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未成年者略取・誘拐罪で逮捕されたら

本コラムは代表弁護士・中村勉が執筆いたしました。

未成年者略取・誘拐罪とは?

未成年者略取・誘拐とは、簡単に言うと未成年者を誘拐することです。
「略取」と「誘拐」の違いは、「略取」は、他人をその生活環境から離脱させ、自己・第三者の事実的支配下に置く行為のうち、暴行・脅迫などの強制的手段を用いるなどして人の意思を抑制して行うものをいいます。

これに対して、「誘拐」は、暴行・脅迫などの強制的手段などにはよらず、偽計・誘惑を手段とするなどして人に誤った判断をさせて行うものをいいます。

警視庁が令和3年の犯罪情勢につき発表したところによりますと、重要犯罪の認知件数は8,823件と前年比でほぼ横ばいで推移し、平成29年と比較すると19.0%減少していますが、このうち未成年者略取誘拐については、令和3年の認知件数は389件で前年比15.4%も増加しており、この10年間で2倍以上に増加しているということです。
これは、SNSの普及により、未成年と簡単にコミュニケーションが取れるようになった社会情勢を反映しています。

出典: 警視庁令和3年犯罪情勢、日本経済新聞令和4年4月4日夕刊

未成年者とは(成人年齢引下げ)

未成年者とは、18歳未満の者をいいます(民法3条)。
2022年4月1日から民法3条が改正され、未成年の定義につき、20歳から18歳に引き下げられました。刑法上の未成年定義も民法に従うことになるので、未成年者略取の「未成年」も18歳未満の者になることに注意が必要です。

未成年者とは知らなかった場合

未成年者とは知らなかった場合には、構成要件的故意を欠くので、未成年者略取罪は成立しません。ただし、犯人が未成年者であることを知らなかったとしても、未成年者であることを知り得た場合(未必の故意がある場合)には成立します。
例えば、服装や言動から未成年者であるかもしれないと認識する余地があった場合は、本罪が成立する可能性があります。

本人の同意があっても誘拐なのか

未成年者略取・誘拐で逮捕された被疑者は、「向こうが会いたいと言っており、大丈夫だと思った」と供述する例が多いです。しかし、未成年者の同意があったとしても、これを連れ出すことは未成年者略取罪となります。判断能力の未熟な未成年者が、抵抗できなかったり、うまいことを言われて誘い出されたりすることを罰する犯罪です。
そのため、未成年の者の同意があるとしても、犯罪の成立には影響しないといえます。

本罪の保護法益は、未成年者の自由だけでなく、親(保護者)の監護権も含まれます。そのため、これらの法益を害する場合には、本罪が成立します。つまり、本人の同意があっても、親に無断で連れ出すと、親の監護権侵害として本罪は成立します。

親が同意しているときは誘拐にならないのか

本人も親も同意していれば、未成年者を連れ出しても誘拐にはなりませんが、注意が必要です。というのは、例えば、親(保護者)である別居中の父が、母の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去ったという事案において、判例は、略取罪が成立するとしています。

例外的に、このような行為に出ることにつき、その子の監護養育上、それが現に必要とされるような特段の事情がある場合や家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内に止まる場合には、違法性が阻却されるとされています。
結局、未成年者本人と親双方の同意がない限り、犯罪は成立すると考えられます。

未成年者略取・誘拐の事件例

多くの事件は、犯人による被害者に対しての直接・間接の声掛けをきっかけに、略取・誘拐に発展していきます。
近年は、スマートフォンや携帯オンラインゲームの普及により、未成年者がSNS(会員制交流サイト)や通信機能を通じて、犯罪者からメッセージを受け取ることで事件へ発展するケースが多いです。

佐賀地方裁判所令和2年12月23日判決

犯人(39歳男性)は、同様のツイッターで「JK」「家出」などの検索をしたところ、「家に帰りたくない」などと書き込みをしていた被害者(16歳、高校生)を見つけ、「家に来てくれる子はいないかな」などのメッセージを送り、車で連れ回したあと、自宅でわいせつな行為に及びました。同様の前科による執行猶予が下されてからわずか4カ月後の再犯であったこともあり、前刑の懲役刑1年6月に加えて、新たに懲役1年6月の実刑が科されました。

直接の声掛けによる誘拐事件(令和2年12月20日逮捕事案)

