事案
現住建造物等放火の罪で逮捕するだけの証拠を得られていない被疑者について、警察は、軽微な別件である不法残留罪で逮捕・勾留し、その勾留期間の4日目以降に、現住建造物等放火の罪についての取調べを行った。被告人は、このような取調べが違法であるとして、現住建造物等放火の罪の自白調書の証拠能力の効力を争った。
判旨(浦和地裁平成2年判決)
…違法な別件逮捕・勾留として許されないのは、…「未だ重大な甲事件について被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として右事件について取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることがないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合」も含まれると解する…。
…捜査機関が、別件により身柄拘束中の被疑者に対し余罪の取調べをしようとするときは、…その取調べに応ずる法律上の義務がなく、いつでも退去する自由がある旨を被疑者に告知しなければならない…被疑者が退去の希望を述べたときは、直ちに取調べを中止して帰房させなければならない。
コメント
一般的に、軽微な別件による身柄拘束中に、より重大な本件についての取調べがなされた場合、刑事訴訟法の規律を潜脱しないかが問題となります。本判決は、重大な本件である現住建造物等放火の罪を取調べることが主たる目的であると認められるため、身柄拘束自体に令状主義を実質的に潜脱する違法があること、仮に身柄拘束が違法でないとしても、余罪取調べとして必要な被疑者の権利への配慮を欠いていることより、なお取調べは違法であるとして、自白調書の証拠能力を否定しており、余罪捜査の適法性にも限界があることを示しています。