2013年7月 のアーカイブ

アリバイ証明で明らかになった誤認逮捕・誤認起訴

2013年7月30日 Filed under:司法制度

また冤罪事件です。冤罪事件はなくなることはありません。
今回は,弁護士の素晴らしい活動で,比較的早期に疑いが晴らされ,公訴取消となりました。

以下,報道記事です。

大阪府警北堺署がガソリンの窃盗容疑で男性会社員(42)を誤認逮捕した問題で,大阪地検堺支部は29日,窃盗罪の起訴を取り消した。北堺署長は今後,男性側に謝罪する意向で,府警は経緯を検証し公表する方針。男性側は公開の法廷で検察側が無罪論告した上で無罪判決を求めていたが,同地検は「早期に訴訟手続きから解放するのが相当と判断した」と説明している。

府警によると,堺市北区の駐車場で1月中旬,車から給油カードが盗まれる事件が発生。北堺署は4月24日,カードを盗んだとして男性を窃盗容疑で逮捕した。地検堺支部は不起訴にしたが,同署は5月15日,カードを使って給油しガソリンを盗んだとして男性を再逮捕。堺支部は6月4日,同罪で起訴した。

男性は一貫して容疑を否認。ガソリンスタンドの防犯カメラの映像などが逮捕,起訴の有力証拠とされたが,男性の弁護人の指摘で,カメラの設定時刻と実際の時刻との間に「ずれ」があったことが発覚した。

アリバイが確認されたため,男性は公判期日が取り消され,今月17日に釈放された。拘束期間は85日に上った。
大阪地検の上野友慈次席検事は29日の記者会見で,担当した検察官らがカメラの設定時刻と実際の時刻との間に「ずれ」があることを認識していたのに,正確な時間を確認する作業を怠ったことを明らかにした。

上野次席検事は「捜査が不十分だった。もっと慎重にすべきだった。起訴して身体拘束し心よりおわび申し上げる。真摯に反省し,同じ事を繰り返さないよう努めたい」と謝罪した。
地検内部では,起訴を取り消さずに無罪論告することも検討されたが,上級庁とも協議の結果,「最初から無罪が分かっている人物を法廷に立たせるわけにはいかない」(検察幹部)との結論に至ったという(2013年7月30日2時38分 日本経済新聞)。

この事件は検事よりも弁護士の方が優れていたことを示しています。
カメラ設定時刻と実際の時刻に「ずれ」があることを認識していながら,なぜどれくらいの誤差があるのか調べないのでしょうか?関心をもたなかったのでしょうか?被疑者はずっと否認していたはずです。どうして,もしかしたら犯人ではないかもしれない,と思わないのでしょうか?
この捜査検事は検事として失格です。給料だけを貰っているサラリーマン検事なのでしょう。

真相は何かについて,常に疑問に思い,真実にぐいぐいと迫り近づいていく姿勢が検事のみならず,刑事弁護人にも求められます。言い換えると,そのような気質をもった人のみが検事なり,刑事弁護士に向いていると言えるのです。

今回の刑事弁護士は,依頼人の「無実」との言葉を信じ,刑事弁護士としての基本に忠実に積極的に証拠収集と分析にあたり,熱心に真実を追究されました。
アトム法律事務所の大阪支部の赤堀順一郎弁護士ですが,感服致しました。

(中村)

更に詳しく知りたい方は「冤罪事件に巻き込まれてしまったとき」をお読みください。

被害者匿名の起訴状の是非

2013年7月26日 Filed under:刑事司法,刑事弁護

今日は「被害者の匿名記載」について考えてみます。

強制わいせつ事件の起訴状で,東京地検が被害児童を保護するため氏名を伏せたところ,東京地裁が記載を命じていたことが13日,関係者への取材で分かった。地検は応じず,地裁と協議しているが,起訴状の不備を理由に公訴棄却が言い渡され,裁判が打ち切られる可能性もある。
 
関係者によると,問題になったのは,児童が見ず知らずの男に公園のトイレに連れ込まれ,わいせつな行為をされて写真を撮られた事件。2次被害を恐れる両親の強い要望を受け,地検は起訴状で児童の氏名は伏せ,犯行日時や場所,方法とともに,年齢のみ記載した。
 
これに対し,地裁は起訴内容が特定されていないとして,児童の氏名を記載するよう補正を命じたが,地検は応じていない。被告の男の弁護人は氏名を伏せることに同意しており,地検は被害者が特定可能な別の記載方法について地裁と協議を続けているという。
 
刑事訴訟法は「日時,場所,方法」によって起訴内容を特定するよう求めている。被害者の氏名は明記されていないが,犯罪事実の一部であり,通常は起訴状への記載が必要とされる(2013年7月13日12時19分 時事通信)。

