2014年1月 のアーカイブ

「殺してほしい」と言われた…父絞殺の長男

2014年1月28日 Filed under:刑事司法

今日は,「介護問題」に関する記事です。

北海道中標津町で21日、無職Mさん(83)が自宅で絞殺された事件で、殺人容疑で逮捕された長男(57)が、道警中標津署の調べに対し、「介護で疲れて、首を絞めた」と供述していることがわかった。

同署は動機を慎重に調べている。

長男は「父親から『これ以上迷惑かけるわけにはいかない。殺してほしい』と言われた」とも供述しているという。

中標津署や中標津町によると、Mさんは認知症になり、2009年に要介護認定を受け、週2回ほど、町内の介護施設のデイサービスを利用していた。夜に徘徊することもあり、当初は長男が夫婦で世話をしていた。長男は約2年前に妻と死別後、仕事を辞め、1人で介護をしていた(2014年1月23日11時56分 読売新聞)。

近年,介護疲れに伴う事件が後を絶たちません。介護の疲れやストレスは一人で抱えるには重過ぎるものであり,本件も,介護の疲れから起きた悲劇的な事件であるといえます。
殺害を依頼されたという容疑者の話が真実であれば,同情を禁じ得ません。介護の問題は,高齢化社会の問題を抱える日本において,国家全体で取り組むべき課題です。現在,介護サービスの拡充や,高齢者の医療費の全額負担等,官民一体となってさまざまな取り組みがなされていますが,それでも未だ十分とはいえないのが実情です。その社会的なインフラの不十分さを,今回のような事件において司法がどのように量刑に反映させて良いものか,刑事裁判に携わる者として常に悩む問題です。

無罪判決を破棄、組幹部に懲役20年 大阪高裁

2014年1月22日 Filed under:司法制度

今回は,前回に引き続き「裁判員制度」に関する記事です。

神戸市で2007年、配下組員を指揮し指定暴力団山口組系組長を刺殺したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)の罪に問われた山口組山健組幹部 I被告(64)の控訴審判決で、大阪高裁は17日までに一審・神戸地裁の裁判員裁判の無罪判決を破棄し、懲役20年を言い渡した。

裁判員裁判で無罪となり、職業裁判官だけで審理する二審で逆転有罪となる例は、覚醒剤事件以外では初めてとみられる。

大阪高裁の的場純男裁判長は判決理由で「一審判決が被告による指揮命令や共謀を認定しなかったのは不合理だ」と指摘した。

一審の裁判員裁判判決は「被告の指揮で組織的に行われたことについて合理的な疑いが残る」と判断。検察側が控訴していた。判決によると、I被告は配下の組員らに襲撃を指示して07年5月、山口組系のG組長(当時65)を刃物で刺して殺害した(2014/1/17 9:40日本経済新聞)。

日本の裁判員制度は、裁判員が事実認定及び量刑の判断を行います。この制度は,裁判員がそれぞれの知識経験を生かしつつ裁判官と一緒に判断することにより,より国民の理解しやすい裁判を実現することを目的として導入されました。今回取り上げた事件は,この裁判員裁判によって判断された第一審の事実認定を,控訴審が覆したというものです。
今回,なぜ大阪高裁が一審の事実認定を覆したのか,その理由は記事からは明らかではありません。本件は暴力団が関わる事件ということもあり,裁判員が報復を恐れ判断が甘くなったのではないかという声が出ていますが,そうではないことを信じたいです。

もう1点,過去の記事を紹介します。

裁判員除外請求の却下事件、組長初公判 厳戒下で
指定暴力団住吉会系組幹部を射殺したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)などの罪に問われた指定暴力団山口組二代目小西一家総長O被告(65)=静岡市駿河区=の裁判員裁判初公判が15日、さいたま地裁(多和田隆史裁判長)で開かれ、O被告は「殺害の指示も共謀も一切していない」と起訴内容を否認した。

O被告は「直参」と呼ばれる山口組直系組長。さいたま地検は、裁判員に危害が及ぶ可能性があるとして裁判員裁判の対象から除外するよう求めたが、さいたま地裁は「規定に該当しない」と1月に却下した。除外請求の却下は初とみられる。

この日、地裁は建物入り口に金属探知機を設置し、所持品検査も実施した。埼玉県警も敷地内外に警察官を配置するなど、厳重な警戒態勢が敷かれた。法廷内にも警備員が置かれ、証言台と傍聴席の間には透明のついたてが立てられた。男性2人、女性4人の裁判員は緊張した表情だった。

地裁によると、裁判員選任手続きは7日にあり、出席した候補者49人のうち、15人に辞退が認められ、抽選で裁判員6人、補充裁判員4人が選ばれた。予備日を含め計25回の公判が予定されており、判決は7月18日に言い渡される。

落合被告は2008年4月、埼玉県ふじみ野市で、組員多数と共謀し、住吉会系組幹部(当時35)を射殺したなどとして起訴された。

冒頭陳述で検察側は「被告の意向や指示に基づき、小西一家として組織で起こした事件」と指摘した(2013/5/15 12:52日本経済新聞/共同)。

この記事にあるように,たとえ暴力団が関わる事件であっても裁判員裁判の対象となります。裁判員が評議において自由闊達な意見が交わせるよう,裁判員に対してはこれまでより慎重できめこまやかな配慮がなされることを望みます。

