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DV被害でお悩みの方へ|DV被害について元検事率いる中村国際刑事の弁護士が解説
新型コロナウイルス感染症に伴う生活環境の変化やストレス等から,DV被害が現在増加傾向にあります。
DV被害の特徴として,被害者の方が声を上げにくいという性質があります。「逃げたら殺されるのではないか」という恐怖感があったり,「暴力を受けるのはお前のせいだ」等と言われ続けて相談する気力を失ってしまうことがあります。あるいは,そもそもご自身が被害に気付いていない場合(精神的・経済的被害などの場合)もあります。そもそも家庭内の出来事ですから,相談する相手がいないということもあるでしょう。
この記事では,そもそもDVとは何かという定義から,自分の置かれている状況はDVといえるのか,弁護士はどのようなサポートをしてくれるのか等をご説明させていただきたいと思います。
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは
ドメスティック・バイオレンス(domestic violence,いわゆる「DV」)という用語についての国際的に明確な定義はありませんが,日本では,「配偶者や恋人関係にある,又はそのような関係にあった者等から振るわれる暴力」という意味で使用される場合が多いです。被害者には,女性はもちろん,男性もなり得ます。
DVの種類・基準
DVの種類
DVでいう「暴力」とは,身体的暴力はもちろん,精神的,性的,経済的なものなど様々な態様の暴力をいいます。
身体的暴力の例としては,殴る蹴る,突き飛ばす,髪を引っ張る,首を絞める,熱湯をかける等といった身体を直接に侵襲するものから,物をなげつける,刃物を突き付けるといった身体に直接触れないものまであります。
精神的暴力の例としては,怒鳴る,罵る,人格を否定するような暴言を吐く,子供や親戚に危害を加える等と脅す,行動内容や交友関係、メール等を細かく監視し制限する,あるいは何を言われても無視するといったもの等があります。
性的暴力の例としては,意に反した性行為の強要,避妊の拒否,中絶の強要等があります。
経済的暴力の例としては,生活費を渡さない,貯金を無断で浪費する,無理やり物を買わせる等があります。
DVの基準
DVの「暴力」に関する定義は,後述のDV防止法では
「身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの」
または
「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」
とされています(同法第1条)。
この定義によれば,上記の身体的暴力はもちろんですが,精神的暴力や経済的暴力の場合にも,PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなど,心の健康を害するおそれがあることから,「準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」として同法の規制対象となります。
少なくとも,上記のDVの例に列挙した行為はDV防止法で禁止される暴力に該当する可能性が高いといえるでしょう。DVであるか否かの判断のつかない場合には,弁護士にご相談ください。
DVに関する法令について
配偶者からの暴力を防止し,被害者の保護等を図ることを目的として制定された法律として,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV防止法)」があります。
同法の概要は以下のとおりです。
・対象となる相手は「配偶者」(第1条)です。
「配偶者」とは,婚姻届を提出した戸籍上の配偶者だけでなく,婚姻届を提出していない事実婚を含みます。また,離婚後あるいは事実婚状態を解消した後も継続して暴力を受けている場合も含まれます。
・対象となる行為は「暴力」(第1条)です。
同法の「暴力」の定義については上述のとおりです。
・同法では「配偶者暴力相談支援センター」(第3条)等を規定しています。
都道府県等の設置する相談所等で,警察などと連携を図りながら,相談に応じ,適切な対策を講じる相談窓口の一つです。DVに対する支援の他,生活支援や就労支援などに対する情報提供も行っています。
・裁判所による「保護命令」制度を規定しています(第10条以下)
上述の配偶者暴力相談支援センターでは,法的な措置を講ずることはできません。法的拘束力のある命令を得るには,裁判所に対し,被害者本人が申請をする必要があります。
以下,保護命令について具体的に説明します。
保護命令について
保護命令の種類
保護命令の種類は,以下のとおりです。
①接近禁止命令(第10条第1項第1号)
命令の発令から6か月間,申立人へのつきまといや,住居・勤務先等の付近のはいかいを禁止する命令です。
②退去命令(同条第1項第2号)
申立人と相手方が同居している場合,申立人の同居場所からの引越しの準備等のために,相手方に対して,2か月間,家から退去することと,その家の付近へのはいかいを禁止する命令です。
③電話等禁止命令(同条第2項)
6か月間,申立人に対する面会の要求,深夜の電話・FAX・メール送信,その他一定の迷惑行為を禁止する命令です。
④子への接見禁止命令(同条第3項)
相手方により子が幼稚園等から連れ去られることなどにより申立人が相手方に会わざるを得なくなる状況を防止するため必要があると認められるときに,相手方に対して,6か月間,申立人と同居している子へのつきまといや,住居・学校等の付近へのはいかいを禁止する命令です。なお,申立人と別居中又は成年の子は,「子」ではなく,次の「親族」に該当します。
⑤親族等への接見禁止命令(同条第4項)
相手方が申立人の実家などの親戚等の住居に押し掛け暴れることなどにより申立人が相手方に会わざるを得なくなる状況を防止するため必要があると認められるとき,相手方に対して,6か月間,その親族等へのつきまといや,住居・勤務先等の付近へのはいかいを禁止する命令です。
