事案
刃物で脅して金銭の交付を要求する恐喝事件が発生し、被害者の110番通報で警察官が現場に急行した。犯人は、警察官が現場に到着するまでの間に逃走していたため、被害者から事情を聴取した警察官が付近を巡回中することになった。巡回中に被害者の供述によく似ている人物を発見し、被害者に会わせたところ、被害者はその人物が確かに犯人で間違いない旨述べたため、警察官は現行犯逮捕に及んだ。
判旨(京都地裁昭和44年決定)
現行犯人として逮捕することが許容されるためには、被疑者が現に特定の犯罪を行い又は現にそれを行い終わった者であることが、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身においても直接明白に覚知しうる場合であることが必要と解される…。
(本件において、)逮捕者である司法巡査が被疑者の犯行を目撃していたわけではなく、…被害者の供述に基づいてはじめて被疑者を本件被疑事実を犯した犯人と認めたというにすぎないのであり、緊急逮捕をなしうる実体的要件は具備されていたとは認められるけども、現行犯逮捕…をなしうるまでの実体的要件は具備されていたとは認められない…。
コメント
現行犯逮捕をする場合、逮捕する人から見て「その人が罪を犯したことが明らかである」といえる程度の明白性が必要となります。本件で逮捕したのは、通報を受けて、現場へ急行した警察官であり、その警察官から見て被告人が犯人であることが明白であるとまでは言えなません。いくら目撃者の証言があっても、あくまで逮捕する主体にとっての明白か否かが求められているといえるでしょう。