犯人(36歳男性)は、午後4時半頃、顔見知りである近所の男子(13歳、中1)とスーパーで会った際に、「一緒にゲームをして遊ぼう。遊んでくれたらお金をあげる。」などと声を掛け、翌日午前3時半頃まで自宅に連れ込んだ事実で逮捕されました。
母親から「息子が帰ってこない」との通報を受けた捜査員が、防犯カメラの映像などから男の自宅にいることを突き止めました。

オンラインゲームを通じた横浜市女児誘拐事件(令和2年9月5日逮捕事案)

犯人(38歳男性)は、オンラインゲームを通じて、「一緒にゲームをやろう」などのメッセージを女児(小4)に送り、9月2日、女児を車でつれ回し、自宅に連れ込んだあと、「家に帰さない」「静かにしろ」などの脅迫的な発言を行いながら、同月5日未明まで女児を誘拐したなどの事実で逮捕されました。

未成年者略取・誘拐の弁護活動のポイント

罰金刑が法定されていない

未成年略取・誘拐罪の刑罰は懲役刑のみであり、罰金刑などはありません。刑法224条(未成年者略取及び誘拐)には、「未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。」と規定されています。起訴された場合には懲役刑が科されることとなる重罪です。ですから、弁護活動のポイントは、とにかく不起訴処分を目指すことです。また、起訴されたとしても懲役刑の減軽や、執行猶予の獲得を目指すことです。

未成年者略取・誘拐で逮捕されるケースの中には、犯情が軽いものもあります。当事務所への相談でよくある事例は、SNSで知り合った未成年者をドライブに連れていき、その未成年者の親がそのことを知って警察に通報し、逮捕されるというケースです。

わいせつ目的もなく、長時間拘束するつもりがなく、デート気分で数時間一緒にドライブしたということで逮捕されるというケースが多くみられます。もちろん、このような行為も未成年者と知って行う以上、未成年者略取誘拐罪が成立します。ただ、このような場合、警察もさらに重大な犯罪(性犯罪等)などに発展しないように犯罪予防的に逮捕するケースもあるので、勾留されずに未成年者を確保し、その安全を確認し、親元に返した後、取調べの中でわいせつ目的や身代金目的などがないと判断すれば、釈放して在宅捜査に切り替えることがあるのです。

当事務所ではこのようなケースで逮捕後、勾留請求を阻止して釈放し、在宅捜査に切り替えさせ、示談ととも迅速に不起訴にしたケースがあります。

未成年者略取誘拐と示談

このように、弁護活動の中で中心となるのは、早期に身柄解放すること、そして不起訴を目指し、被害者側である親(保護者)との示談交渉となります。未成年の方とは示談をすることができないため、示談交渉の相手は未成年の親(保護者)となります。被疑者には、被害に遭われた被害者の方に謝罪を促し、謝罪文を書いたならば、弁護士を介して示談交渉の際に被害者の親に手交します。

起こしてしまった事実を後から変えることはできませんが、新たな行動により、罪を悔い改めることはできます。まずは、親の気持ちになって自分が犯した犯罪の重さをしっかり理解することが大切です。表面だけの謝罪文では、被害者の親に単なる罪逃れの作文と受け取られかねません。そうすればかえって逆効果になるのです。

謝罪そして示談金の提示は誠意をもって行わなければなりません。示談金相場は事案によりますが、親の精神的苦痛である慰謝料の意味合いが出てくるので、略取した態様や動機目的、拘束時間(心配させた時間)、経緯(交際情況等)などにより、数十万円から数百万円になることもあるでしょう。

被疑者の更生について

不起訴を獲得するには、再犯のおそれがないことにつき、検察官を説得できなければなりません。弁護士は、被疑者の更生に向けた環境調整についても、事案に応じて、必要な対策を一緒に検討・実施していきます。

事案によっては、わいせつ目的であるなど、性犯罪衝動を有している場合があり、その場合には、性依存症に対する専門治療も含めて対策を講じていきます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。近年、スマートフォンや小型ゲームの普及により、またSNS(会員制交流サイト)やオンラインにより、不特定多数の者と手軽にコミュニケーションが取れるようになっています。

その反面、「未成年者と一緒に家で過ごしたい」などの思いから、オンラインを通じて、未成年者と連絡を取る手口の犯罪も近年増加しています。中には、「相手が自分の家に来たいと言っているから犯罪にはならないだろう」などと思ってしまう場合もあるかもしれません。

しかし、その考えは誤りであることが分かったかと思います。どのような状況であっても、未成年者を連れ去ることはまず犯罪になり得るということを常に頭に置いておく必要があります。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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