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刑事判例紹介(41) – 公訴の提起が検察官の訴追権の濫用として違法であるかが争われた事案

公訴の提起が検察官の訴追権の濫用として違法であるかが争われた事案

事案

水俣病に罹患した被告人らは、チッソ株式会社の社長との面会を求めた際に従業員らと小競り合いが生じた中で、従業員らに手拳で殴打する等の暴行を加え、加療約1週間から約2週間を要する傷害を負わせたとして、起訴された。第二審では、このような起訴が著しく不当であり無効であるとして公訴棄却の判決がなされたため、検察官が上告した。

判旨(最高裁昭和55年判決)

…検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合…はたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるものというべきである。
…本件についてみると、…その犯罪行為は軽微とはいえないこと、…公訴権の発動については、犯人の一身上の事情、犯罪の情状および犯行後の状況等も考慮しなければならないので、起訴または不起訴処分の当不当は、犯罪事実の外面だけでは断定することができない。このような見地からすると、…本件公訴提起を著しく不当であったとする原審の認定判断は、ただちに肯認することができない。
…しかし、第1審が罰金5万円、執行猶予1年の判決を言い渡し、検察官からの控訴がないこと、被害者が処罰を望んでいないこと、被告人が公害の被害者であることなどを考慮すれば、刑訴法411条を適用すべきとは思われない。

コメント

検察官の訴追裁量権に限界があることを認めた裁判例はこれまでありませんでした。本判決は、最高裁として初めて、訴追権の裁量逸脱となる場合には公訴の提起が無効となることを認め、いわゆる公訴権濫用の法理を肯定しました。また、結論として公訴権の濫用性は否定しましたが、被告人が未曾有の公害事件の被害者である等の特殊事情に鑑みて、公訴棄却の判断を正当とし、被告人の救済を図りました。本判決における裁量逸脱の要件としての「極限的な場合」の具体的内容については争いがありますが、学説では、それまで論じられてきた①嫌疑なき起訴、②訴追裁量権逸脱の起訴、③違法な捜査に基づく起訴のいずれの場合も含むべきであると主張されており、被告人救済の観点からはこのような見解が望ましいといえるでしょう。

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