に相談をしてください。あなたの立場に立って弁護士があなたを全力で守ります。

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