事案
現住建造物等放火被告事件の公判において、火災のあった付近の住民が、そのときの被告人の行動について証言したところ、弁護人が、刑訴法328条に基づき、消防指令補が上記証人から公判供述とは実質的に異なった内容の真実を聞き取ったことが記載された「聞込み状況書」を証拠調べ請求した。328条の供述が自己矛盾供述に限られるかが争われた事案。
判旨(最高裁平成18年判決)
刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る)、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。
コメント
本判決は、328条の趣旨が、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容するものとし、328条の供述は自己矛盾供述に限られるという、いわゆる限定説を明言しました。
なお、本件で争われた聞込み状況書は証人の供述を録取しているため自己矛盾供述になるとも思われますが、同証人の供述の内容の真実性が問題となるため、別途伝聞例外の要件を満たす必要があります。しかし、本件では、同証人の署名押印がなく、またこれと同視しうる特段の事情もないため、伝聞例外の要件を満たしません。それゆえ、本判決は328条が許容する証拠にはあたらないとしました。