依頼者に成り代わりその盾となって示談に臨みます
被害者のいる犯罪,例えば,暴行,傷害,痴漢,盗撮,強制わいせつ,公然わいせつ,強制性交等(旧 強姦),準強制性交等(旧 準強姦)などでは被害者との示談交渉を進める上で弁護士の存在は不可欠です。なぜ示談することが必要なのでしょうか。
自分の刑を軽くするため?
もちろんそうでしょう。しかし,それだけでしょうか?
痴漢,傷害などの犯罪を起こしてしまった人の中には「示談なんかしなくても略式罰金刑を受けて罰金を払えばいいや。」などと考える人が,残念なことに少なからずいます。
一方で,痴漢,盗撮,強制わいせつ,公然わいせつ,強制性交等(旧 強姦),準強制性交等(旧 準強姦),傷害などの刑事事件を起こしてしまった人,相手を傷つけてしまった人,そういう人でも逮捕された後,我に返り,「自分は何て酷いことを相手にしてしまったのだろう。被害者の方や家族を傷つけてしまった。申し訳ないことをした。」と後悔する人も少なくありません。それは逮捕された人のご家族の方も同じ思いでしょう。
「罰金さえ払えばいい」と割り切って,被害者に謝罪もせず,慰謝料も払わず,被害者を無視して,自己の犯罪行為に一方的に決着をつけた人は,いつか結婚して家庭をもったとき,子どもが生まれたとき,親が亡くなったときなどに,自らの人生を振り返ったときに,きっと過去の事件のことを思い出し,被害者やその家族のことを思い出し,人間としてやってはいけないことを二度も重ねて犯してしまったと後悔するでしょう。
「二度」というのは被害者を犯罪行為によって傷つけ,しかもその後,謝罪もせずに被害者とその家族を無視したという意味です。
人間は誰でも過ちを犯します。実は人間としての真価が問われるのは,過ちを犯すか否かではなく,過ちを犯したときにどのように行動するかなのです。被害者と向き合うことは,自己の犯罪行為と向き合うことであり,傷つけた被害者の苦しみと向き合うこと,それが即ち自己の将来の生き方と向き合うことにもなるのです。
そのことに思いを致せば,やはり被害者にお詫びをしようということになるのではないでしょうか。
何とか被害者の方にお詫びをしたい,被害者の方の治療費や慰謝料をお支払いしたい,しかしそれで果たして自分の罪を償ったことになるのだろうかと思い悩み始めます。そのときたぶんその人は更生の第一歩を踏み出したと言えるでしょう。
「罰金さえ払えばいいや。」という人が,例えば「二度と同じ犯罪は起こさないよ。」と仮に思ったとしても,人の心を取り戻す道は遥か遠く先にあり手の届かないところにあると,私は思うのです。
刑事弁護士 中村 勉