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名誉毀損で逮捕されたら? 弁護士が解説

令和2年5月、女性プロレスラーが、SNS上の誹謗中傷を理由に自殺するという痛ましい出来事がありました。今や、TwitterやInstagramなど各種SNSの普及によって、誰でも自由にインターネット上に発信ができる時代です。

しかし、自由な発信が許されるからこそ、一時の感情が行き過ぎた投稿に及び、関係者を深く傷つけ、時には冒頭の事件のような最悪な事態を招くことがあります。他人を傷つける過激な投稿は、いわゆる名誉毀損に当たる可能性があります。

どのような場合に名誉毀損が成立するのか、名誉毀損に該当して逮捕されたらどうすべきかについて弁護士・坂本一誠が解説をします。

名誉毀損とは

刑法では、名誉毀損罪が定められています。

刑法230条1項(名誉毀損)
①公然②事実を摘示し、③人の名誉を毀損(きそん)した者は、その④事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

「①公然」とは

一般的には、「公然」とは不特定又は多数人が知り得る状態と定義されています。「不特定」もしくは「多数」のどちらかの状態であればよいのです。加えて、「特定」または「少数」に対して行ったものであっても、その聞いた人が他者に伝える可能性があることをもって、公然性を満たす場合があると実務は運用されています。

実際の判例でも、被告人宅で、被害者の弟及び火事見舞いに来た村会議員に対し、更に被害者宅で、被害者の妻、子、その他3人がいるところで、それらの者に対して「被害者は放火犯である」と発言した事案で名誉毀損の成立が認められました。その一方で、検察官と検察事務官と被害者のいるところでの名誉毀損行為については、公然性が否定されました。
これは、検察官や検察事務官は守秘義務を負っており、周囲に伝わる可能性が無いからと理解することができます。

最近では、インターネットのTwitterやFacebookなどでの名誉毀損行為が問題になっています。民事事件に関する裁判例ですが、ウェブページ上に名誉毀損となる文書を掲載した事案で、インターネットを経由して不特定多数の人が見ることができることや、実際に、検索エンジンで被害者の氏名を検索すれば検索結果として出てくる可能性が高かったことを理由にして、公然性を認めました。刑事事件でも同様の判断をされる可能性が高いですので、TwitterやFacebookで名誉毀損になるような書き込みをすれば、「公然」の要件を満たすといえます。

②「事実を摘示」とは

名誉毀損は事実を摘示することが要件となります。「事実」とは、人の社会的評価を害するに足りるものである必要がありますが、価値判断や評価だけでは事実とはいえないとされています。

したがって、例えば「Xは売国奴」と抽象的な評価を記載したビラを配布したとしても、名誉毀損とはなりません。「売国奴」というのは単なる評価であって、事実を何ら摘示していないからです。ただ、事実を摘示しなかったとしても、侮辱罪(刑法231条)は成立する可能性があります。
侮辱罪の刑罰は、拘留(1日以上30日未満の間、刑事施設に入る刑(刑法16条))または科料(1000円以上10000円未満の金銭を支払う刑(同法17条))と定められています。

③「人の名誉を毀損(きそん)」とは

それでは、人の名誉を毀損するとは何なのでしょうか。これについては、人の社会的評価を害する恐れのある状態を発生させることと定義されています。裁判例では、次のような表現が名誉毀損行為と判断されています。いずれも、銀行や個人の社会的評価を害するような表現内容であるといえます。

  • ○○銀行はやってはいけない迂回融資、ここで取り立ててはいけない者から残債を取立て更に裁判で争われるとその裁判官まで買収する。裁判官だけではありません。書記官も全てです。
  • 被害者はAが大好きです。他の人のお父さんを寝取るのが得意です。

④「事実の有無にかかわらず」とは

時に誤解を受けることがあるのですが、名誉毀損は、被害者の社会的評価を下落させる内容が真実であったとしても成立します。例えば、Xが本当に不倫をしていたとしても、その「Xが不倫をしている。」とTwitterやFacebookに書き込んだり、ビラを配ったりすれば、原則として名誉毀損罪は成立します。

