この記事を読まれている方は接見というどんなことをイメージされるでしょうか。
テレビ等で、アクリル板越しに弁護士と被疑者が会話をし、被疑者が弁護士に対し冤罪を訴えて、涙をするといった映像を見たことがある方も多いと思います。
しかしながら、接見(面会)で実際にどのような話をし、弁護士との接見にどんな役割があるかについて知らない方も多いのではないでしょうか。
結論から言って、接見は、単に被疑者被告人が事件の話をする機会ではありません。数多くの問題を含む我が国の捜査機関からの取調べに対抗するため、被疑者被告人に与えられた数少ない対抗手段の1つなのです。以下では、我が国における取調べの密行性や調書至上主義の問題に触れた上、接見の果たす役割について弁護士・坂本一誠が解説します。
接見とは
接見とは、逮捕・勾留により身柄を拘束された被疑者・被告人が弁護人と面会することをいいます。
警察官や検察官(捜査機関)に身柄を拘束されると取調べが行われます。そして、この取調べにはいくつかの問題が含まれていますので、そのような取調べに備え対抗するべく、弁護士と接見をし、取調べに対するアドバイスを受けることは非常に重要です。
ここで、我が国の取調べの問題として具体的にどのようなものが考えられるのでしょうか。以下、この点について説明します。
取調べにおける密行性の問題
我が国において、身体拘束下での取調べは、最大23日間行うことができます。この間、被疑者は圧倒的力をもつ捜査機関から、徹底的な取調べを受けることになります。時には、「共犯者は素直に話をしているぞ」等と心理的な揺さぶりを受けたり、「今認めれば悪いようにはならない」等と利益誘導とも思われる手法で取調べを受けることもあるでしょう。
このような過酷な取調べが行われる可能性があるにもかかわらず、我が国の現行法制の下において、捜査機関からの取調べに対し弁護人の立会いについては、法律上の権利としては認められておらず、事実、弁護士が取調べに中々立ち会うことができない状況になっております。したがって、被疑者は、捜査機関からの取調べを受ける間、誰とも外部の人間と相談できない状況に置かれてしまうことになるのです。このような取調べを受けた結果、罪を犯していない人間が、虚偽の自白をしてしまうことは、決して稀なことではありません。
虚偽の自白まではしなかったものの、自身の事実の認識は異なるにも関わらず、捜査機関に言われるがまま、話を合わせて供述してしまったということも少なくありません。どれだけ社会的に評価され、社会的地位のあった人間であったとしても、誰にも相談できない状況下で、圧倒的な力をもつ捜査機関と対峙した時、自我を保つことは決して容易ではなく、前述のような供述をしてしまうことは往々にしてあるのです。
調書至上主義の問題
前述したような取調べの中で、被疑者が供述した内容を基に供述調書が作成されることになります。そのため、当該供述調書の内容自体、そもそも取調べの方法からして、被疑者が自身の記憶に基づいて任意に供述した内容といえるかは、疑問が残るところではあります。しかしながら、更に問題なのは、本来被疑者と捜査機関の取調官の問答であったはずの供述が、被疑者が物語としてそのように語ったかのように、取調官により供述調書が作成されてしまうことです。捜査機関の物語が、被疑者が語った物語として、供述調書に記載されてしまうのです。
その上、供述調書に何を記載するかは基本的に取調官に委ねられていることから、被疑者が取調官に語った内容がすべて供述調書にされるわけではなく、被疑者が語ったはずの内容が供述調書から欠落していることも少なくありません。また、前述したように、供述調書は、取調官が作成しますから、被疑者の実際のストーリーとは大なり小なり必ず齟齬が生じるにもかかわらず、被疑者が語った物語として、取調官によって供述調書が作成されてしまうのです。
確かに、取調べの最後に供述調書の内容に誤りがないかについて確認した上、署名押印することが求められます。しかし、この確認も、供述調書を単に読み聞かせるだけで済まされることも多く、仮に当該供述調書を見せてもらえたとしても、その内容を具に確認する機会が与えられることはあまりないでしょう。そもそも、被疑者は、捜査機関からの取調べという極度のストレスに晒されている上に、そのような短時間で自身の事実の認識と誤りがないか、正確に確認することができるはずがありません。それにもかかわらず、供述調書に、署名押印をした結果、当該供述調書に被疑者の語った内容が一切の誤りなく記載されたものとして、公判廷に提出されることになるのです。