刑事訴訟法256条3項後段は,「訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定しています。訴因とは,検察官の主張する具体的な犯罪事実を言い,訴因の機能としては,①裁判所が審理判断する対象の範囲を画定するとともに,②被告人の防御の範囲を明らかにすることが挙げられます。上記①や②を実現するためにも,日時,場所,方法以外に,被害者の名前を起訴状に記載することが必要なものとして実務上扱われています。
では,今回の事件で被害者の名前を起訴状に記載すべきだったのでしょうか。

昨年11月に起きた神奈川ストーカー殺人事件では,警察官がストーカー犯人の面前で,被害女性の住所を朗読してしまったことが発端となって,被害者女性が殺害されてしまいました。今回の事件でも,起訴状の謄本が被告人側に送達されることになるため,被告人から逆恨みされ報復を受けることを恐れて,被害者児童の両親は強く匿名化を求めたものと推測されます。

現代の発達したネット情報化社会では,名前と顔さえわかっていれば,容易に被害者児童を特定できてしまいます。子どもの安全を何よりも願う親の気持ちとしては当然の主張でしょう。仮に,起訴状の被害者の氏名が「甲」などとされたとしても,弁護人は,その被害者が実在する特定の人物であることが開示された証拠上明らかになっていれば,防御上不利益を被らないので,あとは起訴状における公訴事実の特定という技術上の問題のように思われます。

被害者心情に配慮して匿名とすべでしょう。
私が検事時代に英国に在外研究していた際に傍聴した裁判では,性犯罪の事件で被害者は匿名,例えば,「A」などとされて運用されていました。

私としては,起訴状の記載は,「出来るだけ」特定されていれば良いのですから,①報復のおそれ等の被害者心情に配慮する必要性が高く,②匿名について弁護人に異議がないこと,③起訴状朗読に際して,検察官が冒頭陳述において氏名以外の方法で(特定の時刻場所で被告人が接触した唯一の女性で年齢○○歳など)可能な限り特定する旨の釈明を行えば起訴状を有効として良いように思います。

国士としての刑事弁護士

2013年7月14日 Filed under:司法制度

検察官は,犯罪を摘発訴追し,刑罰を科して国家の治安を守る。
犯罪者を訴追処罰するという治安維持作用は、専制国家、独裁国家、民主国家に共通する国家作用であり,共通する国家使命である。

しかし、無辜を処罰してはならないという使命は道義国家のみに固有の使命である。
無辜を処罰することは国家の最大の不正義、不道徳であり,不公平で不当な量刑を特定の被告人に下すことも国家の不正義・不道徳である。

刑事弁護士は,個人の基本的人権を擁護して権力濫用を防止し,冤罪や正義に反する不当な量刑を回避することで国家司法権に道義的正義をもたらすのである。
その意味で、道義国家建設の崇高かつ神聖な使命を有する刑事弁護士の「士」とは、尽忠報国の士の「士」である。
(中村)

事件と無関係の女性宅を間違って捜索…大阪府警

2013年7月12日 Filed under:刑事司法

今日もまた「大阪府警」のお話です。

大阪府警生活環境課が6月,同府豊能町の山林を無許可で切り開いたとして森林法違反容疑などで町内の建築会社などの強制捜査に着手した際,事件とは無関係の女性(73)宅を捜索していたことがわかった。

法人登記簿に記載の同社の所在地と女性宅の地番が同じだったため,関連があると思い込んだという。府警は6月29日,女性に謝罪した。

府警によると,同社が同町内に所有する山林を勝手に伐採しているなどとする情報が府から寄せられ,内偵捜査。同社の法人登記簿に記載されていた所在地の不動産登記簿を調べたところ,女性宅になっていた。

府警は女性宅を事前に視察。同社の看板はなかったが,同社と関係があると判断して捜索令状を取り,6月1日,約30分捜索した。

女性が捜索時に「無関係」と訴えたため,府警が法務局などに確認すると,山間部では宅地などの「耕地」と,山林や原野の「山地」で地番の重複があることが判明。同社が設立された2009年には,同社は原野,女性宅は宅地として,同じ地番になっていた(2013年7月1日14時05分 読売新聞)。

皆さんご存知の通り,捜査機関は,裁判官が発付する令状がなければ捜索をすることができません。捜索は,捜索場所に住んでいる人の平穏な生活やプライバシー権を脅かすものなので,憲法上保障された国民の人権を保護するために,事前に裁判官による審査が行われる必要があるのです(憲法35条,刑事訴訟法218条1項)。

ですが,今回の事件で,大阪府警の捜査官は,裁判官が事前に審査していた「捜索すべき場所」とは,全く無関係の女性の民家を捜索してしまいました。このような捜索が行われるに至った原因は,どのような点にあると考えられるでしょうか。

