銃刀法違反で逮捕と言われたら、拳銃を発砲する、刃物を振り回すなどの事例を連想される方も多くないのではないでしょうか。しかし、それだけではありません。
実際には、「持っていただけ」で犯罪になる可能性もあります。
「たまたまカバンの中にナイフが入っていた」「護身用に持っていただけ」「趣味のキャンプの帰り道だった」、そんな状況でも場合によっては銃刀法違反として逮捕される可能性があります。
日本では、銃や刃物といった危険物の取り扱いに対して非常に厳しい法律が定められており、違反した場合は重い刑罰が科されることも少なくありません。中には、本人に悪意が無かったとしても、「正当な理由」が認められなければ違反とされるケースもあります。
今回は、「銃刀法違反とは何か」「どのような行為が違反に該当するのか」「実際に逮捕されるケース」「逮捕されたときの流れや対応方法」を弁護士・坂本一誠が解説していきます。
銃刀法違反とは
銃刀法違反とは正式名称を、銃砲刀剣類所持等取締法(以下、銃刀法違反とする)といい、この法律に違反する行為を指します。日本においては、銃や刀剣類といった危険物の所持や携帯に対して非常に厳しい制限が設けられており、違反すると刑事罰の対象となります。
銃刀法は、国民の生命や身体の安全を守ることを目的としており、銃器、刀剣類、模造銃器などの所持や使用、携帯について細かく規定しています。銃や刃物などを不法に所持・携帯・製造・輸入・譲渡した場合などに銃刀法違反に該当します。
そして、この法律は単に「銃」や「刀」だけにとどまらず、日常で見かけることもあるナイフや特殊な器具、コレクション品なども規制の対象となっており、「知らなかった」では済まされないケースが多くあります。
銃器や刀剣類の所持
銃刀法において、銃器の不法所持は厳しく規制されています。
許可なく銃砲を所持することは違法であり、エアガンやモデルガンであっても、その威力や構造によっては規制の対象となります。特に、威力が高いエアガンや外見が本物の銃器に似ている模造銃は、違法となる可能性が高いです。エアガンを改造して発射威力を高める行為も違法となり、銃刀法違反に該当します。
また、銃の一部であっても、違法に所持することは処罰の対象となります。例えば、拳銃の部品を所持していた場合には、完成品でなくても銃刀法違反に該当する可能性はあります。
他にも、刃渡り15cm以上の刀、剣、薙刀などの刀剣類、刃渡りが6cm以上の刃物(包丁、ナイフなど)を、正当な理由なく所持・携帯することも銃刀法違反に該当します。例えば、夜間に街を歩いている際にポケットにカッターナイフを入れていた場合などの護身用の場合でも銃刀法違反に該当する可能性はあります。また、ナイフ自体が装飾品であっても、その形状が刀剣類に類似している場合には違法とされるケースもあります。
銃刀法違反の成立要件と罰則
銃刀法違反が成立するためには、単に刃物や銃器を「持っていた」という事実だけでなく、いくつかの法的要件を満たしている必要があります。ここでは、そのポイントを具体的に説明します。
銃刀法違反の成立要件
まず、銃刀法違反の成立には大きく分けて①「対象物の該当性」と②「正当な理由の有無」の2つが重要です。銃刀法で規制されているのは、一定の基準を満たした武器類です。
具体的には、刃渡りが15cm以上の刀剣類や、刃渡りが6cm以上の刃物、拳銃、ライフル、散弾銃、空気銃などが該当します。 これらの物品に該当するものを、所持または携帯していることが違反の第1条件です。
次に、②の正当な理由の有無である、「なぜ所持していたか」が問われます。
例えば、料理人が業務中に包丁を持ち運んでいる場合や、趣味で収集している刀を自宅に保管している場合は、正当な理由があると判断されます。しかし、キャンプ帰りで使用済みのナイフを車に置いたままにしている場合などは、正当な理由と認められない可能性があります。 つまり、「使用目的」「場所」「時間」「携帯の必要性」などを総合的に見て、合理的な説明がつかない場合は銃刀法違反が成立することになります。加えて、「故意」、違反の根拠となる事実を認識していたかどうかも成立要件の一つです。