それでは「人の悪事を暴いてはいけないのか?」と思われるかもしれませんが、そのような場合は一定の条件で処罰されないという制度が用意されています。それは、次の項で説明します。

真実等であれば名誉毀損の刑が科せられない場合

先ほど、説明をしたように、原則として、真実を摘示(表明)し、それが人の社会的評価を低下させる危険性がある内容であれば、名誉毀損罪は成立します。しかし、日本は表現の自由が保障された国です。また、悪事が暴かれることで、社会がより良くなっていくともいえます。そこで、刑法は次のような条文を規定して、一定の場合の名誉毀損罪については、刑を免除すると定めています。

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
1項 前条第1項【名誉毀損】の行為が①公共の利害に関する事実に係り、かつ、②その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、③真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

まず、基本は1項です。①~③がポイントとなります。例えば、「Xは不倫をしている。」という内容をTwitterに書き込んだという事案を前提に考えましょう。

①「公共の利害に関する事実」とは

「Xは不倫をしている。」という内容が公共の利害に関する事実といえるかが問題となります。まず、2項と3項を確認しておきましょう。すると次のようなことがいえます。

(1) 起訴されていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実といえる。(同条2項)
(2) 公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実の場合は、公共の利害に関する事実かどうかは問題とならない。(つまり、公共の利害に関する事実といってもよい。)(同条3項)

しかし不倫は犯罪行為ではないですし、Xが公務員や、候補者でもない場合はこの2項と3項は関係ありません。また、公的な立場の人間の公的行動に関する事実が公共性を有することには争いはありません。しかし、「Xは不倫をしている。」との内容は、まさに私人による私生活上の行状であることから問題となるのです。この点については、最高裁の判例があり、次のような場合には、私人の私生活上の行状も公共の利害に関する事実といえるとされています。

私人の私生活上の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないしは評価の一資料として、「公共の利害に関する事実」にあたる場合があると解すべきである。

月刊ペン事件

この判例は、宗教団体の会長の女性関係が乱脈をきわめており、同会長と関係のあった女性2名が同会長によって国会議員として国会に送り込まれていたといった表現について名誉毀損罪が問題となった事案でした。最高裁判所は、以下をあげて、私人の異性関係は私生活上の行状ではありますが、「公共の利害に関する事実」にあたることを認めました。

  1. 被害者は、多数の信徒を擁する、宗教団体の、ほぼ絶対的な指導者であること
  2. 被害者の言動は、信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあったこと
  3. 被害者の宗教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動をとおして社会一般に対しても少なからぬ影響があったこと
  4. 女性関係の相手として上げられた女性が、元国会議員であったこと

これらと比較すると、普通のサラリーマンが不倫をしている事実については、「公共の利害に関する事実」というのは難しいと思われます。なお、「公共の利害に関する事実」の認定に際しては、民事事件で問題になった事案も参考になりますので、いくつか紹介をしておきます。

民事事件でも刑事事件と同様の枠組みで損害賠償を認めるかどうかの判断がなされていますし、更に、民事事件で適法となるような事案について、刑事事件で有罪にするということは同一の事実関係を前提にする限り、あまり考えられないからです。

    (1) 「Xは団地の管理組合で不正な運営を行っており、団地の規約違反の方法で役員選出のための臨時総会の開催通知を出した。」との内容が掲載された文書を配布した行為について、管理組合の構成員である団地住民にとっては、上記の事実は公共の利害にかかわる事実であることを認めた事例
    (2) 会社Xは人材派遣業を行っている会社であるが、これに対して加害者はインターネット上のホームページに「働く人間を食い物にして成長して来たような企業」「この会社はスタートから道徳的に問題のある設立をしている。」といった事実を書き込んでいた。このような事実の摘示について裁判所は「従業員に対し、労働基準法に違反する労務管理がされ、経営者がこのような労務管理を積極的に推進している事実を摘示するものであることからすれば、公共の利害に関する事実に係るものであり…」と公共の利害に関する事実であることを認めた事例