供述調書は、裁判においても、絶対的な力を持ちます。供述調書上の、被疑者供述の任意性は安易に認められ、当然のごとく、公判廷に証拠として顕出されることになります。そして、被告人が、公判廷において、当該供述調書と異なる弁解をすれば、公判廷において突如として不合理な弁解を始めたとして、検察官から糾弾されることになりますし、供述調書上での供述が、被疑者にとって不利益な事実であればあるほど、高度の証明力を持つ事実として、裁判官の判断に重大な影響を与えることになってしまうのです。
弁護士による接見(面会)と家族・知人による面会の違い
このように、重要な局面では弁護士に接見を依頼する事が重要です。では、弁護士と家族の面会にどういった差があるのでしょうか。
いつから面会することができるか
家族や知人は、本人が逮捕された直後から3日間は原則として面会することができません。ここで、逮捕後の手続について簡単に説明します。本人が逮捕されると3日以内に勾留されるか否かが決定され、勾留される場合には引き続き10日間の身柄拘束がなされます。はじめの3日間の身柄拘束を逮捕といい、引き続く10日間の身柄拘束を勾留といいます。ですので、家族や知人は本人が逮捕されてから勾留が開始するまでの3日間は本人と面会することはできません。これに対して、弁護士は逮捕直後から面会することができるので、身柄解放までがスムーズに行うことができます。
面会ができる日時、時間、回数
家族や知人は、平日の指定された時間(警察署によっても異なりますが大体9時から17時ごろまで)しか面会できず、接見時間も15分から20分と限られています。また、1日1回だけ被疑者が面会できる決まりになっているため、本人がすでに他の人と面会していた場合には、その日は家族であっても面会することはできません。これに対して、弁護士の面会には時間や回数の制限はなく、土日問わず24時間365日何回でも面会することができます。
留置施設職員等の立会い
家族や知人が面会する場合は、留置施設職員が立ち会い、会話の内容を記録することとなっています。そのため、会話の内容が秘密にされることはありません。これに対して、弁護士は立会人なしで行うことができますので、捜査機関に話した内容を知られることはなく、自由に会話をすることができます。
接見禁止が付いている場合
接見禁止とは、弁護士以外の人との面会を禁じる裁判所・裁判官の処分をいいます。この接見禁止がついている場合は家族であっても面会することはできません。これに対して、弁護士は接見禁止が付いていても弁護士は自由に面会をすることができます。
本人が取調べ等を受けている場合
本人が取調べを受けている場合や、捜査の立ち会いをしている場合には、原則として面会することはできません。これに対して、弁護士は被疑者が取調べを受けている最中であっても、取調べを中断して面会することができる場合があります 。
検察庁・裁判所での面会
事件が検察庁に送致されると、検察庁での取調べを受けるため本人は留置施設から検察庁に行くことがあります。また、勾留を決定するか否かの判断のために行う勾留質問のため裁判所に行くこともあります。このように本人が検察庁にいる場合や裁判所にいる場合は、家族や知人は面会することはできません。これに対して、弁護士は検察庁や裁判所の留置施設外であっても面会をすることができます。このタイミングでの面会ができれば、検察官の取調べや裁判官の勾留質問の流れやポイントなどを事前にアドバイスすることができます。
差し入れ
逮捕・勾留された被疑者・被告人に対して、留置所の外部から現金や日用品等を渡すことを差し入れといいます。家族や知人は差し入れをすることができる日時に制限がありますが、弁護士はいつでも差し入れをすることができます。
このように、家族や知人の面会では接見できる時間やタイミングなど様々な制限がある一方で、弁護士との面会は被疑者・被告人の権利を守るため柔軟に認められているといえます。
国選弁護人、私選弁護人、当番弁護士の接見の違い
突然の逮捕で今後どうなってしまうのか、取調べにはどのように対応すればよいのか不透明なことも多く不安になることでしょう。そういった場合には、国選弁護人制度や、当番弁護士制度を利用することや私選弁護士に依頼をすることで、逮捕直後から弁護士と面会することができ、今後の手続の流れや被疑者の権利について説明を受けることができます。また、取調べの対応についてアドバイスを受けることもでき、逮捕直後の不安を軽減することができます。
弁護士の種類 | 利用条件 | メリット | デメリット(注意点) |
---|---|---|---|
