事案
成年後見人であり、被成年後見人の預金通帳を保管し財産を管理する業務に従事していた者が、被成年後見人名義の通常郵便貯金口座の貯金を同人のため預かり保管中、同口座から現金300万円を払い戻し、同日、これを他に貸付けて横領したことにつき、勾留の必要性が認められるかが問題となった事案。
判旨(最判 平成27年10月22日)
本件は、被害額300万円の業務上横領という相応の犯情の重さを有する事案ではあるものの、…、長期間にわたり身柄拘束のないまま捜査が続けられていること、本件前の相当額の余罪部分につき公訴時効の完成が迫っていたにもかかわらず、被疑者は警察からの任意の出頭要請に応じるなどしていたこと、被疑者の身上関係等からすると、本件が罪証隠滅・逃亡の現実的可能性の程度が高い事案であるとは認められない。
コメント
勾留が認められるには、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれのいずれかがあることに加え、勾留の必要性が必要です。勾留の必要性の判断においては、罪証隠滅のおそれ及び逃亡のおそれの程度の大小が判断を左右します。
この判決は、罪証隠滅のおそれ及び逃亡のおそれがあるというには、具体的現実的可能性が必要であるとし、勾留要件に厳格な判断を要求したものといえます。
本事案においては、身柄拘束がなくても捜査が可能であったことや任意に出頭していたこと等から、罪証隠滅、逃亡のおそれの可能性の程度は高くないと判断し、勾留要件を満たさないとして、勾留請求を却下しています。