このような事例について、民事の事案ではありますが、裁判所も公共の利害に関する事実であると認めており、参考になります。

②その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合とは

ここでは、その表現行為が、専ら公益目的であることが必要とされています。「専ら(もっぱら)」となっていることから、主として公益目的があればよいと理解されています。したがって、少しぐらい仕返しをしてやろうという思いがあっても許されることになります。意図の認定にあたっては、表現方法や事実調査の程度などが考慮されます。

③真実であることの証明があったときとは

公共に関する事実について、主として公益目的でなされた表現であっても、被告人側で、真実であることの証明をしなければなりません。この条文を素直に読むと、真実であることの証明に失敗をすると、刑の免除はされないように読めますが、真実であることの立証に失敗しても、真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときは、名誉毀損罪は成立しないと判断した最高裁の判例があります。

第三者の社会的評価を害するような行為を行う場合については、公共の利害に関する事実であることは当然の前提ですが、確実な資料、根拠を用意する必要があります。

名誉毀損で逮捕されたら

名誉毀損罪は、起訴するには被害者の告訴を必要とする親告罪です(刑法232条1項)。そのため、例えばインターネット上で自身を中傷する書き込みを見た被害者が警察に告訴をするなどして、警察の捜査が開始されます。
警察の捜査には、被疑者を警察署に呼び出して任意で取調べを行い、それ以外の時間は通常の日常生活が可能となる場合と、被疑者を逮捕・勾留して身柄を拘束した状態で捜査を進める場合があります。被疑者を逮捕勾留する目的は、被疑者が逃げたり証拠隠滅をするのを防ぐためです。

名誉毀損罪の場合、例えばSNS上で他人を中傷する書き込みをしたような客観的な記録が残っていて、被疑者本人も書き込みを認めているような場合には、証拠隠滅の余地がほとんどないので逮捕せず、在宅事件で進めることが多いです。もっとも、書き込みが繰り返しされていて悪質であり、重い刑事処分が予想される場合や、複数の関係者が目撃している状況で名誉を毀損する発言を被害者に行うなど、関係者との口裏合わせなどの証拠隠滅が想定される場合には逮捕されることもあります。

逮捕されると、警察は48時間以内に被疑者を検察に送致し、検察は24時間以内に勾留請求を裁判所にするか釈放するかを決めなければなりません。検察官が勾留を請求し、裁判所が許可すると10日間の勾留が決定します。検察官は更に10日間の勾留の延長を請求することができ、勾留の最終日(満期)までに被疑者を起訴するか不起訴にするか、それとも起訴不起訴の決定を保留して釈放するかを決めることになります。

そのため、名誉毀損罪で逮捕された場合にきちんと弁護人を選任して適切な対処をしなければ、何日も警察署で過ごすことを余儀なくされ、失職など日常生活に甚大な影響が出ます。これを避けるためには、被害者と示談を成立させることが重要です。示談をして、被害者が告訴を取り下げることとなれば、名誉毀損罪は親告罪なので、検察官は起訴することはありません。真実であることや、十分な根拠をもって表現行為を行ったことについて警察官や検察官に理解してもらうためには、法律や判例についての十分な知識を持つことが必要となります。また、一般の方が自分で示談を行うのは、被害感情もあり、難しいでしょう。弁護士等の法律専門家の援助を受ける必要があります。

起訴されれば無罪判決とならない限り有罪となり前科がつくことになります。名誉毀損罪で逮捕された場合、1日でも早く身体拘束を解くためにも、前科を回避するためにも、弁護士の力が必要なのです。

まとめ

以上のように、名誉毀損罪で逮捕された場合には、長期間の勾留により生活に大きな影響が出て、起訴されれば前科が付く可能性が高くなります。誰でもインターネットに書き込むことのできる時代だからこそ、一時の感情で誰もが名誉毀損を問われる可能性のある時代になっています。万が一、名誉毀損で警察の捜査を受けたり、家族が逮捕されてしまったという場合には、速やかに弁護士にご相談ください。

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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
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上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。

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