国選弁護人 | ・被疑者が勾留されていること ・現金もしくは預金が合わせて50万円未満であること(例外あり) |
無料 | ・逮捕直後は利用できないので、初動が遅れる ・弁護士を選べない |
当番弁護士 | ・逮捕されていること ・弁護人を選任していないこと |
無料、逮捕直後から利用できる | ・1回しか利用できない ・弁護士を選べない |
国選弁護人制度とは、勾留された被疑者や被告人が貧困等を理由に弁護人をつけることができない場合に、国が費用を負担して、裁判所等が弁護人を選任してくれる制度です。身柄拘束されている本人の請求や裁判所等の職権によって国選弁護人がつけられます。
当番弁護士制度とは、逮捕された人が、1度だけ無料で弁護士と面会し相談することができる制度です。本人だけでなくご家族も依頼することができ、今後の流れや取調べの対応などについて弁護士に相談することができます。いずれも弁護人選ぶことはできないので刑事事件に詳しい弁護士が来るという保証はありません。
そこで、私選として、刑事事件に詳しい弁護士を依頼することで、身柄解放活動を早期に行うことができます。私選弁護人の場合は、逮捕直後から接見することができ、当番弁護士のように接見の回数制限もありません。刑事事件はスピーディーな対応が肝となります。そのため、逮捕直後から最善の弁護活動を尽くし、被疑者の早期身柄解放に注力することが重要です。また、弁護活動は継続的に粘り強く行うことで功を奏します。私選弁護人であれば、逮捕直後の接見など迅速な対応はもちろんのこと、ご家族との連携や再犯防止策などトータルサポートが可能です。当事務所では、接見先行サービスをご用意しており、ご家族からのご依頼を受け、本人が逮捕されている捜査機関へ弁護士が直行します。初回接見から30時間で事件が解決した例もあり、スピードを重視した弁護活動を行っております。
弁護士が接見することでもたらされるメリット
これまで述べてきたような取調べや供述調書の問題に対処し、強力な捜査機関と対抗するための重要な制度が、弁護士との接見です。この接見をいかに充実させ、弁護士から適切なアドバイスを受け、捜査機関からの取調べに臨むかが、カギとなります。
取調べに対するアドバイス
前述のとおり、捜査段階で一度作成された供述調書は、裁判においても決定的な効果をもつことになります。したがって、被疑者が、捜査機関からの取調べにおいて、何を供述し、何を供述調書に残してもらうかといったこと等が、非常に重要になります。そこで、被疑者は、弁護士と接見において、綿密な打ち合わせを行い、捜査機関からの取調べにおいて、黙秘をすべきかどうか、署名押印をすべきかどうか、しっかりと調書に残してもらうべき供述はなにか、等具体的な戦略を立てた上、捜査機関からの取調べに臨むことが必要になります。この際、弁護士から適切なアドバイスを受け、自信をもって捜査機関からの取調べに臨むことにより、自身の認識とは異なる形で供述調書が作成されてしまうことを防ぐことができるでしょう。
また、被疑者が捜査機関から違法不当な取調べを受けた場合には、接見の際に、弁護士に対しその事実を伝え、弁護士から捜査機関に対し、抗議をしてもらうことも必要になるでしょう。
精神的なサポート
もっとも、弁護人との接見の役割は、捜査機関からの取調べ対応だけではありません。接見は、被疑者の最大23日間にも及ぶ孤独な捜査機関との闘いを精神的にサポートする役割も果たします。被疑者は、接見禁止(面会禁止)が付されている場合、家族とさえも面会をすることが許されず、外部との交流が遮断された状況に置かれることになります。このような状況下で、被疑者と面会ができるのは弁護士だけです。被疑者は、接見において、日々の苦悩等を弁護士に吐露し、弁護士がそれに真摯に耳を傾け、被疑者に弁護士と話をしている時だけ、ほっとした気分になってもらう、接見はこのような重要な役割も持っているといえるでしょう。
初回接見を弁護士に依頼する際の注意点
逮捕されてしまった人の多くは法律の知識がありません。そのため、弁護士との初回接見の際、どのようなことを聞けばいいのか、どのようなことを話せばいいのか疑問や不安を抱えている人も多いことでしょう。そこで、弁護士との初回接見ではどういった対応をすればいいのかについて解説します。
弁護士からの説明をよく聞く
弁護士との初回接見では、弁護士から刑事事件における弁護士の役割を説明され、その後、本件事件の詳細やその認否、弁護士が接見に来るまでの期間になされた取調べではどのようなことを聞かれたのか又話したのか等について聞かれます。そのうえで、弁護士から今後の弁護方針や取調べの対応についてアドバイスがされます。
