声紋鑑定の鑑定書に証拠能力が認められるのかが争われた事案
被告人は、検事総長であると称して当時の内閣総理大臣に電話し、いわゆるロッキード事件の関連で、勾留中の前内閣総理大臣の処分について直接裁断を仰ぎたい旨申し向けるなどして検事総長の官職を詐称した疑いで起訴された。これに対し弁護側は、偽電話をかけたのは被告人ではないとして、事実誤認があると主張した。そこで、声紋鑑定書に証拠能力があるか否かが争われた。
判旨(東京高裁昭和55年判決)
…声紋による識別方法は、その結果の確実性について未だ科学的に承認されたとまではいえないから、これに証拠能力を認めることは慎重でなければならないが、…各種機器の発達及び声紋識別技術の向上に伴い、検定件数も成績も上昇していることにかんがみれば、一概にその証拠能力を否定し去るのも相当でなく、その検査の実施者が必要な技術と経験を有する適格者であり、使用した器具の性能、作動も正確でその検査結果は信頼性あるものと認められるときは、その検査の経過及び結果についての忠実な報告にはその証明力の程度は別として、証拠能力を認めることを妨げない…。
コメント
本件決定では、声紋鑑定が未だ科学的に承認されていないことから、証拠能力を認めることについて慎重でなければならないとしながらも、①検査の実施者が必要な技術と経験を有する適格者であること②器具の性能、作動が正確でその検定結果は信頼性のあるものと認められること③検査の経過および結果についての忠実な報告であることを条件に、証拠能力を認めました。