事案
被告人らが、塩化メチル水銀を含有する排水を水俣川河口海域に排出した過失により、同海域の魚介類を汚染させ、よって、同海域で捕獲された魚介類を摂食した複数人を成人水俣病等に罹患させ、死亡させた事案。
判旨(刑訴法44事件)
観念的競合の関係にある各罪の公訴時効完成の有無を判断するに当たっては、その全部を一体として観察すべきものと解するのが相当であるから、最後に死亡した被害者の死亡時から起算して業務上過失致死罪の公訴時効期間が経過していない以上、本件各業務上過失致死傷罪の全体について、その公訴時効はいまだ完成していないものというべきであるとし、上告を棄却した。
コメント
本件事案では、①公訴時効の起算点は、実行行為の終了時か、結果発生時か、②①で結果発生時であるとの立場を採るとして、行為者が予想していたよりも重い結果が発生した場合(結果的加重犯)の時効の起算点は、基本犯の結果発生時か、加重結果発生時か、③一つの行為から複数の結果が発生した場合(観念的競合)の各罪の公訴時効完成の有無を判定するにあたっては、全体を一体として算定すべきか、各罪ごとに算定すべきか、それとも、先行する罪の時効完成前に後行する罪の結果が発生した場合には時効の連鎖を認め、先行する罪の時効完成後に後行する罪の結果が発生した場合にはこれを認めないとすべきかが問題となりました(宇藤崇他「リーガルクエスト刑事訴訟法」有斐閣、2012)。本決定は、①につき結果発生時とする立場を、②につき加重結果発生時とする立場を、③につき全体を一体として算定すべきとする立場を採ったものであると評価できます。