もっとも、過去の判例では「知らなかった」という言い分が信用されなかったケースも多く、実際には意図せずして保管していたとしても処罰されるリスクがあるのが実情です。このように、成立要件は「何を持っていたか」だけでなく「なぜ・どこで・どうして持っていたのか」まで詳細に判断されます。些細な不注意や認識不足、思わぬ法的リスクを招くことがあるのです。
銃刀法違反における罰則
- 主な罰則銃器の不法所持:1年以上10年以下の懲役
- 刀剣類の不法所持:2年以下の懲役または30万円以下の罰金
- 刃物の不法携帯:1年以下の懲役または30万円以下の罰金
これらの罰則はかなり重く、特に銃器関連は「無期または3年以上の懲役」といった厳罰も規定されています。過去の判例でも、無許可で拳銃を所持していた者が厳罰に処されたケースが多数存在します。
銃刀法違反に該当しない刃物の場合
銃刀法では、刃物の所持・携帯について厳しい制限がある一方で、「刃渡りが短いナイフ」や「工具としてのカッター」など、銃刀法違反には該当しない刃物も多く存在します。しかし、それらの刃物でもほかの法律に抵触する可能性があるため、注意が必要です。
以下に、代表的な2つの法令と適用ケースを紹介します。例えば、カッターナイフをポケットに入れたまま深夜の街を歩いていた場合などが該当します。
軽犯罪法違反
銃刀法に該当しない刃物でも、「正当な理由なく刃物を隠し持っていた」と判断された場合は、軽犯罪法第1条第2号に違反する可能性があります。主な罰則は、拘留(30日未満)または科料(1万円未満)ですが、前科が付く可能性があるため軽視できません。
軽犯罪法違反第1条第2号(抜粋)
「正当な理由がなくて、刃物、鉄棒その他人に害を加えるのに使用されるような器具をかくして携帯していた者」
凶器準備集合罪(刑法208条)
さらに重大なのが、「凶器準備集合罪」に該当するケースです。あまり一般には聞きなれない法律ですが、暴行行為を行う意図を持って複数人が集合し、かつ凶器を所持していた場合に適用されます。
例えば、特定の相手に対して集団で威嚇・暴力を計画し、刃物や木刀などを持参して集まった場合などが該当します。この罪は、たとえその場で暴力を振るわなかったとしても、「暴力を行う意図を持っての集合・凶器所持」が認められれば成立します。
刑法第208条の3(抜粋)
「凶器を準備し、かつ、これを携えて集合した者は、三年以下の懲役に処する。」
銃刀法違反で逮捕されるケースとは
銃刀法違反で逮捕されるケースは、必ずしも「明らかな犯罪行為」に限られるわけではありません。日常生活の中で、本人が特に意識せずに行った行為であっても、銃刀法違反で逮捕に至る事例は存在します。
たとえば、キャンプや釣りといったアウトドア活動で使用したナイフを、そのまま車内に置きっぱなしにし、目的を終えた後にも刃物を車に積んだまま帰宅途中に職務質問などを受けると「正当な理由がない所持」と判断され、銃刀法違反が成立する可能性があります。
また、護身用のためにナイフを持ち歩いていたというケースも注意が必要です。日本の法律では、たとえ護身目的であっても、刃物を携帯すること自体が厳しく制限されており、こうした理由は原則として「正当な理由」とは認められません。そのため、「身を守るつもりだった」という善意からの行動でも、逮捕という結果に繋がってしまう可能性があるのです。
インターネット上で購入した模造銃にもリスクがあります。一見して本物と見分けがつかないような外観を持つ模造銃や、威力が一定以上あるエアガンなどは、銃刀法の規制対象に該当する場合があります。性能や構造によっては、実際に弾を撃てなくても「銃器とみなされる」可能性があり、所持しているだけで違法とされてしまうおそれがあります。
このように、銃刀法違反による逮捕は、「危ないことをしようとした人だけが対象になる」というわけではありません。知らず知らずのうちに法律の枠を超えてしまい、結果として逮捕という重大な事態に発展することもあります。刃物や銃器に関する取り扱いには、常に細心の注意を払い、法律に即した行動を心がけることが重要です。
実際に逮捕されると、勾留中は外部との連絡が制限されるだけではなく、生活や仕事に大きな影響が出ます。万が一逮捕された場合には、刑事事件に詳しい弁護士に早急に相談し、取り調べに対してどのように対応するのか検討することが必要です。
銃刀法違反で逮捕されたら?