このように、必要な事項については基本的に弁護士の方から説明があり、事件についても弁護士から質問がされますので、無理に聞かなければならないことを用意する必要はなく、弁護士が話している内容をよく聞き、ご自身の記憶に従ってお話しただだければ問題ありません。この際、わからないことがあればすぐに質問しましょう。
可能な限り正確な情報を伝える
弁護士が事件の見通しを立てるためには、依頼人が体験した事実を正確に把握することがとても大切です。それは、冤罪事件であっても、実際に罪を犯した事件であっても変わりません。一見すると自分にとって不利な事実であっても、法的に見ればそこまで不利でないこともあります。弁護士がその不利な事実を把握することで、適切な弁護活動に繋げることもできます。ですから、話しにくい情報であっても、可能な限り正確な情報を弁護士に伝えることが大切です。
事件が経過していく中で、実は接見で話した内容は嘘であり、本当はこうだったということが判明した場合、それにより大きく弁護方針を変えなければならない場合もあります。刑事事件ではスピードが極めて重要ですので、最善を尽くすためにはいち早く弁護方針を立て、それに従い被疑者の利益のために弁護活動を行う必要があります。嘘をついたことにより弁護方針に影響が出てしまっては当然のごとく被疑者の利益になりません。弁護士には守秘義務がありますので、話した内容が本人の許可なく外部に漏れてしまうこともありません。
取調べの対応についてアドバイスを受ける
すでに述べたように、取調べにおいて作成された被疑者の供述調書は裁判において決定的な証拠になります。当然のことながら警察官や検察官はこのことを十分に理解していますので、取調べでは被疑者に圧をかけ、都合の良い調書を作成することもあります。そのような取調べに対抗するため、弁護士との初回接見では、黙秘権等の重要な権利について十分な説明を受け、何を供述し何を供述調書に残してもらうか等の取調べの対応について適切なアドバイスを受ける必要があります。
疑いをもたれている事件について否認している場合と認めている場合ではその弁護方針に大きな差がありますので、初回接見ではこの点も明確にしておく必要があるでしょう。
事件の流れ・見通しを確認する
初回接見では、事件の流れや見通しについて確認できることも大きなメリットです。
初めて逮捕されてしまった人や、法律知識がない人にとっては、逮捕という緊急事態に直面し、今後どうなってしまうのか多大なる不安におそわれてしまうことも少なくありません。そこで、事件の流れや見通しを弁護士と確認することで、不安を解消し、前向きに事件と向き合うことができます。被疑者の精神的なサポートをすることも弁護士の一つの役割です。不安なことや不透明なことがあれば、すぐに弁護士に質問し、少しでも落ち着いた状態で事件に向き合えるようにすることが重要です。
職場への対応について
逮捕されたことが職場に伝わると解雇される可能性があります。また、逮捕されたことがバレずにいたとしても、身柄が拘束されていては無断欠勤の状態を続けることとなるので、それを理由に不利益を被ることもあります。そのため、初回接見では、職場にどういった説明をするのか、逮捕された旨を伝えないとしても欠勤の理由をどのように説明するのか、誰から職場に説明するのかといったことについても確認する必要があります。
家族や知人への伝言
家族や知人との面会は時間が制限されていたり、そもそも面会が禁じられている場合もあります。逮捕されるとこれまで過ごしてきた環境から隔離されますので、逮捕された本人にとっては心の支えがない状況により大きな不安を抱えることでしょう。そこで、弁護士との初回接見では、家族や友人、恋人などの親しい人に本人の気持ちを伝言として伝えてもらうことで、そのような不安を落ち着かせることができます。伝言を受けた家族などからしても本人の気持ちが聞けたことで少しでも不安の解消に役立てることができます。
早期に弁護士への接見を依頼したことで解決した事例
実際に、当事務所で扱った事例で、早期に弁護士に接見を依頼し、解決に至った事例をご紹介します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。これまで述べてきたように、接見は、被疑者が弁護士と単に事件の話をするというものではなく、被疑者に与えられた数少ない自己の権利を防御するための手段の1つです。弁護士選びを検討される際、接見の重要性についても十分考慮して、検討されるのがよいでしょう。