死刑囚奪還を防ぐ…厳重警備の平田被告公判

2014年1月21日 Filed under:司法制度

今日は「裁判員制度」に関する記事です。

オウム真理教による3事件で起訴された元教団幹部・平田信被告(48)の裁判員裁判が16日、東京地裁で始まる。

平田被告の公判には、死刑囚が証人として出廷するため、東京地裁などは厳重な警戒態勢を敷く。

死刑囚の証人尋問は、1970年代の連続企業爆破事件の大道寺将司まさし死刑囚(65)ら数例あるが、ほとんどが収容先の拘置所に裁判官らが出向いて行われた。法務省が死刑囚の心情の安定を考慮し、拘置所外に出すことを嫌ったためだ。今回、地裁で行われるのは、「法廷でのやり取りを直接見聞きして判断する」という裁判員裁判の理念を尊重した結果とみられる。

死刑囚の逃亡や奪還などに備え、地裁と法務省、警視庁は昨年10月から警備方法を検討。尋問当日、警察官と刑務官をそれぞれ数百人ずつ動員し、死刑囚が収容されている東京拘置所(葛飾区)から地裁(千代田区)までの沿道と、地裁周辺を警備する。

地裁は、死刑囚の心情を乱さないよう、死刑囚の周囲に遮蔽板を立てて傍聴席から隠すほか、奪還を防ぐため、傍聴席前に防弾性のアクリル板も設置する。また、当日の他の刑事裁判の開廷も極力減らすという(2014年1月15日10時18分 読売新聞)。

裁判員裁判とは,裁判員制度に基づき、市民が裁判員として参加して行われる裁判です。同裁判は市民の方に参加していただく以上,裁判をより迅速で分かりやすいものにすることが求められます。
記事にもあるように,これまで死刑囚に対する証人尋問は死刑囚の心情等を考慮し,拘置所内に裁判官らが出向き行われるのが慣例でした。しかし,今回東京地裁は公判廷内で,死刑囚の証人尋問を行うことを決定しました。従来の慣例とは異なり,今回敢えて裁判所がこのような方法を採用した背景には,裁判員が直接見聞きした方が,裁判をより迅速で分かりやすいものにすることができると裁判所が判断したためです。
裁判員制度は,2009年に始まったばかりのまだ課題の多い制度です。今後も,運用上の試行錯誤や議論を繰り返しながら,裁判員制度の理念に一歩一歩近づけていく必要があると考えます。

司法試験「5年で3回」を「5年で5回」に緩和

2014年1月16日 Filed under:その他,司法制度

今日は「司法試験制度」に関する記事です。
    

政府は、司法試験の受験回数制限を現行の「5年で3回」から「5年で5回」に緩和することを柱とした司法試験法改正案を、1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。司法試験の合格者数の増加につながりそうだ。

早ければ2015年実施の司法試験から適用される。

06年に始まった現行の司法試験制度では、初の制度見直しとなる。

法務省によると、司法試験受験資格を得た後、勉強時間を確保する目的で、年1回の司法試験をすぐには受験しない「受け控え」が目立っている。だが、13年実施の司法試験をみると、法科大学院修了直後の受験生の合格率が39%であるのに対し、09年修了の5年目の受験生は7%と、受験が遅れるほど合格率は低下する傾向にある。このため、回数制限について、「受験生を必要以上に慎重にさせている」と疑問視する声が出ていた(2014年1月8日14時59分 読売新聞)。

現行の司法試験制度は,平成18年度から始まり,毎年3000人程度の合格者を出すことを目標としていました。しかし,近年の合格者数を見てみると,年間2000人程度に止まっており,当初の目標には大きく満たないのが現状です。このような状況からすると,なんらかの試験制度改革は必要なのかもしれません。
もっとも,制度改革に固執するあまり,受験生を置き去りにするような議論の進め方は納得できるものではありません。今回の改正案は,受験回数を5年で5回に緩和することについては決められていますが,その他の試験科目や合格者数等,重要部分については未だに不透明な部分も多く存在します。そして,本制度決定が遅れれば遅れるほど,多くの受験生が振り回されることになります。
弁護士の質を確保しつつ,多くの合格者を生み出すような制度設計が,早急に組まれることを望みます。

「逃走罪」は適用されず 量刑に影響か

2014年1月15日 Filed under:刑事司法

今日は,「逃走罪」に関する記事です。

S容疑者は勾留手続きを終える前に逃げ出したため刑法の逃走罪は適用されないが、逃走の事実は裁判で不利に働く可能性が高く、逃走の“代償”は負うことになりそうだ。

S容疑者が逃走した7日午後2時16分の時点で、検察は警察から身柄の送致を受けたばかりで、勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった。

逃走罪が適用されるのは、勾留中の容疑者や被告、もしくは刑が確定して服役中の受刑者が身柄が置かれている施設から逃走した場合だ。平成24年1月に広島刑務所から逃亡した中国籍の受刑者には、同罪が適用された。

こうした状況から、逃走容疑での現行犯逮捕はできない上、1度目の逮捕状は執行されて効力を失っていることから、捜査当局は集団強姦容疑などでの逮捕状を再取得し、S容疑者の行方を捜していた。

S容疑者は、逃走した行為自体は罪に問われないが、集団強姦などの罪で起訴された場合、裁判での情状面で不利に働く可能性が高い。検察幹部は「勾留される前に逃走した事実は重い。当然、量刑にも影響してくるだろう」と話している(2014.1.9 20:46産経新聞)。

逃走罪(刑法97条)は,裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走した場合に成立します。本条にいう,「未決の者」とは,勾留状によって,刑事施設又は留置施設に拘禁されている被告人又は被疑者をいい,逮捕された者は含まれない(札幌高判昭和28・7・9)と解されています。したがって,記事にも書かれているように,勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった今回の場合,逃走罪の適用はありません。
本結論は,捜索に多くの人員や費用を割き,近隣の住民を不安に陥らせたことなどからすると,納得できない方も多いと思います。しかし一方で,今回の一事をもって適用範囲が安易に解釈によって拡大されることも避けなければなりません。
今回の事件を契機に,改めて慎重な議論がなされることを望みます。

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