銃刀法違反で逮捕された場合、次のような流れで手続きが進行します。
逮捕された場合には、警察署内の施設である留置場に身柄を拘束されます。その後、逮捕から48時間以内に警察署から検察庁に身柄が送られます。そして、検察官は、身柄が送られてから、24時間以内に、①さらなる身体拘束を行うために、裁判所に対して、被疑者の勾留を求める請求をするか、②被疑者の勾留を求める請求をせずに釈放するかを決定します。
「勾留」とは、逮捕後に更に長期間身柄を拘束する裁判とその執行のことをいいます。検察官により勾留が請求された場合は、裁判官が被疑者に対して質問を行う手続(勾留質問)を経た上で、裁判官により、勾留するかどうかの決定がなされます。裁判官は、法律上、被疑者が犯罪を行った相当な疑いが認められるか、被疑者による罪証隠滅や逃亡のおそれがあると疑うに足りる相当な理由があるか、勾留の必要性があるかという点から、被疑者の身体を引き続き拘束するべきかどうかを検討し、検察官の勾留請求を認めるか否かの判断を行います。
これらの判断により、裁判官によって勾留決定がなされた場合には、最大で勾留が請求された日から数えて10日間身体拘束されることとなり(さらに最大で10日間勾留期間が延長されることもあります)、それまでに、捜査機関が必要な捜査を行い、検察官が起訴をするかどうか決定します。つまり、逮捕されるとまず勾留が決まるまでに最大3日間の身体拘束がなされ、さらに、勾留決定が認められてしまうと、起訴・不起訴が決まるまでに最大20日間の身体拘束がなされることになります。
このように、逮捕から裁判に至るまでの過程は時間と労力、そして精神的な負担を伴います。家族や職場への影響も大きく、社会的な信用を大きく損なうリスクがあります。
銃刀法違反で逮捕された時は弁護士へ相談を
銃刀法違反で逮捕された場合、まず何よりも弁護士への相談が重要です。
刑事事件に詳しい弁護士は、警察や検察への対応、取り調べに対するアドバイス、身柄解放の手続き、不起訴処分の交渉など、専門的な支援を行います。逮捕された場合には、迅速に弁護士を探し、接見(面会)を依頼することで、不起訴や身柄解放の可能性が高まります。
身柄解放活動と取調べのアドバイス
銃刀法違反は、他の事件と比べると被害者や関係者が乏しく、刃物や拳銃といった物的証拠もあるので、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由が類型的に乏しいことが多いです。そのため、早期に弁護士に依頼して、身柄解放のために弁護活動を行ってもらうことで、逮捕されたとしても勾留を避けられる可能性があります。
速やかな身体拘束のためには、弁護士がなるべく早く活動を始めて検察官や裁判所に提出するための資料を収集し、意見書を作成する必要があります。そのためには、少しでも早く弁護士に依頼する必要があるでしょう。
逮捕されている事案か在宅事件かに関わらず、警察や検察の取調べに対する方針を弁護士と相談して決定することも重要です。特に、銃刀法違反の事案では、物的証拠や刃物等の発見状況により刃物等を携帯していた事実は証拠から明らかであることが少なくありません。そうすると、どのような経緯で刃物等を携帯していたのか、また携帯の事実を被疑者・被告人が認識していたかという故意の点が重要な争点となることが多いです。
また、仮に意図的に刃物を携帯し、形式的には銃刀法違反に該当するとしても、その背景にやむにやまれぬ事情があるなど、情状事実を検察官に対して主張することで不起訴処分となることもあります。いずれにせよ、捜査機関に伝えたい事実があるとして、それを取調べで被疑者本人が供述をすべきなのか、それとも弁護人が意見書などを作成して提出した法が良いのかという点については、刑事事件に精通した弁護人の適切な判断が必要です。
以上のような、早期の身柄解放と、刑事手続を有利に進めるための取調べへの助言という観点で、できるだけ早く弁護士に相談することが必要です。
銃刀法違反で起訴された場合の見通しと量刑
万が一起訴された場合、銃刀法違反の内容によっては、2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科されることがあります。ただし、初犯や反省の意思が認められるケースでは、執行猶予がつく可能性もあります。
一方で、不起訴処分となれば前科はつかず、将来的な就職や社会復帰にも大きな影響は残りません。不起訴を目指すためにも、早い段階での対応が非常に重要になります。
銃刀法違反の解決事例
当事務所の銃刀法違反に関する解決実績をご紹介します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
銃刀法違反は、知らずに行ってしまう可能性もある一方で、刑事罰が重く人生に大きな影響を及ぼす重大な違反行為です。刃物や銃器、模造品を所持・携帯する場合は、「正当な理由」がなければ違反となります。
また、銃刀法違反に該当するかどうかは、物品の種類や状況、意図によって判断され、違反した場合は、逮捕・勾留・起訴といった厳しい手続きが待ち受けています。そのため、万が一逮捕された場合は、速やかに弁護士に相談することが重要です。日常生活の中でもうっかり違反に該当するリスクがあるからこそ、銃刀法についての正しい知識を持ち、慎重に行動することが求められます。