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刑事判例紹介(20)

事案

暴力団組長が脅迫を用いて債権の取り立てをしようとしているシーンを放映したことが端緒となり、警察署は捜査を開始した。捜査機関は、上記シーンが録画されているビデオテープを差し押さえた。
このような本件捜索差押えは、憲法21条1項が保障する報道・取材の自由を侵害するものとして違法であるか否かが争われた。

判旨(最高裁平成2年決定)

報道機関の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、憲法21条の趣旨に照らし十分尊重されるべきものである…。(もっとも)何らの制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることがある。…差押の可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠としてされることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきである。

コメント

本決定において、取材の自由は憲法21条の趣旨に照らして尊重に値するとしたうえで、一定の制約を受ける旨述べています。すなわち、公正な刑事裁判の実現との関係において、取材の自由は一定程度制約されうるということになります。
本件では、関係者間で供述の食い違いがあったことから、適切な刑事裁判を実施するために、客観的に信頼性の高いビデオテープの映像を用いる必要性は高かったと言えるでしょう。また、本件で差し押さえられた映像は既に放映済みであったため、放映できなくなるといったような不利益は生じないため、制約される利益の程度は低いものと評価できるでしょう。将来の取材活動に与える不利益までは考慮せず、実際に生じる蓋然性の高い弊害との関係で利益衡量しているものと考えられます。

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