保護命令の申立人
保護命令を申し立てることができるのは,被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた者に限る。)です(第10条)。
罰則
保護命令に違反した者には,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます(第29条)。
申立の必要書類
裁判所に対する必要書類としては,申立書のほかに,夫婦であること・暴力等を受けたこと等を証明する資料や証拠等があります。必要書類のひな型は,東京地方裁判所のホームページ等からダウンロードすることも可能です。
DV被害の相談窓口・支援センター
DV被害に関する主な相談窓口は以下のとおりです。
警察による専用相談電話(#9110)
発信地等の情報から管轄する都道府県本部等の相談窓口につながります。
もっとも,緊急の対応を要する場合には110番通報をしてください。
内閣府による「DV相談ナビ」(0570-0-55210)
配偶者からの暴力による悩み等をどこに相談すればよいかわからない方のための,内閣府の提供する相談機関案内サービスです。発信地等の情報から最寄りの相談機関窓口へ電話が自動転送され,直接に相談することが可能です。匿名でも相談できます。
配偶者暴力相談支援センター
DV法3条により設置されている都道府県の設置する相談所等で,市町村の自ら設置する相談所等もあります。都道府県によっては女性センターや福祉事務所等が配偶者暴力相談支援センターの機能を果たしている場合もあります。
日本司法支援センター法テラス(0570-078374)
法テラスでは,DVの被害を現に受けたり,受けている疑いがある方などに対し,DV等被害者法律相談援助制度を設け,法律相談等を提供しています。
この他にも,性被害・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター,ストーカー行為被害等のための婦人相談所,その他女性に対する人権侵害についての全国法務局等の設置する人権相談窓口や民間機関の相談窓口等多数あります。
DV被害のご相談は弁護士へ
DVに対するお悩みは,弁護士に依頼することで,迅速な解決に向けた法的支援を得ることができます。
DV被害を日々受け,適切な相談相手もなかなかいない中,必要書類・証拠の収集・作成・提出や,相手方に対する反論の準備等をするのは,心身に極めて負担の大きい辛い作業となります。弁護士は,あなたのお話を親身に聞きつつ,多くの手続をあなたに代わり行うことが出来ます。また,ご自身の状況にはどのような制度や手段を講ずるのが適切であるかを判断し選択すること自体にも専門的知識が必要となります。弁護士は,その専門的知識により,事案に応じた適切な手段を選択し得ます。
DV被害で弁護士ができること
迅速な保護命令の獲得を目指します
DV被害の中には,生命に対する危害をも生じかねない,一刻を争う場合もあります。そのような場合には,早急に必要書類を収集・作成し,迅速に保護命令を申し立て接近禁止命令等を求めていくこと出来ます。
被害届提出・刑事告訴等を支援します
捜査機関に対する被害相談・被害届の提出・刑事告訴等を支援いたします。捜査機関に対し,被害内容をどう伝えていいのかわからないような場合でも,弁護士が予めあなたのお話をお伺いし,必要に応じて,被害内容やご心情を弁護士が代わりに陳述書にまとめたり,捜査機関に申告するなどすることで,刑事手続においてもあなたが泣き寝入りせざるを得ないような事態を防ぐべく,全力を尽くしてまいります。
民事の損害賠償請求を求めます
民事裁判を提起することにより,DVにより生じた様々な損害を,相手方に対して賠償するよう求めることができます。
DV相談の壁(ストックホルム症候群とは)
上述したように,被害者の方がDVから自分の身を守るための法律や相談窓口は現在既にある程度整備されているといえます。
もっとも,中には,そもそも被害に気付いていない,あるいは「自分は被害者ではない」と被害者の方が思い込んでおられることなどにより,このような法や各機関による救済を得られていないケースがあります。
そのように被害に気付けない状態は,ストックホルム症候群かもしれません。
ストックホルム症候群とは,1973年8月に発生したストックホルムでの銀行強盗人質立てこもり事件において,人質たちが犯人たちに共感し,犯人のために自ら警察官を制圧するような行動を起こしたり,さらには恋愛感情を有するに至ったという現象をいいます。
誘拐や監禁などの犯人と同空間内で一定の時間を共有せざるを得ないような犯罪の被害をまさに受けている状況下では,気が狂いそうになる状況から心身を守るための生存戦略として,被害者の方は,無意識のうちに,犯人との間に心理的なつながりを築こうとするのです。
このような心理状態は,解放された後、我に返り,PTSD(心的外傷後ストレス障害)に繋がることもあります。
ご自身が上述した「暴行」を受けている場合や,「自分はストックホルム症候群なのかもしれない」と思った場合にも,DVの専門家である弁護士にご相談ください。
DV被害でお悩みの方へ弁護士からメッセージ
あなたが,もし今,夫やパートナーの方からの暴力に悩み,辛い思いをされているなら,ひとりで悩まず,弁護士へご相談ください。あなたの味方となり,あなたの人権や人間としての尊厳を守り,必要な法的手段を講じてまいります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。DVを受けておられる被害者の方の中には,恐怖感や経済的問題,あるいは「殴られるのは自分が悪いからだ」というような複雑な心理等により相談をすることを躊躇するかもしれません。しかし,時には一刻を争う場合もあり,また,将来的に様々な悪影響を被害者の方やこども等に及ぼしかねません。
弁護士には守秘義務がありますから,「本当に弁護士に相談していいのか」とご疑問に思った時も含めて,専門家である弁護士にご相談ください。