まず,捜索許可状の発付を受けるための事前の内偵捜査が形式的に行われたにすぎず,捜索先行の捜査が行われた点が考えられます。捜索許可状を得るために,捜査官は「捜索すべき場所」,「身体」,「物」を特定する必要があります。たとえば,「場所」であれば,外観・表札等の特定できる物の写真撮影,「身体」であれば,住民票・免許証写真を取得し,出入りしている人と一致しているという写真撮影,「物」であれば,その物の写真撮影という方法による内偵捜査が考えられます。同時に,被疑事実との関連性も裏付ける必要があります。たとえば,建築会社の役員名簿,従業員名簿を調べ,当該名簿に女性の名前が記載されていなければ,過去の年金納付状況や戸籍,原戸籍等を調査することで,女性やその家族と建築会社との関連性を裏付けます。

もっとも,本件では女性と建築会社の関連性を裏付けることはできなかったはずです。その場合でも,「同社と当該女性との関連性は現時点では不明だが,その状況を明らかにするため捜索差押令状の発付を得て明らかにする必要性がある。」と記載して令状の発付を求めれば,比較的簡単に令状の発付が得られてしまうのが現状なのです。令状の発付を得てから,被疑事実と本来関連性のない女性宅を捜索してしまったために,今回の問題が生じたと言えそうです。

法廷で無断録音,ネットで公開

2013年7月11日 Filed under:刑事司法,司法制度

今日は「裁判の公開」について考えてみましょう。

威力業務妨害事件をめぐる大阪地裁の法廷でのやり取りが無断録音され,動画サイト「ユーチューブ」で半年以上にわたり公開されていることがわかった。録音を原則禁じた裁判所法に触れる疑いがあり,地裁は削除を求めるとみられる。

無断で録音されたのは,JR西日本への威力業務妨害容疑などで昨年12月に逮捕された男性(40)の勾留を認めた理由について地裁が開示した法廷。男性は東日本大震災による「震災がれき」の大阪市搬入に反対するデモをJR大阪駅構内でしたとされたが,3月に不起訴になっている。

動画サイトでは,裁判官が「釈放すると共犯者らと口裏合わせをする恐れがある」と勾留を認めた理由を説明したり,男性の弁護人が「罪証隠滅の恐れはなく勾留を取り消すべきだ」と主張したりする音声が36分ほど公開されている。笑い声やため息も交じっており,傍聴した人物が傍聴席で録音したとみられる。

公開され始めたのは1月で,これまでに1千回以上再生された。法廷での録音を認めるべきだとする書き込みもあった。弁護人は取材に「コメントのしようがない」と話している。

報道機関は重大な裁判などの開廷前の様子を撮影しているが,これは「裁判官は法廷の秩序を維持するために必要な処置をとれる」とした裁判所法に基づいて映像のみ許可を得ている(2013年7月7日16時45分 朝日新聞)。

憲法82条1項は「裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行う」と定めて,裁判の公開に関する原則を定めています。裁判の公開とは,要するに,国民に裁判の傍聴を認めるということです。裁判の公開を実現するために,各裁判所の法廷には必ず傍聴席が設けられていますし,国民はいつでも自由に裁判の傍聴ができるという建前になっているのです。また,最高裁判例でも,「傍聴人のメモをとる行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは通常あり得ないのであって,特段の事情がない限り,これを傍聴人の自由に任せるべきであり,それが憲法21条1項の規定の精神に合致する」として,傍聴人がメモをとることを許容しています。

それでは,メモを超えて,録音すること,さらに,それをYouTubeにアップすることは許されるでしょうか。刑事訴訟規則215条が「公判廷における写真撮影,録音又は放送は,裁判所の許可を得なければ,これをすることができない」と規定して,法廷内での録音等の許否に関して裁判所に裁量を認めています。この規定は,法廷秩序を維持して裁判の公正を確保する要請や,訴訟当事者や関係人の名誉保護の要請を実現することを趣旨としています。そうすると,録画や映像のネット上へのアップロードは,この趣旨を著しく害するものといえそうです。たとえば,証人尋問や被告人質問では,彼らの極めて私的な情報を公にするわけですから,供述内容が傍聴人の記憶の中に留まるだけでなく,映像として媒体物に正確に記録されることとなれば,証人や被告人には大きな心理的プレッシャーが働きます。そうすると,なかなか真実を話しにくい状況が作られてしまい,「公正で円滑な裁判」の実現は難しくなってしまうというのがその理由です。メモでさえも無制限に認められているわけではなく,法廷の秩序を害しない範囲で裁判官が許容しているにすぎないのですから,録画であればなおさら許容される余地は狭くなるでしょうし,それをYouTubeで公開することは許されないということになります。

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