最新判例 平成27年2月3日 – 裁判員裁判による死刑判決を破棄して無期懲役とした原判決が是認された事例
事案
被告人は,被害者の住むマンションに侵入し,同所に居た被害者を殺害して金品を強奪しようと決意し,殺意をもってその頸部を包丁で刺して死亡させた。裁判員裁判の第1審判決は,被告人を死刑に処したが,原判決は「裁判員と裁判官が評議において議論を尽くした結果であるが,無期懲役刑と死刑という質的に異なる刑の選択に誤りがあると判断できる以上,破棄は免れない」として無期懲役に処した。検察官,被告人双方が上告した事案。
判旨(最判 平成27年2月3日)
前科を除く諸般の情状からすると死刑の選択がやむを得ないとはいえない本件において,被告人に殺人罪等による相当長期の有期懲役の前科があることを過度に重視して死刑を言い渡した第1審判決は,死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとは言い難い。第1審判決を破棄して無期懲役に処した原判決は,第1審判決の前記判断が合理的ではなく,本件では,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断したものと解されるのであって,その結論は当審も是認することができる。したがって,原判決の刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。
コメント
第1審の裁判員裁判において死刑の判決が処されましたが,原判決において第1審判決を破棄し無期懲役を選択したという事案です。本件のようなケースについては,国民の良識を反映させる趣旨で導入した裁判員裁判であるにもかかわらず,控訴審の職業裁判官の判断によって判断が変更されるのであれば,裁判員裁判の意味がないのではないかという批判があります。確かに,量刑不当の場合に職業裁判官の感覚を重視して,裁判員裁判の判断を安易に変更すべきではありません。もっとも,上訴制度上は判断の変更がなされること自体はやむを得ないことでもあり,むしろ国民の感覚と法曹の専門性が相互に交流し理解を深めていくことが裁判員裁判の目的であり,変更を許容しないものではありません。
本件について,第1審判決が重視した被告人の前科とは,口論の上妻を殺害し子の将来を悲観して道連れに無理心中しようとしたというもので,本件の犯行とは関連が薄く,これを重視して死刑を選択することは合理的とは言い難いでしょう。裁判員と職業裁判官どちらの判断を重視するかということではなく,裁判員にも明確な死刑選択の基準の必要性が高まっています。